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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
67/122

66 個別の報告会1

 報告会を終えて資料を片付けた後、アルカも荷運びを手伝うべく、列車に向かった。大護の指示に従い、備品や書類を運び、整理していく。しまいには、機工兵とシャルズの死体の受け渡しにまで引っ張り回された。

 機工兵を受け渡す技術開発局は、機動隊本部からそう遠くない場所に存在した。建物自体はよくある四角い形で、入り口には白衣の集団が待ち構えていた。彼らは機工兵を見ると、口々に予想を言い合っていた。


「新しい研究材料ですから、楽しみなのでしょうね」


 受け渡しの書類にサインしてもらいながら、大護は事もなげにそう言う。

 一方、シャルズの死体は五班に引き渡しだが、引き渡し場所は機動隊本部ではなく第一区画の病院だった。そこいたのは眼鏡をかけた痩せ型の男性で、こちらは軍服の上に白衣を着ていた。冷凍装置付きの棺桶の中に眠るシャルズの死体を見て、ニヤァと口の端が吊り上がったのは気味の悪さが際立つ。


「彼が五班班長の落部 宗一。班長と同世代です」

「正確には二つ上だね。物事は正確に伝えるべきだよ、君」


 不愉快そうに宗一は顔を上げ、大護の言葉を訂正した。そして、興味深そうにアルカとキョウに視線を移す。


「機動隊最年少の班員だね。噂は聞いているね」


 目を細めてアルカ達を見つめる瞳は普通と異なり、瞳孔が縦に割れていた。同時に、細長い舌がちょろちょろと顔を出す。蛇に似た特徴にも驚いたが、何よりも、怪しい視線に、思わず二人は一歩後ろに下がった。


「あぁ、すまない。驚かせるつもりは無かったんだね。目が悪いから、熱と匂いで覚えるしかないんだね」

「は、はぁ。そうですか……」

「その年で特異技能に芽生えた精神力には興味があるけどね」

「二人の前に、そこに研究対象があるでしょう。そちらを先にお願いします」

「おお、そうだったね。……いつか二人も研究させてね」


 最後に獲物を見るような目をアルカとキョウに向けてから、シャルズの死体を引っ提げて病院に戻っていった。

 引き渡しを終え、最後に残った私物を自室に運び込み、その日は終わった。

 久しぶりの自分の布団はよく眠れるのだった。





 翌朝、アルカとキョウは前日言われた通りに、朝一で班長室に顔を出す。


「おはようございます、班長」

「ああ、おはよう。長期遠征の翌日に呼び出してすまんな」

「いえ、私達は休暇を貰いましたから。そこまで疲れていません」

「ならばいい」


 ヴィクターは軽く頷いてから、座るように促す。ヴィクターの机の前には、いつもは存在しない椅子が二脚置いてあった。


「今回は少し長くなる。立ったままでは疲れるだろう」


 アルカは長くなることを予想していたので驚くころとはなかったが、キョウは目を瞬かせた後に、何とも言えない情けない表情になった。これは、長く座ることが確定した時に見せる表情だ。訓練生時代に嫌というほど見てきたので、アルカは良く知っている。


「さて、話すことは多くあるが、先ずは謝罪からだ。すまなかった。前回に続き、今回も命の危険にさらしてしまった」


 大護の作戦の説明不足と、小十郎とテツの判断ミス。更には機工兵やドーピング薬に例の武器といった想定外の事態が積み重なり、結果としてアルカとキョウは窮地に立たされた。

 頭を下げるヴィクターに、二人は慌てて口を開く。


「だ、大丈夫ですよっ! 今回も生き残れましたし!」

「そうです! 怪我も治りましたからっ!」

「一歩間違えば死んでいたのだ。謝罪の一つもしないのでは私が納得できない」

「分かりましたから! 顔を上げてください。こっちが居た堪れなくなります!」


 アルカとキョウが懇願するようにそう言うと、やっとヴィクターは顔を上げた。それを見て、アルカはふっと一息つく。


「たくさん話があるのでしたよね? なら早く次の話に移りましょう?」

「……そうだな。まず、小十郎とテツ、大護も減給処分とした」

「へ?」


 てっきりアルカとキョウの過去や、例の武器の話をすると思っていたら、全く別方向に話の内容が飛んだ。キョウが間抜けな声を上げたが、ヴィクターは構わず続ける。


「加えて、三班全員に戦略レベルでの作戦における各員の行動の意味を理解させるために、より一層厳しく指導することを決定した」

「え?」

「さらに、君達二人はこの短期間に想定以上の大事に巻き込まれ、隊員としての経験もないことから、訓練内容を一部変更し、知識と経験を積ませることとする」

「なんでぇ!?」


 キョウが素っ頓狂な声を上げる。ヴィクターの言葉が事実なら、戦闘訓練は兎も角、大量の座学もやる羽目になると想像できたからだ。


「これは私の勘だが、君達二人はこれから先、より大きい事件に巻き込まれると思う。その時、今回のように運良く生きて帰って来られるとは限らない。大切な者を亡くしてから泣きわめいても遅いのだ」


 その声には実感がこもっていた。龍造から聞いた話では、ヴィクターは婚約者を北部戦役で失っている。だからこそ、自身のような目に会う可能性を減らしたのだろう。アルカもキョウを失いたくはない。そのためなら多少訓練が厳しくなろうが、寧ろ望むところである。


「班長の懸念は理解しました。手ほどきのほど、よろしくお願いします」

「よろしい」


 アルカがぺこりと頭を下げると、それにキョウも続く。ヴィクターがそれに頷き返して、次の話に移った。


「オオサカで神意教と接触したそうだな? 春門神官だったか」

「はい。金の刻印を持つ神官でした。私達が赤ちゃんの時に会った事があるそうです」


 そう言って、情報端末越しではしていなかった部分の話し合いを詳細に伝える。話を聞いていたヴィクターの眉間には次第に皺が寄っていった。


「死神と只人が互いに手を取り合える世界か……。現実を間違いなく認識したうえで、折れることなく理想に邁進できる人物。柵がなければ一度じっくり話してみたいが、無理だろうな」


 機動隊の班長を務めるヴィクターでは、神意教の神官と腹を割って話すことなど出来ないだろう。「仕事と責任ばかりが積み重なる役職などなるものではないな」とヴィクターは小さく呟いた。


「アルカ、ここからは君達の過去について聞くことになる。問題ないか?」

「はい。トラウマは克服できました」


 アルカの言葉に、ヴィクターは大きく目を見開いた後、少し目を細めてアルカを見る。


「そうか。それは良かったな。ならば、過分な配慮なしに聞いていくとしよう。春門神官との話し合いで、彼は君達二人が生きている事に驚いていたのだな?」

「はい。村が無くなったことは知っていても、その理由は知らなかったみたいです」

「ならば、アルカが特異技能を暴走させた後、誰が二人を都市まで運んだのだ?」


 アルカは返答に詰まる。村人はアルカとキョウを除いて、全員消し飛ばしてしまい、その後は気絶していたのか、記憶はかなり曖昧なのだ。だから、ほとんど覚えていない。都市に来てからも、アルカのトラウマを呼び起こさないために、キョウはあの時のことを一切語らなかったのだ。

 そう思ってキョウに視線を向けると、キョウは視線を彷徨わせながら、実に話しにくそうに口を開いた。


「……アタシもテンパってたし、昔の事だからあんまり詳しく覚えてないぜ?」

「何も手掛かりがないよりマシだ。話しなさい」


 アルカが反応するより早く、ヴィクターが答えを急かす。

キョウは一度大きく呼吸をして、ヴィクターを真っ直ぐに見た。


「アルカが特異技能を使って気絶してから、アタシはアルカに毛布をかぶせて外の様子を見に行ったんです」


 クアド神官が亡くなり、自分達も殺されかけた以上、この村で生活することは不可能だという事は、幼いキョウでもわかった。もし、村人が再び襲ってきたらアルカを背負ってすぐに逃げようと思い、村人の様子を窺うために外に出ると、異様なほど静かだった。


「村の中なのにまるで森の中にいるみたいだったんです。人の気配も何もなかったから、近くの家に入って確認もしたんですけど、やっぱり誰もいなくて。今考えると不自然極まりないですけど、あの時は襲ってくる人が居なくなったから、とりあえず逃げる必要は無くなったっていう安心感でいっぱいでした」


 そこから数時間、アルカの目覚めを待っていると、外から人が向かってくる気配がした。真っ直ぐキョウ達のいる家に近づく気配に警戒し、包丁を片手に隠れていると、玄関も前で気配は止まり、律義にノックをしてきたそうだ。


「怖かったけど、誰って言いました」


 そしたら神意教の神官だ、と返答が返って来た。しかもクアド神官のことを知っていたため、キョウは扉を開けたという。クアド神官が生前言っていた、刻印が守ってくれるという言葉を信じ、神意教の神官なら金の刻印を持つキョウ達に危害を加えないと考えたからだ。


「その人も金の刻印を持っていて、実際に見せてくれたんです。で、その人に連れられてトウキョウに来ました」

「その人の名前は? 何か特徴的なものはなかったか?」

「名前はわかりません。名乗りませんでしたし、見た目も只人でした。でも黒髪の男だったと思います」

「黒髪か……珍しいな」 


 ヴィクターは腕を組みながら難しい顔をする。黒髪の男性で金の刻印を持つ神官。エドモント神官や春門神官に聞けば何かわかるかもしれない。そんなアルカの考えと同じだったのか、ヴィクターと目が合った。


「エドモント神官か春門神官に聞く必要があるな。報告が終わったら、アルカから連絡をしてくれ」

「わかりました」

「キョウ、続けてくれ」


 黒髪の男性に連れられ、第一防壁近くの第二区画にある児童養護施設に預けられた。そこからは二度と同じ目に合わないために、と戦闘訓練に明け暮れた。いきなり環境が変わり、知らない人に囲まれた中で明らかに存在が浮いていたため、互いしか頼れる存在が居なかったという側面もある。


「結局、その人に会ったのはそれっきりです。施設に預けられてすぐ、ここでの生活に必要なものや口座とお金を送ってくれたのも、多分その人です」

「そうだったの!?」

「だってアタシ達のこと知っている人なんて他にいないぜ?」


 普段から何気なく使っていたが、名義はそれぞれアルカとキョウになっていることもあり、てっきりクアド神官の置き土産だとアルカは思っていた。自身の知らなかった事実が掘り起こされ、驚きに染まった顔をしているアルカに対し、ヴィクターはいたって冷静だった。


「施設に問い合わせれば、黒髪の男の素性が分かるかもしれんな。銀行にも手続の記録が保管されているだろう。……しかし分からんな」

「何がですか?」


 身元が判明する可能性を示唆しつつも、眉をひそめたヴィクターにアルカは問いかける。


「二人をわざわざ第二区画の施設に入れた理由が分からない。第三区画にも神意教の運営する施設は存在する。死神だから、という理由付けは出来るが、クアド神官の知り合いなら、二人を死神と神意教を繋ぐ人材として育てていた事を知っていたとしておかしくない。まして、金の刻印を持つ死神の子供なら、目の届く範囲に留めて育てる方が確実だ」


 立場や行動がかみ合っておらず不自然さが否めない、とヴィクターは眉間に深い皺を刻むのだった。


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