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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
58/122

57 機工兵

「うおっ!何なんだっ!」

「わかんないけど、警戒してっ!」


 轟音と同時に後ろに飛び退き、アルカとキョウは魔動武装を構える。

 吹き飛んだ扉は廊下の壁に突き刺さり、扉としての役目をはたしていない。

 その犯人はすぐに分かった。

 ひしゃげた扉の片割れを片手に、その巨体は現れた。

 忙しく機械音が鳴り響き、一歩踏み出すごとに振動が廊下に伝わる。

 血の通っていない、冷たい光沢を放つ黒い金属の四肢は、それだけで威圧感を相手に与えるものだ。


「これは……ロボット?」

「カッコイイ!!」


 キョウの能天気な声が響くとともに、ロボットの巨体に似合わない小さな頭部がアルカとキョウを見据える。

 そして、おもむろに扉の残骸を掲げると、勢いよく振り下ろした。


「危ねっ!」


 目を輝かせていたキョウは、反応が遅れたようで、ギリギリでその攻撃を躱す。

ガシャンと扉が砕け、アルカに向かって扉の残骸を投擲したところで、黒いロボット―機工兵との戦闘の火蓋が切って落とされた。

 アルカは機工兵の方に走りながら、投擲された残骸を避け、伸ばされた金属の腕を刀で切りつける。


「硬いっ……」


 刀は人間でいうところの小手部分に当たり、火花を散らすだけに終わった。

 機工兵の装甲は想像以上に分厚く、傷跡こそ付けれたものの、動作に支障はないようだ。

 そこから数撃、斬撃を加えるが、どの部位の装甲も貫くことが出来なかった。

 それどころか、一撃を加えるたびに、機工兵の動きが良くなっている気さえした。まるでアルカの行動を読まれているような、不思議な感覚だ。

 対して機工兵は、アルカに向けて腕を叩きつける。腕自他が金属の塊なので、ただ振り回すだけで十分に脅威なのだ。

 先ほど攻撃した感覚から、機工兵の攻撃を受け流すことは難しいと判断し、もちろん当たるわけにはいかないので、回避一択である。

 難なく叩きつけられた腕を躱し、後ろに後退した。

 そして、アルカと交代するように、大剣を構えたキョウが機工兵に突っ込む。

 

「オラよっっ!!!」


 アルカを攻撃した腕を足場に、機工兵の頭部に向けて、大剣が振り下ろされる。キョウの膂力ならば、装甲の薄そうな頭部など木っ端微塵だろう、そうアルカは考えていた。

 アルカは機工兵を、試験で戦った人形の模型を大型化した程度のものだと思っていた。

あの人形は事前に決められた動作しかせず、アルカとキョウの前では遊びにもならない。

 あの時キョウが不覚を取ったのは、慢心もあったが、人形を弾き出す装置があり、普通ではありえない速度で複数飛んできたからだ。

 しかし、そう簡単に話はいかなかった。

 なんと、機工兵は巨体に似つかわしくない素早い動きで、キョウの大剣を空いた片腕で防いだのだ。

 大剣は機工兵の腕にめり込み、ひしゃげさせたものの、切断するには至らず、頭部は無事だ。


「かってぇー!」

「……キョウ、警戒して!想像以上に強いかも」


 いくら通常戦闘時の身体能力向上しかしてないとはいえ、班員であるキョウの動きに合わせて動いたのだ。少なくとも、そこらの隊員よりは強いことは確実である。

 アルカの言葉を聞いて、キョウは気を引き締めなおし、不敵に笑った。

 アルカと違い、キョウは摸擬戦ばかりで、強敵との戦いが無いのだ。それが今回は気兼ねなく大剣を振るうことが出来るチャンスなので、楽しみで仕方ない。

 機工兵の反撃をキョウは身を捻って回避し、そのままの勢いで大剣の追撃をお見舞いするが、これも防がれてしまった。


「面白れぇ!」


 目をギラギラとさせながら、キョウは心底楽しそうに笑う。

 大剣を振るい、防がれ、攻撃を躱す、たったそれだけ。それだけだが、楽しいのだ。

 アルカもキョウに加勢し、攻撃を加える。

 そして、何度かの攻防を繰り返すうちに、アルカはあることに気が付いた。

キョウの攻撃を、機工兵は必ず装甲が一番分厚い部分で受けているのに対し、アルカの攻撃は脅威ではないと判断したのか、どこの装甲が狙われようと構う様子はない。

 装甲のある箇所はダメージが通らないことは、これまでの戦闘からわかった。ならば、構造的に装甲が無い関節部を狙うまでだ。

 キョウの攻撃に合わせて、アルカは腕の関節に向けて刃を振るった。

 するとどうだろうか、これまでアルカとキョウの攻撃を防ぐことはしても、避けることは無かった機工兵が、アルカの攻撃を嫌がるように大きく後退したのだ。


「おん?どうしたんだ?」

「関節を狙ったら避けた。多分、弱点だと思う」

「おぉ、やったじゃん」

「でも気をつけて。想像以上に厄介だから」


 アルカは機工兵のとった行動を見て、あることを確信していた。それは、機工兵が学習能力か、もしくはそれに類するものがあるということを。

 アルカの攻撃はこれまで装甲を傷つける程度のものでしかなかった。事実、それまでは明らかにキョウの方に重点を置いていた戦闘だった。

 脅威ではないと判断したはずなのに、関節部への攻撃は明確に避けたことからも、アルカの攻撃でも関節にはダメージが通ると判断したのだろう。

 関節部への攻撃はどんなものでも躱す、と動作が仕込まれているのであれば、それまでの、扉の破片などが飛び散っていた時にも後退すると考えられる。


「へっ、上等だぜ」


 アルカの考えを聞いたキョウは、口の端を釣り上げる。そこには、純粋に強い敵と戦いたい、という想いがあるだけだった。

 キョウは再び、機工兵に向かって大剣を振り下ろす。そして、また先ほどの戦闘と同じような光景が広がった。

 キョウの大剣を機工兵が防ぎ、機工兵の攻撃をキョウが避ける。

 しかし、アルカの目ははっきりと違いを捉えていた。

 キョウの攻撃回数が減って、機工兵の攻撃回数が増えているのだ。同時に、キョウの攻撃による装甲への傷が、明らかに浅くなっている。

大剣の速度が乗りきる前に、そして、大剣の速度が相対的に遅くなる根元の方を、装甲で受けているのだ。

明らかに機工兵は学習している。最初にアルカが感じた感覚は、間違っていなかったらしい。


「ぐあっ……」


 アルカが冷静に機工兵を分析している中、ついにキョウが機工兵の重い一撃を貰う。大剣で防ぎ、打撃と同時に後ろに飛び退いたことで、威力を殺したものの、アルカの隣まで吹き飛ばされた。


「くっそー、貰っちまったぜ……」


 大剣で防いだ振動で手が痺れたのか、手をプラプラと振りながらキョウは呟く。それでも何故が嬉しそうだが。

 機工兵はこちらの様子を窺っているようで、こちらに攻めてくる様子はない。二対一では不利だと判断したのだろう。

 図らずもキョウがこちらに戻って来たので、アルカはこの戦闘で得た機工兵の考察を伝えた。


「えーっと……つまりあのロボットは頭いいのか?」

「下手するとキョウよりもね」

「マジかよ……」


 驚いたような、ショックを受けたような、そんな微妙な顔をキョウは浮かべる。

 しかし、アルカはそんなキョウの感情を無視して、言葉を続けた。


「あれがどれだけ動き続けられるのか分からないけど、時間をかけるだけ相手に有利になる。だから、一遍に片を付けるよ」

「でもよ、任務の途中だぜ?」

「ここでもたついていると、標的が逃げるだけだよ」


 アルカの言葉は、魔力を大きく消費する行動のため、任務の途中での使用は悪手ではないか、とキョウは言う。

 対してアルカの返答は簡単なものだった。

 探索も残すところあと一フロア、八階だけだ。終わりが見えているので、そこから逆算して、多少の魔力を使っても持つ。

そして、機工兵との戦闘中も気配察知で探ってはいるが、誰かが階段を使った様子はない。

 しかし、それがいつまで続くかわからない。今にも逃げるかもしれないし、既に逃げているかもしれない。どちらにしろ、早く機工兵を倒して確認をするべきなのだ。

 そして、時間をかけるほど機工兵が学習をするため、倒すことが大変になる。


「んじゃ、さっさと倒しますか」

「魔力消費はほどほどにね」

「あいよ」

「キョウが前、私が後ろ」

「了解」


 短いやり取りの中、キョウとアルカは魔動武装を構えた。

 機工兵も二人が武器を構えたのを見て、わずかに動いた。

 両者の間に、一瞬の静寂が訪れる。


「オラアァァァァァ!!」


 最初に動いたのはキョウだ。気迫の乗った声と共に、わき目も降らず機工兵に突撃し、大剣を振り下ろした。

 機工兵は血の通っていない機械らしく、キョウの気迫に一切怯むことなく、これまでの戦闘から得たデータにより算出された動きに合わせて、大剣を防ぐために腕部を掲げた。

 同時に、キョウの後ろに隠れたアルカの姿もしっかりと捉えていた。

 しかしながら、そのアルカが密かに笑みを浮かべていたのは見逃していた。

 ガシャンッ、と金属同士が激しくぶつかる音が広がる。キョウの大剣と機工兵の腕部装甲がかち合ったのだ。

 ここで機工兵にとって予想外だったのは、自身の腕部がくの字に折れ曲がり、床にめり込んだことだろう。

 キョウが特異技能を駆使して、大剣を振りおろしたのだ。データを大きく上回る力により、機工兵の計算に大幅な狂いが生じた。


「これで終わり」


 そんなチャンスをアルカが見逃すはずも無く、キョウの陰から高速で飛び出たアルカは、関節目掛け、刀を振るった。

 機工兵は回避しようと身じろぎするが、キョウの攻撃を受け止めた腕がアンカーとなり、碌に動けない。

 アルカの刀が膝関節を断ち切り、すくい上げる様に両腕部を肩口ごと切り落とした。


「ふぅ……」


 暑くなった肺の中の空気を吐き出し、アルカは息を整える。

 四肢が無くなり動けなくなった機工兵は、それでも機能を停止せず、忙しなく頭部を動かしていた。


「うわぁ、キモい」


 機工兵の頭部を大剣で叩き潰したキョウに、アルカは言う。


「証拠品だよ、それ」

「あ……戦闘中の事故ってことで」

「事実は報告します」

「嫌だー。怒られるー」

「諦めて」


 頭を押さえて絶望の表情を浮かべるキョウだが、完全に自業自得だ。存分に怒られるといい。


「というか、なんで壊したの」

「それは……ほら、あれだよ。ゴから始まるやつに似てた。動きが」

「あー、それはそうかも」


 あの、ひっくり返ってわしゃわしゃとする感じが、確かにゴキブリの雰囲気を漂わせていた。

 かと言って、それを潰すのはどうかと思う。

 軽口をたたきながらも、息を整え終わると同時、小十郎とテツがいると思しき部屋から、パリーンとガラスが割れる音と怒号が聞こえてくるのだった。


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