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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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64 オオサカ撤収

 キョウに俺の言葉を述べてから数日、二人は休暇を全力で楽しんだ。下手をすると、都市に来てから一番楽しんだかもしれない。

 休暇最終日も終わりに近づいた日暮れの談話室で、アルカとキョウは大護から声を掛けられた。


「現場検証の立ち合い、ですか?」

「はい。最終確認の意味も込めて、説明が欲しいのです。文章だけでは伝わりにくいこともありますので」

「わかりました。その他にすることはありますか?」

「証拠や証言集めはほとんど終わっています。後はまとめるだけなので、書類に目を通しておいてください。三日後の朝にオオサカから撤収します」


 そう言って、どさりと紙束を置く。それだけでなく、情報端末にも送られてきたので、中々に量があることはわかった。

 書類を見た途端、目を逸らし逃げようとしたキョウの首根っこを捕まえ、椅子に座らせる。


「こんなに……沢山……」

「今回は逮捕者も多いため、尚更、いつもより多いですが、トウキョウに帰還と同時に、班長への報告兼話し合いがあるので、頭に入れて整理しておかなければならないですよ」


 どうあがいても、目の前の書類から逃げられないことを悟ったキョウは、渋々、書類を手に取る。アルカも同じように書類に手を伸ばし、内容を確認し始めた。その様子に、少しばかりの苦笑いを大護は浮かべた。


「別に今すぐ読む必要はありませんよ。トウキョウに戻るまでに読み切ればいいのですから、帰りの列車で読んだらいいでしょう」

「なら……」

「キョウは読むの遅いから、今からで丁度いいよ」


 書類から逃げるチャンスとばかりに目を輝かせたキョウは、アルカの言葉にあっけなく撃沈する。

ざっくりと書類に目を通す限り、証言の方は、人数が多いが情報は少ないので大した手間ではないと判断できた。問題は断片的な情報を統合して、まとめる事が大変なようだ。

 二人は自室に書類を持って帰り、就寝前まで情報を整理するのだった。

 翌日は朝から当初の予定通り、大護に連れられシャルズと戦った建物に向かう。小十郎とテツも一緒だ。建物への侵入から機工兵との戦いまでは、事前にテツが説明していたらしく、殆ど確認のようなものであった。


「機工兵?」

「昨日の書類の中にあったでしょ? あのロボットの名前」


 アルカ達が突入した建物にいた犯人達がそう呼称していた、と調書に書いてあった。キョウはどうやら忘れていたらしい。帰ったらもう一度、書類と戦わなければならないことが、アルカの中で決まった。

 詳細を説明する必要があったのは、その後である。


「二人は気配察知を行った上で、誰もいないと判断したわけですね?」

「はい。少なくとも私とキョウの気配察知には反応がありませんでした」

「……ローブの人物が建物に潜んでいなかった可能性は?」

「その可能性も捨てきれませんが、テツさん達と別れてからローブの人物が現れるまでに、そこまで時間は掛かっていません。内部にいた方が自然、と考えられます」


 わざわざ小十郎とテツが逃走者を追いかけ、建物の外に出たことを確認してから侵入するのでは、時間がかかりすぎる。ローブの人物の実力を鑑みれば、それくらいは出来るだろうが、小十郎とテツが建物からいなくなるという確信もないのに、外で待機などという不確かな行動はとらないだろう。


「それに私達の侵入後、どの入り口も使われた形跡は無かったんですよね?」

「ええ、使えるとしたらアルカ達が使った侵入路のみです」

「テツさん達が出ていった事を確認し、侵入路を探していたら時間がかかりすぎると思います」


 もし、侵入路を始めから知っていたとすれば、内部情報が事前に漏れていることになる。それはそれで大問題だが、漏れていたならば、そもそも作戦前にシャルズ達に伝わり、逃走されるだろう。


「侵入前は気配察知で探っていたので、近くに不審な気配は無かったです。それにローブの人物の実力なら、私達の気配察知を潜り抜ける事はできるかと思います。副班長もできますよね?」


 確か大護は気配を消す事がとても上手だったはずだ、と大護を見ると、大護は大きく頷く。


「厄介ですね。これまでの話から戦闘能力が高いことは予想していましたが、技術も持ち合わせているとは」


 大護はそう言って苦い笑みを浮かべる。そして頭を軽く振ってから、話題を戻した。


「次はシャルズとの戦闘について、詳しく聞きます」


 階段を上り、最上階に向かう。そこは、アルカが最後に見た時とほとんど変わっておらず、シャルズの死体があったところはテープで縁取られていた。その他にも、何かの証拠があったと思しき場所には目印のテープが張られていた。そこでアルカとキョウは覚えている限りの事を伝える。


「ふむ、わざわざ回収までするくらいです。ローブの人物が謎の薬や例の武器を提供していたのでしょう。アルカの特異技能で武器に関しては回収不能になりましたが」

「すいませんでした」

「いえ、二人の命の方が遥かに大切ですから問題ありませんよ」


 アルカの謝罪に、大護は軽く手を振って頭を上げるように促す。すると、これまで静かに話を聞いていた小十郎が声を上げた。


「……アルカの特異技能は遠距離からでも攻撃できるのか?」

「はい、一応」


 遠距離といっても、精々数メートル程度だ。試していないが、十メートル前後くらいが限度ではないだろうか。投げナイフの方が遠くまで届くので、たいしたことではないとアルカは思うが、眉を顰める小十郎には違ったようだ。何かまずいことでもあるのか、とテツに視線を向けると、テツも同じように眉を顰めていた。


「はいはい、そこまでです。特異技能については信頼関係が出来上がってから、と班長が言っていたではありませんか。アルカが特異技能に深く言及していないのに、聞くものではありません」


 大護が手を叩いて話を打ち切る。アルカもヴィクターに言われたことを覚えていたので、あえて報告書にも特異技能としか書いていないのだ。しかし、微妙な空気になった以上、言うべきか迷う。


「あの、副班長……」

「特異技能については先ほど言った通りです。無理に言う必要はありません。……あぁ、二人の反応ですか? それなら、単に珍しかっただけですよ」


 特異技能で遠距離攻撃ができることが珍しく、それだけで特異技能の評価がグッと上がるそうだ。その大護の言葉に、小十郎とテツは揃って頷く。


「特異技能に評価なんてあるんですね」

「他にも継戦能力や火力、応用力などの観点があります。まぁ、それらはトウキョウに戻って班長から聞くと良いでしょう」

「……聞くなら時間がある時に聞けよ。話が長くなる」


 昔から機動隊に特異技能の評価は存在していたが、基準が個人で曖昧だったものをヴィクターが研究の一環で明確にしたらしい。そういうわけで、ヴィクターが一番詳しく、そして研究のことなので、饒舌になるのだそうだ。

 そこからは現場検証に戻り、大護の質問に答えていく。昼にはオオサカ支部に戻り、オオサカに派遣された一班と三班が共同で資料をまとめる。日が傾き、空が夕焼けに染まる頃、会議室で資料をまとめていた皆に届くよう大護が口を開いた。


「明日はトウキョウに撤収する準備に当てます。不必要な物はひとまとめにしておいてください。明後日の朝に出発です」


 そこからは忙しかった。支部に持ち込んでいた物や、借りていた備品の片付け等であちらこちらを駆け回り、大方終わらせた時には、昼はとうに過ぎていた。すっかり綺麗になった会議室でアルカとキョウは休憩していた。


「後は帰る時に持っていく分だけだね」

「あー、疲れた……」


 椅子に全体重を掛けてだらしなく座るキョウに、思わず苦笑いを浮かべる。力だけは人一倍あるキョウは、皆から大量の荷物を持たされて列車と行き来していた。アルカは備品返却の連絡で各部署を回っていたため、肉体的にはそこまで疲れていない。


「ところで他の人は?」

「片付けが終わったので、街に繰り出しましたよ」

「副班長」


 手に飲み物を持った大護が会議室に入ってくる。飲み物をアルカとキョウに手渡して、適当な椅子に座った。


「トウキョウにいると、こうやって他都市に来ることはあまりないですから。こういう時に遊ぶんです」

「私達は兎も角、副班長は行かないんですか?」

「私は荷物番です。一応、資料が残っている状態でここを離れるわけにはいきませんから」


 オオサカでの捜査中では、日中は三班と一班、夜中は六班の誰かが常に会議室にいて、緊急時の対応ができるようにしていたそうだ。

 知らなかった事実にアルカは目を見開く。指揮を執る側は、動く側からは見えないところまで気を回さなければならない事を見せつけられた気分だ。


「副班長も街に行けば? アタシ達はここにいるし」


 存分に羽目を外して遊んだキョウは、少しばかり申し訳なさそうに提案する。アルカもキョウの意見に賛成だ。だが、大護は首を横に振った。


「新人二人に任せるのは、今は少し気が引けるので、ここに残りますよ」


 つい先日、新人二人が大怪我を負った事が心に引っ掛かっているらしい。これ以上、何を言っても動きそうにないので、アルカとキョウは口を噤む。


「それに、私は班長に無茶振りをされますから、地方都市に出向く回数が多いのです」


 そう言って、ヴィクターに命令されるがまま各都市で、今回のようなテロ組織を壊滅して回った話をする。それは中々に興味の惹かれるもので、想定外の事態は日常茶飯事。作戦通りに進むことの方が少ないくらいだった。

 キョウが目をキラキラさせて話に食いつき、時折、質問を挟みながら聞いていた。

 四つ目の話を聞き終わり、飲み物に口を付けて一息入れていると、会議室の扉が開いた。視線を向けると、そこにはオオサカ支部三班リーダーのセザールが立っていた。


「おや、何か御用でしょうか?」

「出発前の挨拶だ」


無愛想にそう言って、アルカ達の近くに陣取る。それを面白がるように、大護はいつも以上ににこやかな笑みを浮かべて歓迎した。


「まさか、セザールから挨拶に来てくれるとは思いませんでした」

「アンタらと違って、こっちは忙しいからな。明日の朝は顔を出せん」

「そうですか」


 相変わらず人数の少ないオオサカ支部は忙しいらしい。人数が増えればいいが、それはアルカがどうこうできるものではない。

 大護を睨みつけるようにしていたセザールだったが、不意にため息をついた。


「本部の優秀さを見せつけられて、最悪な気分だ」


 そこからは反応を求めていない、内にため込んだ感情を吐き出す独り言のようなものだった。

セザール自身は、人数不足にあえぐオオサカ支部を切り盛りしてきた自負があった。だからこそ、戦闘面では勝てなくとも、それ以外なら勝っていると思い込んでいた。だが、それは大間違いだと見せつけられた。セザールが勝っていたのは、オオサカに長く住んでいるからこその繋がりくらいしかなかったのだ。


「大護だけが優秀なら、俺も納得できた」


 副班長を任されている大護になら、ほぼすべての面で負けても文句は無かった。しかし、三班の班員は、個人差はあれど、誰でも事務能力や情報収集能力が高く、自分は平均程度しかなかったことに酷く落胆し、同時に自身の不甲斐なさに憤慨したのだ。


「アルカとキョウが新人と聞いた時には、怒りを通り越して唖然とするしかなかった」


 キョウは、何のかんの言っても、アルカが横についているので、事務作業から逃げられないため、意外としっかりできるのだ。そして、アルカは言わずもがな。ヴィクターの無茶振りをこなせる時点で平均を大きく超えていた。


「井の中の蛙ってのは、こういうものなのだと知ったよ」


 そこには少し疲れた様子のセザールがいた。もう一度ついた小さなため息は、想像以上に大きく聞こえた。


「それで、諦めがつきましたか?」

「まさか。上手いやり方をこの目で見れたんだ。俺はまだ上を目指せる」


 その声は、疲れた様子とは裏腹に熱意が籠っていた。一切諦める気が無い事だけは伝わってくる。


「慣れないやり方は疲れるが、上手くいきそうだ。何時かは俺がお前らの上に就く」

「それは楽しみですね。頑張ってください」

「けっ。今に見てろ」


 そう言うと、セザールは立ち上がり会議室を出ていく。扉を開けて、出ていく直前に「一応、礼は言っておく。感謝している」と言い残し、足早に去っていった。

 気が付けば、既に夕刻になっていた。街に繰り出していた皆が戻り、残りの荷物を持って列車に向かう。

 翌日、オオサカを去る列車は予定通り出発した。見送りに行けないと言っていたセザールが何故か居た。

 こうしてオオサカへの派遣任務は終わりを告げたのだった。


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