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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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61 克服

 パンッと乾いた爆発音が部屋に響く。

 目を見開くアルカ目前で、キョウの腹部に赤色のシミが広がっていく。

 アルカに差し伸べていた手でそこに触れると、ヌルっとした感触と生暖かさが現実だと伝えてくる。

 そして音のした方を向くと、そこには壊れた机にもたれ掛かり、血濡れになりながらも、狂気に染まった顔のシャルズがいた。真っ直ぐに伸ばされた腕には黒い何かが握られている。


「は……はは……、使え……じゃねぇか……」


 シャルズは口から血を垂れ流しながら笑う。

 アルカとキョウを始め、殆どの人間は知らないが、シャルズが持っていたそれは所謂、拳銃だ。

 もし、この場にヴィクターや大護、龍造やソウゴといったベテランが居れば即座に対応できただろう。

 しかし、運が悪いことに、新人班員の二人には荷が重かった。

 シャルズが撃鉄を起こし、アルカに照準を合わせ、引き金を引く。


「アルカ!」


 その様子を見ていたキョウが、咄嗟に、アルカを庇うように覆いかぶさった。

銃声が響く。

 その情景はまるで、かつて、育ての親であるクアド神官が殺された様子に似ていた。あの時も、キョウがアルカを守るように抱きしめていた、あの様子に。

 トラウマと今の状況が重なり、アルカの脳裏にある感情が浮かぶ。


「(また、大切な人を失うの……?)」


 その恐怖でアルカは固まって動けなくなってしまう。

 二度と無くさないように、と必死に鍛錬を繰り返し、強くなったというのに、全部、無意味になってしまうのか。

 そんな思いが、アルカの頭の中でぐるぐると廻る。

 そんな中、再び銃声が響き、キョウが苦悶の声を上げる。


「ぐっ……」

「キョウ!」


 キョウの声に、アルカは現実に引き戻され、思わず名前を呼んでしまう。

 苦しそうに歯を食いしばっているキョウと目が合う。すると、キョウは一目で無理やりと分かる顔で、ニッと笑う。


「キョウ……」

「だいじょう……ぐっ……」


 アルカを心配させまいと、返事をしているキョウに、再び弾丸が襲い掛かる。

 激痛が身体を駆け巡っているはずのキョウは、それでもなお、無理やり作った笑顔を崩そうとしない。

 キョウが命懸けで守ってくれている状況を前に、アルカの脳裏には走馬灯のように、様々な記憶が通り過ぎてゆく。

 そして、その中にアルカの心に引っ掛かる言葉を見つけた。


「(ああ、そうだ。まだ、キョウにお礼を言えてないんだ、私)」


 何時かアケミが言っていた、キョウが守ってくれている、という言葉を思い出す。誰よりも知っていたはずなのに、今の今まで理解できていなかったようだ。

 キョウに守られているという事を本当の意味で理解した途端、石のように固まって動かなかった思考が動き出した。

キョウが命を張って守ってくれている状況に対して、自身の不甲斐なさを恥じ、そして、ずっと昔の、どうしようもない過去に、いつまでも囚われ続けている自分に向き合う。

トラウマが手を伸ばし、アルカを絡めとろうとするのを真っ直ぐに見つめ、心に喝を入れる。


「(違う。私は二度と無くさないために強くなったんだ。だから……)」


頭に纏わり付いてくるトラウマを振り払い、あの時の力の、特異技能の感覚を思い出す。

あの時は、無我夢中で力を使い、殆ど制御不能の状態だった。

だが、今は違う。魔力の使い方を学び、戦術も学んだ。故に、あの力をどのように使えばいいかよくわかる。

アルカはキョウの肩越しに、シャルズの持っている拳銃に狙いを定める。今まさに引き金を引かんとしている、その手目掛けて、力を発動した。





 シャルズは得意の絶頂にいた。それもそのはず、自身がおもちゃと断じていたはずのものが、こうも強く、班員クラスの死神を完封しているからである。

 散々、甚振ってくれたお礼とばかりに撃鉄を起こし、恨みを込めて引き金を引く。

 既にキョウには何発か命中し、軍服が血に染まっている。その手も足も出ない様子に、内心は愉悦感で一杯だ。

 こみ上げてくる血と笑い声を吐き出し、撃鉄を起こす。

 キョウに庇われて姿の見えないアルカにも、必ず弾丸を打ち込み、鬱憤を晴らしてやろう、と考えながら引き金を引こうと指に力を込めたその瞬間、凄まじい寒気が全身を襲う。肌を刺すような痛みを幻視させる寒気と同時、キョウの肩越しにアルカと目が合った。

 生存本能がけたたましく警鐘を鳴らす。すぐにでも殺さなければならないと、否応なしに伝わってくる。

 すぐさま銃口を僅かにずらし、アルカに狙い定め、引き金を引く。

 しかし、銃声は鳴らなかった。

手元を見ると、手首から先がきれいさっぱり無くなっており、血が止めどなく溢れている。


「あ……あああぁぁぁぁああぁぁぁっ!」


 遅れてやって来た激痛が、手を無くなったことを肯定してくる。

 その絶叫は、果たして痛みか、それとも恐怖か。

 武器を失い、半狂乱になりながら、本能的に逃げないといけない事だけは分かった。全身の激痛も忘れ、もたれ掛かった机から一歩踏み出そうと腰を浮かしたその時、フッと地面の感覚が消える。

 そして、立ち上がれずに尻もちをつく形で、再び、机にもたれ掛かった。

 何が起こったのか、と足元を見ると、脚首から下が無くなっており、血で水溜りが出来ていた。

 何もかもが分からず、恐怖のあまり叫び声を上げる事しかシャルズには出来なかった。





「使えた……」


 アルカはフッと息を吐く。完璧に特異技能を使いこなし、トラウマを克服し危機を脱することが出来たのだ。

 半狂乱になって叫び声を上げるシャルズは、しかしながら、それ以上のことをする力は残っていないようだ。

 そんなシャルズから視線を外して、アルカは今なお抱きしめ続けているキョウに声を掛ける。


「キョウ、終わったよ」

「ん……そうか。アルカ、使えるようになったんだな」

「うん」

「よかったな」


 それまでの無理やり浮かべた笑顔と違い、本当に嬉しそうな表情のキョウにつられて、アルカも自然と笑顔になる。ようやくすべて終わった、と安心したその時、アルカ達が入って来た下の階に続く扉が開かれた。

 アルカは扉の方を振り返り、入って来た人物に目を見開く。そこには、廃墟群捜査の時にも出会った、ローブを纏った人物がいたのだ。

 あの時は、複数同じようにローブを纏った人物がいた事を、後の報告で知ったが、背格好的にも、そして直感的にも、アルカが対峙した人物だと思われた。

 アルカはローブの人物に全神経を集中する。

頬に冷や汗が伝う。はっきり言って、あまりにも分が悪い。ただでさえ戦闘力に差がありすぎることは、前回の戦いでわかっている。その上、アルカとキョウの二人とも、体力・魔力共に限界が近い。

 唯一、勝ち筋があるとすれば、今しがた使った、アルカの特異技能だけである。魔力の残量を考えれば、使えて数回。されど、あの時の戦闘から考えるに、最初の一回で仕留めなければ、次からは警戒されてしまうことは想像に難くない。

 しかし、いつ攻撃してくるのか、と身構えているアルカをよそに、ローブの人物は二人の横を素通りし、シャルズのもとに向かう。

 ローブの人物を前に、一瞬、戸惑ったシャルズだが、すぐにニヤリと笑い、アルカとキョウに向かって顎をしゃくる。


「あ、あんたか? 丁度いい。そこのガキをころ……」


 シャルズが言葉を発せたのはそこまでだった。ローブの人物が首を刎ねたから。

 無言で剣についた血を払い、ローブの人物はアルカとキョウを一瞥すると、歩き出す。そして、何かを拾い上げた。それは、シャルズが凶暴化する直前に持っていた小物入れであった。

 重要な物的証拠ではあるが、それを指摘したところで意味は無い事だけは確かだ。アルカは、ただ黙ってそれを見守る事しかできなかった。

 ローブの人物は用が済んだのか、アルカ達に背を向けて、一番近い窓に向かって行く。その後姿に、アルカは思わず声を掛けてしまった。


「あなたは、一体何が目的ですか?」


 ローブの人物がやっている事は、一見すると、情報漏洩を防ぐための口封じだ。だが、アルカから見て、あまりにも不自然な点があった。

 それは、アルカ達を殺す気が無いことだ。アルカ達を殺してしまえば、シャルズや廃墟群で連絡役を殺す必要は無かった。

 シャルズは間違いなく、アルカ達を殺す気で戦っていた。だが、その協力者らしきローブの人物は、アルカ達を片手間で殺す実力がありながら、その素振りが一切ない。それが不思議でたまらないのだ。

 ローブの人物は足を止め、アルカに振り返る。


「ふふっ」


 返答は無く、楽しそうな笑い声だけが返って来た。そして、一度、入って来た扉の方を見てから、窓を剣で切り裂いく。落ちたガラスが割れ、冷たい夜風が肌をなでる。ローブの人物のフードがはためき、紅い口元がチラリと見えた。

 そして、窓の向こうに姿を消した。

 部屋が静かになり、今度こそ戦いが終わった、と息を吐く。


「キョウ、今度こそ、終わったよ」


 そう言って、キョウの肩を揺らすと、キョウは力が抜けたようにぐったりとアルカにもたれ掛かってきた。


「え……キョウ?」


 その呼び声に返事は無く、空しく部屋に響くだけであった。


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