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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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65 トウキョウへの帰還

 トウキョウへ帰る列車内は行きに比べると静かだった。昼過ぎには到着する予定なので、その後に予定されているヴィクターへの報告のため、残った書類をまとめ、頭に内容と入れておく必要がある。談話室で一班の班員も一緒にまとめの作業だ。

 幾つもの書類を見ながら、情報端末に必要なことを打ち込み、資料を作成していく。アルカはテキパキと作業を進めていると、大護が手を叩いて注目を集める。


「皆さん、トウキョウ到着後の予定で変更がありましたので、伝えておきます」


 報告場所は三班の会議室で変わりないが、一班と共同で報告会が行われることになり、代表として豪が出席することになったそうだ。

 アルカとキョウはふーん、とたいして何も思うことは無かったが、一班班員にとっては違ったようだ。それまで静かに作業していたが、鬼気迫る表情になって書類にかじりついている。あまりの変わり様に、一班をよく知っている龍造に何があったのか問いかける。


「豪は短気じゃからのう。小難しくて長い報告などしたら戦闘訓練が酷いことになる。だから、分かりやすく端的に伝えねばならんのじゃ」


 鬱憤が溜まると、怪我のしない範囲で、明日にも疲れが残るような訓練になる。場合によってはそのまま見回りなどに行くことになるため、絶対に避けたいそうだ。普段は一班の副班長が報告を受けているらしい。


「なんて理不尽……」

「豪に話を聞かせたいなら、対等に戦える程度に強くなるか、何があっても引かないという意思を示すくらいしかない。ま、それが出来たら苦労はせんがのう」


 カラカラと笑う龍造を始め、三班は急いだり、焦ったりする様子はない。あくまでヴィクターに報告する場に豪がいるだけなので、いつも通りに報告すればいいという話だ。


「ヴィクターがおる以上、豪も大人しく話を聞くじゃろうて。焦って半端な報告をしようものなら、ヴィクターの方がおっかないわい」


 いつも無表情なヴィクターが眉間に皺を寄せて冷ややかに怒る姿を想像し、アルカは思わず身震いする。絶対に理詰めで反論を尽く潰してくるタイプだ、と確信めいた何かを感じ、自身が報告する部分の資料に視線を落とした。

 そんなこんなで、列車内で最後の昼食を取り、報告に必要な資料をまとめていたらトウキョウに到着した。


「報告会に必要な荷物だけ持って、会議室に向かってください。その他の荷物は報告会後に片付けです」


 大護の言葉に従い、資料や報告書を箱に詰めて運ぶ。懐かしさを覚える機動隊本部の扉をくぐり、会議室に入る。中は既に机が整然と並べられており、正面にはヴィクターと豪が座っていた。


「お疲れ様です」

「ご苦労。よく戻った」


 ヴィクターは三班各員に、短いが労いの言葉をかけ、椅子に座るように促す。


「お疲れ様です!」

「おう」


 声を張り上げたのは、一班の面々である。それに短く答えたのは豪だ。丸太のような腕を組み、動物の特徴が色濃く出た獣顔の口の端が上がる。図体が馬鹿でかいので、椅子が悲鳴を上げるようにキイキイと鳴き、窮屈そうだ。

 全員が着席し、資料がいきわたったところでヴィクターが口を開く。


「全員集まったようだな。では、報告会を始める」


 その言葉を皮切りに、大護が立ち上がり捜査の全容を話し始めた。捜査の手法や得られた情報、それを基に組み立てられた侵入作戦とその結果を時系列順に説明していく。時折、メモを取りながらヴィクターは聞き入っていた。


「全体像は理解した。機工兵は開発局の報告待ちだな?」

「はい。列車で持ち込みましたので、報告会後に開発局に送り届けます」

「謎の薬については?」

「シャルズの死体を司法解剖した結果、人間が作る事の出来ない成分が検出されました。また、幾つかの数値も異常値を示しています。これらが人体にどのような影響を及ぼすかは今のところ不明ですが、司法解剖を行ったオオサカ支部の五班班員曰く、一種のドーピング薬ではないか、との知見を示しました」


 シャルズの死体は冷凍保存されて、トウキョウに運び込まれている。これはデータと共に五班に引き渡され、更なる検査が行われる予定だ。


「見た目が変わるほどの強力なドーピング薬など聞いたことないが、豪は心当たりないか?」

「お前が知らねぇ事をオレが知っていると思ってんのか? 見た目が変わる特異技能を持った奴ならたまにいるが、薬なぞ専門外にもほどがある」


 両手を頭の後ろで組んで、興味なさげに上を見上げる豪の態度に、ヴィクターはため息を一つ吐いて、視線を戻した。


「わかった。ローブの人物については?」


 その言葉に、大護と入れ替わるようにアルカが立ち上がる。直接会敵したアルカが適任と判断されたためだ。


「背格好や声質から、廃墟群で戦った人物と同一人物と思われます。ローブの人物が現れた状況から、証拠隠滅のためなのは確実です」


 わざわざシャルズの殺害やドーピング薬を回収していったのだ。証拠隠滅のためなのは嫌でもわかる。同時に、何故アルカ達を殺さなかった理由は不明であることも伝える。


「殺さなかった理由か……。個人的な因縁の可能性まで含めると理由が絞り切れんな。不確定なものに無駄な時間を割く意味は無い。次の報告を」


 アルカに一瞬視線を合わせたが、それもすぐに外し、話を進めるようにヴィクターは言う。トラウマは克服したものの、この場で過去の事を根掘り葉掘り聞かれることは避けたいアルカは話を続ける。


「今回の捜査で目撃されたローブの人物の情報は多数あるものの、廃墟群で確認された他三名とは背格好が合致しないため、一名のみと考えられます」


 廃墟群で確認されたローブの人物は四名。

 一人目は大護が戦った三メートルほどの体躯を持つ人物。体の部位にかかわらず、大護のトンファーを尽く跳ね返す金属質の身体を持っていると思われ、言葉を話す機械ではないかと考えられている。

二人目はアルカの戦った女性らしき人物。今回の事件にもかかわっており、強さは身をもって体験した。

三人目はミハイルが戦った人物。全くと言っていいほど情報が無いが、ミハイルが負けるほど強い。ミハイル本人は特異技能の相性が悪いと言っていた。

四人目は岳が戦った小柄な人物。特異技能が芽生えている事は確実であり、氷を出現させることが出来ると思われる。

ミハイルの戦った人物も関わっている可能性も考えられたが、自身に繋がる証拠を残すタイプとは思えない、というミハイルの発言から、わざわざ人前に姿を現すことは無いと判断された。


「やはり出て来たか……」

「いいじゃねぇか。強いんだろ? 戦うのが楽しみだぜ」

「お前はいいかもしれないが、他人にとっては違う。班員が無事に戻ってくる可能性が低くなるのだぞ」

「……それは、困るな」


ヴィクターの指摘に、豪は苦虫を噛み潰したような表情になる。他人のことになど無頓着と思っていたが、意外な豪の反応にアルカは内心驚き、同時にふと思い浮かぶことがあった。

豪はヴィクターが一班所属時の相方だ。そしてヴィクターは北部戦役後に三班に異動となったはずだ。つまり、豪も北部戦役を戦ったのではないか、と推測できる。北部戦役はヴィクターにとって苦い記憶であり、豪も同じではないか、と思い至ったのである。


「ローブの人物については引き続き情報を集めるとする。次の報告を」


 その次はミハイルが立ち上がる。ミハイルは証言や証拠などから、これまで関わった事件や、この先計画されていた犯罪などを伝える。その中身は廃墟群の時と同じく、只人の誘拐や殺害が主なものであった。


「加えて押収した証拠の中に、他組織の存在を匂わせるものや、彼らに物資を流していた企業のリストなどがありました」


 ミハイルが語ったのは、テロ組織“西の夜明け”と組んでいた企業の重役達から手に入れた情報だ。彼らは逮捕され、普通の法で裁ける範囲を超えていたため、軍法会議にかけられることになった。

 彼らが抜けた役職には、神意教に情報を横流ししたと思われる人物が後釜に座ることになったらしい。

 リストアップされた組織や企業の載った資料を睨みながら、ヴィクターは眉間に皺を刻む。


「また、忙しくなるな。豪、一班から人を出してもらうぞ」

「あ? こっちの専門は不死者討伐だ。捜査は三班の十八番だろ」

「有事でもない限り、一班は人が余っているだろう? 遊ばせておくくらいなら仕事をしてもらう。これは決定事項だ」

「アァ?」


 豪はただでさえ恐ろしい顔を、さらに凶悪に染めながら凄むが、ヴィクターは涼しい顔をして受け流す。


「さっきも言っただろう。並の班員では対応しきれない敵が複数いるのだ。三班だけではカバーしきれん」

「班員を鍛えればいいだけだろがよ」

「鍛えるだけで、我々と同格に成れるとでも?」


 睨みつけるような視線を向けるヴィクターに、心底嫌そうな顔をする豪との間に、幾ばくかの静寂が訪れた。しかし、それも長くは続かず、根負けしたように豪が口を開く。


「チッ、好きにしろ」


豪は、一連のやり取りをオロオロと取り乱した様子で見ていたミハイルに、顎を動かして進めるように促した。


「アルカが会敵したローブの人物についてですが、複数回にわたってシャルズといるところを目撃されています。ですが、直接会話などはしていないため、それ以上の情報は得られませんでした」


 機工兵の受け渡しの際にもいたため、この事件に大きくかかわっている事だけは間違いない。しかし、シャルズはそれらの情報を全て自身の頭の中で管理していたらしく、ローブの人物について碌な情報は出てこなかった。

 その後、細々とした報告を終え、ミハイルが着席する。


「一先ず、当初の目的であったテロ組織に壊滅は成功か。未だ不可解な物も多数あるが、とりあえず、諸君、ご苦労であった。この後の片付け等を終えたら順次休暇だ。ゆるりと羽を伸ばすといい。では、解散とする」


 ヴィクターの言葉を最後に、報告会は幕を閉じる。

 豪は、用事は済んだとばかりに会議室を後にし、数人は資料を片付け、残りは荷運びの仕事に移る。キョウは荷運びに駆り出され、アルカは資料を片付け始めた。大護は荷運びの指示と、機工兵とシャルズの死体を送り届けるために列車に向かった。


「アルカ、明日は朝一でキョウと共に班長室に来なさい」

「わかりました」


 ヴィクターが去り際にそう言った。恐らく、報告会では一切話題に出なかった例の武器の事だろう、とあたりを付ける。加えて、報告会中に一瞬目が合ったので、過去について聞かれるかもしれない。さらに、神意教との接触があったので、そのことについても聞かれるだろう。

 こうしてみると伏せられた情報が多く、今回の報告会の不自然さが際立つ。

 どうやら明日の報告は長くなりそうだ、とアルカは肩を落とすのだった。


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