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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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63 お礼の言葉

 結局、大護に報告をしたものの、大半は東京に戻ってから、ヴィクターを交えてすることに落ち着いた。キリがいいところで、アルカは捜査の状況を尋ねる。


『捕らえた者達はソウゴが中心となり、取り調べが進んでいます。それぞれが持っている情報が少なく、全体像の把握は難しそうですが』


 実行部隊だった彼らは与えられている情報が制限されており、シャルズが情報統制していたらしい。何時でもトカゲの尻尾切りよろしく使い捨てにできるように、必要以上の情報を与えず、徹底管理していた手腕は本物のようだ。


『加えて、アルカ達が潜入した建物に配置されていたロボットですが、報告と食い違う点がありました』


 アルカとキョウだけでなく、小十郎とテツも交戦していたが、双方の報告ではされていない壊れ方をしていたらしい。


『どの機体も胴体部分を綺麗に切断されていました』

「私達の戦った個体は胴体が残っていたはずです」


 キョウが、四肢が無くなりシャカシャカと動いていた頭を叩き潰したはずで、胴体は無事だったはずだ。その旨を伝えるのと、キョウが頭を抱えるのは同時だった。


『ほう、証拠品を壊したのですか?』

「いや、あれは……はい、ごめんなさい」


 何とかして叱られないための言い訳をひねり出そうとしたようだが、結局、言いくるめられる姿が浮かんだらしく、素直に謝罪をするキョウだった。


『三機あるため問題が出なかったので、今回は不問としますが、以後、証拠品の扱いは気を付けるように』

「はいぃ……」


 キョウは叱責を受けて、借りてきた猫のようにしおらしくなった。大人しくなったところで、大護が話を戻した。


『恐らく、ローブの人物が破壊していったのでしょう。破壊されたロボットは技術開発局に送って解析します』

「技術開発局?」


聞きなれない名前に、アルカは首を傾げると、それまで静かに話を言いていたテツが教えてくれた。


「名前の通り、主に魔力を使った道具の研究開発をしている機関ですよ。魔動機関などがその最たるものでしょう」


 技術開発局は名目上、機動隊の一部で、その中でも飛びぬけて賢い集団らしい。ちなみに、ヴィクターも一応、技術開発局にも名を連ねているそうだ。

 テツの説明にアルカは頷く。ここでもヴィクターの名前があることについては、もはや何も思わなくなってきた。

 そうこうしているうちに、戦闘の報告は終わった。


『報告は以上でしょうか』

「はい」

『分かりました。では、アルカとキョウの二人に班長から伝言です』

「班長から?」


 戦闘の報告も終えて、肩の力を抜いている最中の言葉に、二人に緊張が走る。そして、画面に映る大護を真っ直ぐに見つめた。


『本来ならば負うことの無かった怪我をした二人に休暇を与える。捜査は他の者に任せて存分に羽を伸ばすといい。……だそうです』


 怪我をさせてしまった事の、せめてもの埋め合わせだそうだ。二人の抜けた穴は、小十郎とテツが埋めるとのこと。


『現場検証も、必要があれば休暇後にしてもらうことになります。数日になりますが、オオサカを存分に楽しむと良いでしょう』


 大護はそう言うが、皆が働いている中、自分達だけが遊んでいいものか、とちらりとテツを見ると、テツは優しく笑う。


「私の判断ミスで怪我をさせてしまったのです。その罰として二人の分の仕事もやるだけですよ。存分に楽しんできなさい」


 アルカ達が休暇を楽しむことが、小十郎とテツにとっての償いとなる、という事を説明された。

 

「わかりました。存分に楽しみたいと思います」


 こうして、アルカとキョウの休暇が決まった。

 その日のうちにキョウは退院し、見るからにうきうきとした軽い足取りで列車に戻る。

談話室では龍造達から退院の祝辞と料理の歓待を受けた。アルカ達の休暇については既に知っていたので、ついでにオオサカの名物や名所などの情報を仕入れた。

 自室に戻っても、キョウの浮かれ具合は変わらず、遠足前日の子供のようなはしゃぎっぷりであった。





「うんめぇー!」

「はいはい、口にソースが付いてるから」


 キョウの口についたソースを、たこ焼きを買うついでに貰った紙布巾で拭う。ご機嫌にゆらゆらと揺れる尻尾から、そのおいしさは十分に伝わって来た。キョウからたこ焼きを一つ貰い、口に入れると、濃いめのソースとそれに負けない出汁の旨味、そして程よい歯ごたえのタコが調和しており、非常においしかった。


「たこ焼き一つでこんなにちがうんだな」

「すごいよね。それはそれとして、食べ過ぎじゃない?」

「そうか? まだ足りないけど……あ、今度は、そこのを食べようぜ」


 そう言ってキョウは幟がはためいている店に駆けていく。その後ろ姿をみて、軽くため息を吐いて、ゆっくり歩いて追っていく。実は既に七軒ものたこ焼き屋をハシゴしているのだ。アルカは二軒目で買うことを止めて、キョウから一つ貰うだけにしている。でないと、すぐにお腹がいっぱいになるからだ。

 アルカが店に到着するのと、キョウがたこ焼きを買ってくるのは同時だった。


「アルカ、アルカ。ここのは醤油味だって」

「へー」


 湯気が立ち上り、上にかかった鰹節が踊るたこ焼きを二人して、口に放り込む。案の定、熱々で、はふはふと口の中を転がす。ひとたび噛むと表面はカリッと、中からとろりとした生地が溢れ出てきた。醤油味のものは新鮮で、あっさりと食べることができ、アルカ的には一番好きな味だった。

 口の中に残る余韻を楽しみながら、今度自作してみようか、と内心思っていると、早くも全部食べ切ったキョウが周囲をきょろきょろと見回す。

 それを見て、アルカはキョウの服を引っ張った。


「そろそろ食べ物はおしまい。名所を巡るよ」

「へ? まだ腹減ってるのに?」

「それはキョウだから」


 このペースで行くと、丸一日食べ歩きに付き合わされることになる。なので、キョウの言葉は流して、歩き出す。一番近い名所を思い出しながら歩を進めていると、腕を引っ張られているキョウがぐちぐちと文句を言い始めた。


「もうすぐ昼だぜ? 今から名所とか巡るより昼飯食った方がいいじゃん。名所って逃げないし、腹も膨れない。後からで十分だろ」

「もうお昼が近いのは誰のせい? 昨日、楽しみで眠れない、とか言いながら今朝寝坊したのは誰? そのせいで朝食を取り損ねたのは誰だっけ?」


 アルカの言葉に、犯人はバツが悪そうに顔を逸らし、口を閉じた。


「はぁ、もうすぐお昼だから、仕事している人とかでごった返すよ。そしたらご飯を楽しむ時間が短くなる。だったら名所を巡って、人が少なくなったところでご飯を食べた方が有意義じゃない?」

「なるほど。それはそうかも」


 キョウを口先で丸め込んで、アルカは歩く。目的地は人が飛び込む川だ。そこには意外に早く到着した。


「ここが、その川?」


 キョウは首を傾げながら、川辺をのぞき込む。都市内部を流れる川は都市外に比べて濁っていて、進んで飛び込みたいとは思えない。


「そう、たしか“道頓堀”って名前。川って言うか、この辺の呼び名かな」

「ふーん」


 歴史にはたいして興味がないようで、キョウから曖昧な返事が返ってくる。この周辺にも様々な店が軒を連ねているので、そこかしこからいい匂いが漂っている。しかし、アルカの予想通り、人通りが大分多くなってきており、早くも行列のできている店もあるくらいだ。

 そんな光景をアルカは楽しみながら見ていると、俄かに川にかかる橋のあたりが騒がしくなる。何事かと、アルカとキョウはそちらを向くと、何故か上半身裸の男達が川にかかる橋の高欄の上に立っていた。そして、次々と川に飛び込んでいく。

 その様子を唖然としながら見る事しかできない、アルカとキョウだった。

 その後、買い食いを繰り返しながら商店街を離れ、大型複合施設に到着した。トウキョウであったものと同じように、様々な商品を取り扱う店が立ち並んでいる。


「やっぱここには何でもあるな」

「そうだね。でも、品揃えは違うみたいだよ」


 雑貨屋を覗くアルカは、トウキョウにはなかったと記憶している置物の姿を発見し、少しばかりテンションの上がった声で、店に入っていく。この時ばかりは、いつもと立場が入れ替わり、キョウがため息を吐くのだった。


「まだ見たかったのに……」

「日が暮れるだろ」


 気に入った置物を買い、それでも未練があるようなアルカを引っ張ってキョウが店を後にする。スタスタと歩いていると、急にキョウの足が止まった。


「どうしたの?」

「いや、面白そうだなー、と思ってさ」


 キョウの視線の先を見ると、そこには映画のポスターが壁に張られていた。大きく口が裂けた異形の怪物と軍服によく似た制服を着こむ男女が載っている。


「どうする? 上映時間も近いけど」

「行くか。折角だし」


 そういうわけで、二人は映画館に向かう。

 シアター内は時間帯の関係もあり、人も多くなく、快適に映画は見ることが出来た。

 なお、上映中のキョウは、異形の怪物が出て来たあたりからとてもうるさかった。


「いけーっ! やっちまえーっ!」

「キョウはどっちの味方なの……?」

「カッコイイ方!」

「えぇ……」


 映画のシーンから察するに、口が裂けて、爪が長く、先端が尖った長い尻尾の怪物がかっこいいらしい。アルカは長い爪がシャルズを連想させたため、かっこいいとは微塵も思わなかった。

 キョウの美的センスを疑いながら、大型複合施設を後にし、再び商店街に向かう。

 日が傾き、仕事終わりの人々の喧騒は、否応なしに商店街を賑やかに彩る。そんな雰囲気に当てられ、アルカとキョウの足取りも自然と軽くなる。昼には開店していなかった店や、屋台も並んでおり、趣の変わった道頓堀を暗くなるまで楽しんだ。その途中、ナンパやら酔っ払いに絡まれたが、それらはキョウが追い払った。

 すっかり日が落ち、いつもよりだいぶ遅い帰り道を歩く。アルカよりも少し前を歩くキョウは、未だ熱が抜けきっていないのか、随分と楽しそうな足取りだ。そんなキョウの背中を見ていると、アルカもつられて嬉しくなる。

 だからこそ、この楽しい時間をくれた、共に過ごす親友に言わなければならない言葉がある。


「キョウ」

「ん?」


 意を決して、前を歩くキョウを呼ぶと、キョウはくるりと後ろを振り返る。目が合い、改めて面と向かうと、気恥ずかしいものがあるが、それでも頑張って口を開く。


「キョウがさ、ずっと私を守ってくれていたこと、お礼が言いたくて」


 はにかみながら、それでも真面目に言葉を紡ぐアルカを、キョウはただ静かに見守る。


「この前の戦いの時も命懸けで守ってくれたし、私のトラウマの話が出て来た時も話題を変えてくれたし。ううん、もっとずっと前から、私を守ってくれていた」


 アルカが特異技能を暴走させた時も今回と同じように、アルカを守ろうと覆いかぶさるように抱きしめていてくれたのだ。


「ずっとずっと守ってくれて、ありがとう。でも、私は成長したから。だから、キョウに守られるんじゃなくて、キョウの隣に立ちたい。ううん、隣に立つよ」


 これまで守ってくれたお礼の言葉と、これからはただ守られるのではなく、横に並んで進んでいく、という宣言。そんなアルカの心から出た言葉に、今度はキョウが恥ずかしそうに目を逸らす。そして、アルカを見遣る。


「おう」


 そこにはいつものように、ニッと笑うキョウがいた。

 このアルカの言葉は、キョウにとても大きな変化をもたらすが、それは後のお話。

 帰り道を歩く二人は、今度こそ、横に並んでいたのだった。


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