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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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59 不自然との戦い

ひっさびさに書いた

 大部屋に吹き飛ばされた直後、シャルズは一瞬、意識を手放していた。アルカとキョウが認識の共有し、違和感を警戒していたおかげで助かったと言えよう。

 当たり所が悪く怪我でもしたのか、ズキズキと頭が痛む。


「(クソッ……あの二人、クソ強いじゃねぇかよ……最年少の班員って話だっただろうが!)」


 聞いていた話では、まだ成人前の子供と聞いていた。ならば、例え班員であっても魔力効率ではシャルズの方に分があり、加えて、協力者から提供されたとある薬の効果もあって、身体能力だけならば、班員と互角に渡り合えるはずだった。


「(どうする?あの薬をもっと飲む……のはマズいな。副作用がヤバいらしい。ならば、あのちゃちなオモチャみたいなモンで戦うか?……あの二人相手に効くのかよ。あー、クソッ。結局、自力かよ。使えねぇな)」


 協力者から渡されたもう一つの物資を思い浮かべるが、手のひらサイズでしかなく、まともに攻撃を防ぐことも出来そうにない代物だった。もっとも、攻撃用の武器なので、防御するものではないという話だったが。

 見たことも聞いたこともない武器に、自身の運命を預けるほど、シャルズは迂闊な人間ではない。オモチャは悪あがき程度に考えておいて、最悪は薬の大量服用することを覚悟する。

 考えもまとまり、意識が明瞭になったところで立ち上がるのだった。





 立ち上がったシャルズと目が合った。その目は逃げようとするのではなく、戦うことを選んだことを雄弁に物語っていた。


「キョウ」

「わかってる」


 誰であろうと覚悟を決めた人間は強い。まして、同格と思われる相手なら、こちらが負ける可能性も十分にある。

 キョウもそのことを理解しながら、それでもなお、口元が緩んでいた。強い相手と戦う事は大歓迎なようだ。

 両者の間に、つかの間の静寂が訪れる。

 そして、戦闘開始の合図は無く、静かに戦闘の火蓋が切って落とされた。

 先手を取ったのはシャルズだ。人数的不利の状況で、戦闘のペースまで持っていかれるのは困るという判断からだ。

 先の戦闘でキョウに蹴られたことで、アルカよりキョウの方が脅威と判断したらしく、正面からキョウとの打ち合いを避けるように、身を低くしてアルカの方に回り込み、シャルズは剣を振るう。

 二人を視界に収めながら、かつ連携を取りにくくするには良い判断で、戦闘のセンスはあるようだ。

しかし、アルカとキョウにとって、この程度の小細工では連携が崩れる理由は無い。

 対してアルカは攻撃を受けることなく、バックステップで回避し、立ち替わるようにキョウが大剣を振り下ろした。

 一切乱れのない連携にシャルズは顔を歪め、キョウの大剣を正面から受けるような真似はせず、横に逸れることで回避するが、キョウもそれを読んでおり、振り下ろしよりも格段に速い切り返しがシャルズに襲い掛かる。

 たまらず、シャルズはさらに大きく横に跳ぶことを選択し、キョウの攻撃を回避することに成功するものの、崩れた体勢のところに、アルカは高速の剣技で畳みかけた。

 一回、二回と刀が弾かれるが、アルカの連撃の前にシャルズの防御は間に合わなくなり、シャルズの体に切り傷が生まれる。


「ク、クソがぁぁああぁぁ!!!」


 確実に戦闘力を奪っていくアルカの攻撃に、対処が追い付かなくなったシャルズは、怒声を発しながら、アルカを強引に膂力で弾き飛ばす。


「今の俺が、こんなガキどもに負けるハズねぇんだよっ!!!」


 多量の魔力を全身に巡らせ、身体能力を大きく上昇させたようで、今までとは比べ物にならない速度でシャルズはアルカに迫る。

 アルカはギリギリで攻撃を受けることに成功したものの、さっきまでとは逆に防戦一方となってしまう。

 既に、機工兵相手に魔力を消費しているが、流石にこのままでは押し切られると判断し、アルカも魔力を体中に巡らせることで身体能力を向上させ、応戦する。

 アルカは、もうシャルズを格下と考えておらず、身体能力も互角になった以上、純粋な戦闘能力が戦局を左右する。

 そして、戦局をものにしたのはアルカ。だった。

 シャルズの放った剣による突きを、刀を横から当てることで逸らしながらアルカは接近する。ギャリギャリと武器同士の擦れる金属音を、顔のすぐ隣で聞きながらアルカはシャルズに肉薄した。

 シャルズも短剣で応戦しようと試みるが、短剣を振るう前に、アルカの刀によって妨害されてしまう。

 シャルズの懐に入ったアルカは、相手の剣を反らして用済みとなった刀から手を放し、そのままの勢いで正拳突きを放つ。

 アルカの拳がシャルズの鳩尾に深々と刺さり、再び吹き飛ぶと共にシャルズの持っていた剣と短剣は手から離れ地面に落ちた。

 シャルズにクリーンヒットした確かな感触があり、戦闘継続は不可能だろうと判断して、アルカは残心を解いた。


「……はぁ……はぁ」


 肺の中に溜まって熱くなった空気を吐き出すとともに、体に巡らせていた魔力を通常に戻す。

 同時に、疲れが顔を出し始めた。


「疲れた」

「むぅ、アタシの番は?」

「無かったね」


 口を尖らせて愚痴を漏らすキョウに、アルカは疲れを感じている事もあって、いつもよりぞんざいに返す。

 駄々っ子に構っていられるほど、アルカに余裕はない。

事実、多量の魔力を巡らせることは、普段は使わないので非常に疲れる。それを短時間に二回も行ったのだ。休憩を入れたくなるのも当然と言えよう。

 そんなやり取りと共に、息を整えたのもつかの間、戦闘不能と判断したはずのシャルズが起き上がる。


「ハァ……ハァ……やってくれたな……ガキが……」


 左手でアルカに殴られた鳩尾を押さえながら、ふらつきながらも立ち上がるシャルズを見て、アルカの背筋に悪寒が走る。

 シャルズの空いている右手に、何かを握っていることを確認したのだ。


「キョウ!シャルズの手に持っている物を弾き飛ばしてっ!」

「えっ?わかった!」


 アルカからの突然の命令に一瞬驚くキョウだったが、アルカの焦った様子に、すぐさまシャルズに向かって駆けだす。そして、キョウの大剣は的確にシャルズの右手を切り裂き、右手ごと持っていた物は宙を舞った。


「クソッ、遅かった……!」


しかし、キョウははっきりと、シャルズが何かを口に放り込むのを確認していた。


「ガアアアァァァァアッッ!」

「っ!」


 突然、獣のような雄叫びを上げたシャルズは、目の前にいるキョウに殴りかかる。突然の雄叫びにより、一瞬体が硬直してしまったキョウは辛うじて大剣の腹で拳を防ぐことはできたものの、踏ん張りが足りずアルカのいるところまで後退させられてしまった。


「キョウ、あれは?」

「わかんねえ。けど何かを口に放り込んでた」

「何かを飲んだ、か……」

「アルカ、考えるのは後。あいつヤバそう」


 シャルズから一切視線を外すことなく、キョウはアルカの思考を遮った。アルカもつられて見ると、そこには最初の姿とはかけ離れたシャルズの姿があった。

 爪は長く鋭利な形になっており、全身を掻き毟ったのか、服はボロボロの血塗れだ。しかし、その傷口はもこもこと肉が盛り上がりほとんど治りかかっている。そして、所々筋肉が異常に隆起しており、シルエットは歪な人型になっていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 最初と比べると、随分と様変わりしてしまったシャルズは肩で息をしながら、時折、苦しそうにもがいている。その様子を警戒しながら、アルカは肌がひりつくような感覚に襲われた。

 その時、シャルズの右手の傷口からもこもこと肉が盛り上がり、切り飛ばしたはずの右手が再生したのだ。


「キョウ」

「わかってる。これは本気でやらないとマズい」


 キョウもアルカと同じように、シャルズの脅威度が大幅に増加したことを感じていた。

 これまでは拘束を前提とした、ある意味手加減ともいえる戦闘をしていたが、今のシャルズはそんなこと考えていられないほどの強敵だと判断したのだ。


「相手は一人、でも格上」

「上等じゃねぇか」

「キョウは嬉しそうにしないで。連携必須、手加減不要だよ」

「了解だ」


 実戦で、それも格上と戦えることが本当に嬉しいようで、現状の悪化と反比例するように口角が上がっていた。

 それを横目に見ながら、アルカは全身に魔力を巡らせる。既に複数回行っているため、体が倦怠感に包まれ若干の頭痛もするが、それを根性で押し殺し、刀を構えた。

 そして息を整えて、二人は駆け出した。

 アルカは駆けながら、シャルズを観察する。シャルズは未だに苦しそうにしていたが、確実に二人が動いたことを認識していた。

血走った目と目が合う。アルカは僅かに左右に軌道をずらすと、その目はアルカを追っていた。

 その様子から、シャルズはアルカの方に狙いを定めていると見抜き、陽動を仕掛ける。

 シャルズがキョウの大剣の間合いに入る寸前で、キョウの後ろに姿を隠したのだ。シャルズがアルカの姿を見失うと同時に、キョウの大剣がシャルズを襲う。横薙ぎの一閃をシャルズは姿勢を低くすることで回避し、そのままキョウに肉薄しようとしたその時、キョウの脇腹のすぐ横から刀がせり出てきた。アルカの刀だ。

 そのまま進めば串刺しになる事は想像に難くなく、シャルズは強引に横に体を捻って回避を選択した。

 アルカの刀は虚しく空を切ったが、それも想定の内。キョウの切り返しの大剣が、バランスを崩したシャルズに直撃する。

 そこで二人はあり得ない光景を目にした。シャルズは長く伸びた爪で大剣を受けたのだ。踏ん張りがきかないため吹き飛ばされはしたものの、綺麗に受け身を取って着地するシャルズを見て、アルカは苦い表情を浮かべる。


「嘘だろ。結構本気で振ったのに爪折っただけかよ」

「……それもすぐ直ったね」

「へっ、何度でもへし折ってやる」


 そう息巻きながらキョウは再びシャルズに接近する。無論、アルカも一緒だ。今度もキョウが先陣を切り、アルカが後ろに続く形だ。

 そして今度は先ほどとは逆に、シャルズの一歩手前でキョウの陰から急加速して飛び出した。

 鋭い一撃がシャルズを狙うが、爪に弾かれてしまう。その感触に、力ではアルカを超えている事を理解し、戦闘スタイルの変更の判断を下す。

 それは機工兵相手に行った関節を狙っていくというものだ。

ただ、あの時と違うのは、相手に装甲は無い代わりに再生能力があることだ。

 アルカはシャルズの関節を狙うため、あえて武器のリーチというメリットを捨てて懐に飛び込むのであった。


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