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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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68 失われた技術

「お呼びですか?」


 扉からニコニコと笑顔で顔を覗かせた大護を、ヴィクターは冷たくあしらう。


「呼んでない」

「そうですか……。班長が私の名前を言ったのが聞こえたので、てっきり呼ばれたのかと」

「うっわ、地獄耳」

「聞こえていますよ、キョウ」


 独り言のつもりで言った言葉を拾われ、キョウの背筋がピンと伸びた。尻尾と耳もだ。


「聞こえていたのなら、呼んでいないことも分かっただろう?」

「壁を隔てていたので」

「壁一枚でお前の地獄耳を塞げるものか。まあいい。三、いや四人分の飲み物を持ってこい」

「畏まりました」


 扉が静かに閉められる。それと同時にヴィクターは大きくため息をつく。


「まったく……。二人はあれみたくなるなよ」

「は、はい」


 朝から疲れ切ったような表情のヴィクターに、アルカとキョウは同情する。

 ヴィクターは頭を軽く振って、話を戻した。


「特異技能について話していたな。どの特異技能も使い込むほどに精度と魔力効率が上がる。危険性が無いのならば普段から使っても良いが、それは慣れてからだ」

「ハイ! 班長。練習のコツとかってありますか?」


 元気よく挙手をしたキョウはヴィクターに質問を投げかける。相変わらず、強くなることに関してだけは貪欲である。


「先ほども言ったが、使い込むことだ。例えば、ただ漠然と特異技能を使うのではなく、魔力消費量や能力の上限と下限、特徴をしっかりと把握したうえで戦闘に組み込んで、初めて使いこなせたと言えよう。それと副次効果も忘れてはいけない」

「副次効果って何ですか?」


 アルカが首を傾げると、ヴィクターは丁寧に説明し始める。


「特異技能が芽生えると、それに付随して一部の能力が少し変化することだ。芽生えた特異技能に関連して変化するため、個人ごとに異なる。例えば私なら、魔力を巡らせた際の魔力消費と負担の軽減だ」


 その説明にアルカは大きく納得する。アルカ自身の副次効果は分からないが、キョウの力が強いのは“怪力”の副次効果だろう。

 そしてもう一つ気になった言葉が、魔力を巡らせた際の負担の軽減だ。オオサカでの戦闘で何度も魔力を巡らせたため、頭痛や倦怠感に襲われた。それを何とかできないものか、と思いヴィクターに質問すると、答えが返って来た。


「完全になくすことは出来ないが、負担を減らすことは出来る。まずは慣れる事だ。何度も繰り返せば負担は軽減する。もう一つは魔力の変化を緩やかにすることだ。多量の魔力をいきなり巡らせたり、急に止めたりするのは大きな負担になる。一分ほど時間をかけてゆっくりと変化させると、負担も少ない」


 ただ、戦場でそんな悠長なことをしている暇があるのかは分からんが、と最後に付け加えた。

 戦場では厳しいかもしれないが、あの時知っていれば、もう少し戦闘が楽になったかもしれない。参考になったので、アルカはお礼を述べる。


「参考になったのならば良い。あと特異技能の練習だが、アルカはこれまで殆ど使ったことが無かろう。人一倍練習は必要だ。そちらも手を抜くなよ」


 それはそうだ。特異技能が芽生えたのはアルカの方が早いが、これまで使っていない。一方のキョウは鍛錬でもたまに使っていたので、特異技能の扱いは慣れているはずだ。そこまでアルカは考えて、ふと疑問が浮かぶ。


「そう言えばキョウって何時、特異技能が芽生えたの?」

「二人同時ではないのか?」

「多分違います」


 二人の視線がキョウに集中する。その視線にたじろぎ、居心地が悪そうに。キョウは口を開いた。


「あー、正確なことはわかんない、です。トウキョウに来てから芽生えたと思います、です」

「ふむ、きっかけは?」

「あー……」


 視線が宙を泳ぎ、唸っているキョウの姿は、アルカにとって見覚えのあるものだった。これは身に覚えがあって、それでいて言いたくない時の癖だ。昔、アルカのおやつを食べた時によくしていた。


「覚えていないか。まあ仕方ない。幼い時ことなら記憶が朧気になることもあろう」


 そう言うヴィクターの目は、ある種の理解を示していた。アルカのように他人に言いにくい事もあるのだから、無理に聞き出す気はないらしい。

 空気が微妙になったところに、タイミングよく飲み物と椅子を抱えた大護が班長室に入って来た。


「お待たせしました。四人分という指示でしたので、私も参加するものだと判断したのですが、間違いないでしょうか」

「その気遣いを是非、私にもしてほしいところだ」


 二人の会話から察するに、どうやら大護は班長室の扉の前で入るタイミングを窺っていたようだ。鋭敏に空気の変化を感じ取り、すかさず登場したらしい。大護も大概、シリアスブレイカーである。

 大護は各自に飲み物を配り、素早くヴィクターの近くに椅子を設置して陣取る。その動作に淀みはない。


「さて、話題を変えよう」


 ヴィクターはそう言って、机の引き出しからあるものを取り出す。それを見てアルカは目を見開いた。


「班長、それは……!」

「その反応から察するに、当たりのようだな……当たってほしくはなかったが」


 ヴィクターが取り出した物は、オオサカでシャルズが最後に使った、例の武器だった。


「これは一般的に“銃”と呼ばれる武器だ。大変革以前の世界の知識と技術で作られている」

「失われた技術、というものですか?」

「世間一般ではそう呼ばれているな。だが実際は、失われず残っている物も多い」


 銃を筆頭に、危険度が高いものは基本的に一切公表されず、機動隊でも知っている人物はごく少数に限られている。この国の政治家ですら名前と危険だ、ということしか知らない。

 そんな言葉を突きつけられて、アルカとキョウは青ざめた。自分達が関わったものの危険性と闇の深さを理解したからだ。

 この国のごく限られた人物しか知りえない物を、一介のテロ組織が使っていたのだ。それを提供したと思われるローブの人物は、それを知り得る立場の者か、繋がりのあることは確実なのだから。


「大変じゃないですか!」

「そうだ。だが証拠も情報も少なすぎる。変に騒げば我々に注目が集まり、相手はやりやすくなる。寧ろ、嫌疑をかけられるかもしれない」


 ローブの人物達と直接戦ったのは一班と三班のみ。しかも、アルカは二度も相手に生かされている。そうなると、三班と繋がっているから殺されなかった、と言われる可能性もある。

 自身の立場がかなり危ういところにあることを知ったアルカは、背筋が凍るような心地になった。


「そこまで気にする必要はない。政治家は兎も角、他班の班長はそこまで愚かではないからな」

「……どういうことですか?」

「私が謀略を仕掛けるなら、もっと上手くやることを知っているからだ」


 こんな簡単に想像できるような事態にはしないし、そもそも謀略に気が付かせない。事も無げに言うヴィクターに、普段は見えない一面を見た気がして、アルカは別の意味で背筋が伸びた。


「銃の出どころは私が内々に捜査を進める。君達二人は気にしなくていい。それよりもだ。二人は銃の危険性をどこまで理解している?」


 ヴィクターは厳めしい顔で、アルカとキョウを探るような、試すような視線を向ける。その視線の強さに一瞬たじろいだが、アルカはしっかりとヴィクターと目を合わせた。


「かなり危険だと思っています」

「理由は?」

「一つ目はその威力です。遠距離から認識不能な速さで、死神の身体を貫通するほどの威力があります」

「そうだ。魔力を巡らせれば体表にめり込む程度で済むが、それでも恐るべき威力を持っている」


 キョウは不意打ちの一発目をもろに受けた。もし、シャルズが接近しなければならなかったのなら、返り討ちにできていたはずだ。


「二つ目は魔力を消費しない事です。あの時のシャルズは間違いなく魔力不足だったはずです。にもかかわらず、攻撃してきました」


 銃を構えた動きはゆっくりとしたもので、極度の興奮状態だからこそ、腕が落ちた痛みや大剣の一撃のダメージを受けても動けていたのだと思われる。もし魔力が残っていたのなら、もっと素早く引き金を引くことが出来たはずだ。


「三つ目は大きさです。どこにでも持ち運べる大きさでありながら、あの威力が出せます」


 銃の事を知らない人から見ると、初見でその殺傷能力を推し量ることは非常に難しい。そして、大きくすることで威力が上がるなら、今度こそ魔力を巡らせても致命傷になる。

 アルカの考えを言った後、今度はキョウが感じた危険性を語る。


「銃自体の危険性はよく理解しているようだな」


 満足そうに頷いたヴィクターは、続けてキョウに向けて口を開いた。


「キョウ、アルカが言ったこと以外で何が危険だと感じた? 又は、どうすると危険だと考える?」

「……あー、アルカの言ったことから考えると、魔力を使わないなら、銃を使えば只人でも死神を簡単に殺せると思います」

「正にその通りだ。それが銃について情報が伏せられている一番の理由になる」


 現状、只人が死神を殺すには不意打ちで頭などの弱点を攻撃するか、毒を使う事が精々だ。ただし、死神は気配察知能力や身体能力が高く、不意打ちなどはそう簡単に成功しない。

また、劇物については使用や販売が厳しく規制されており、加えて死神は毒耐性が高く、そう簡単には死なず、治療が間に合う可能性が高い。

しかし、銃を使えば話は変わってくる。近づく必要もなく、認識できない速さの攻撃で死神を死に至らしめることが出来る。

 これが一部の神意教信者の手に渡れば間違いなく使用され、今の世の中に大きな混乱をもたらすことは想像に難くない。


「銃に関して情報を伏せる必要性は分かりました。でも、それなら班員くらいには周知してもいいのではないですか?」


 隊員は班員に比べると人数がかなり多く、アルカが聞いたり、接したことのある隊員の中にも問題を抱える人物が多いことは知っている。彼らに不用意に情報を与えると、箝口令を敷いたとしても話が広がりそうだ。

 しかし、班員に教えるのならば問題ないように思える。重大事件に関わるのは班員であるし、今回のような事もある。事前に知っていたならば対象は出来たはずだ。そう思ったアルカの言葉に、ヴィクターは首を横に振った。


「寧ろ逆だ。より強い死神である班員は、自分達を即死させかねない武器がある、など信じない。教えたところで実体験していないならば箝口令も守ろうとしない。酒の肴になるのがオチだ」


 三班は情報の重要性を知っており、ヴィクターが普段から教え込んでいる事から問題ないが、他班、特に一班はそうでもないようだ。かつていたヴィクターがいた一班では、機密事項だろうが箝口令を敷かれていようがお構いないしだったらしい。

 昔を思い出して、眉間に皺を寄せ、苦い表情にヴィクターはなったのだった。


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