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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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55 作戦会議

 翌日、アルカ達三班は朝から会議室で資料と格闘していた。と言っても、終わりが見えているので、キョウたちのペースも前日より早い。

 アルカも引き続き資料の精査にあたっていると、大護から声がかかる。


「アルカ、その資料が終わったら、こちらをお願いします」


 そう言って手渡されたのは、春門神官から貰った資料だ。確か、テロ集団“西の夜明け”の構成員や潜伏場所などの情報が載っていると言っていた。

 大護からの指示を聞き、アルカは席に戻って素早く手元の資料を終わらせ、渡された資料に目を通し始める。

 そこには先述の通り、構成員の個人情報から経歴、潜伏場所が分かりやすくまとめられていた。

 ペラペラと資料を捲っていくと、幹部らしき人物達がまとめられている箇所を見つけた。幹部は全員が死神であり、中には従軍記録もある人物がいた。そして、テロ組織“西の夜明け”の長と思しき人物にたどり着く。

 その名もシャルズ・マーレゾン。元機動隊員にして、憚ることなく進化種を名乗る、生粋の差別主義者だ。

 彼は機動隊所属時、民間人の只人を三十人以上殺している。殺害理由は『目についたから』や『歩くのに邪魔だったから』など、余りにも身勝手な物ばかりだ。

 流石に目に余るものがあったのか、懲罰隊員に落とされ、その後退役している。

 その外道っぷりに、資料を読んだだけのアルカでさえ、軽い嫌悪感と怒りが湧いてくるほどだ。

こんな人物に対しても話し合いをしようとした春門神官は、度胸のあるお人好しではなかろうか。普通はこれを見ただけで諦めるだろう。

 どちらにしろ、春門神官は自身の理想を実現するために努力している事は分かった。

 一度、アルカは深呼吸をしてから整理を始める。

 情報端末で都市オオサカの地図を表示し、“西の夜明け”に協力関係にある企業に色を付けていく。そして、潜伏している構成員を振り分けていくのだ。


「アルカ、昼だぜ」

「もう?」

「もう」


 その作業を黙々としていると、キョウに肩を叩かれた。集中していたので時間が経つのを忘れていたようだ。


「アルカは何やってたんだ?」

「構成員の潜伏場所の判別と簡単な解説、協力企業の色分け。作戦の立案・実行時のメインマップになるやつの作成」

「よくわかんねぇけど、わかった」

「わかってないじゃん」


 他愛無い会話をしながら適当に食事をとり、午後からも地図作成に精を出す。

 そして、作成し終えた地図を大護に見せた。


「ふむ、問題なさそうですね。資料の精査もほぼすべて終わりました。今残っている物はどれも白と思しき企業の物だけですので、考察に移りましょう」


 大護はそう言うと、アルカの作成した地図を机の上に表示した。

 無関係の企業は白色、関係している企業は黄色、構成員が潜伏している企業は赤色に色分けされている。それぞれの企業に触れると詳細が表示されるようになっている。

 さらに大護は情報端末で各自に資料を送ってきた。


「今送った資料は、今日までの精査結果をまとめたものです。これらの情報から、作戦の立案をします。意見、質問のある方は言ってください」


 大護の言葉に、アルカ以外の班員は残った資料の精査をし始めた。考えるより手を動かした方がマシと判断したようだ。


「いつもこうなのですか?」

「ワシらに作戦の立案という、思考しなければならないものが出来ると思っているのか?」


 至極真面目な顔で開き直った発言に、アルカは絶句する。よもやと思うが、大護とアルカの二人だけでしなければならないのだろうか。方や新人のアルカには荷が勝ちすぎるように思う。


「若いのがそんな顔するもんじゃないぞ。儂らも口出しだけはするつもりじゃ」

「余計酷いじゃないですか」

「期待するだけ無駄ですよ。稀に良い気づきをくれるだけです」


 大護の言葉に、アルカは肩を落としてから、気持ちを切り替えるために頬を叩いた。

 机の上に表示された地図に向き直り、思考を巡らせ始める。

まず、事実としては“西の夜明け”全員が進化種の考え方に賛同している。中には只人もいるが、幹部は死神だけである。

幹部含め構成員の潜伏場所はほぼ全員割れているが、組織のトップであるシャルズと、もう一人の幹部は正確な潜伏場所が発覚していない。過去の防犯カメラ映像では、それらしき人物が複数の企業に出入りする様子を捉えていたが、全ての出入りが記録されているわけではないので、目星をつけるまでしかできていない。

その企業と言うのが、アルカの作成した地図で赤く塗られている三社の企業だ。どれも大企業で、何時か朱音が言っていた予想通りの結果である。

精査した資料の結果からも、ある時を境に、食品の納入量が増えていたことを確認している。その時期に社員が増えたという情報はなく、匿っている構成員のための食料だと判断できる。

これだけの事実から、打つべき手を導き出す。


「構成員は三か所に分散して潜伏しているので、こちらも三つに分かれて同時制圧が最良ですかね」

「ほう、それは同意ですが、理由を聞いても?」

「順番に制圧してくと、一つもの時点で他に逃げられます。全戦力を投入しても“時間差”が出る時点で相手に猶予を与えてしまいます。同時制圧及び、逃走防止のためセザールさん達オオサカ支部の班員で建物周囲の監視をしてもらえば、突入に戦力を回せます。戦力の分散は悪手ですが、こちらは班員。隊員クラスの死神なら問題ありません」


 アルカの意見を、大護だけでなくキョウ達まで興味深そうに聞いていた。

 大護だけが聞いていると思っていたアルカは、急に恥ずかしくなった。


「ほーん、ちゃんと理由があるんだな。突撃するだけだと思ってた」

「結論が同じでも、考えが有るか無いかで説得力の差が出るのう」

「皆も見習ってくださいね。ではアルカ。もし、標的がいない場合はどうしますか?」


 潜伏場所がはっきりと判明していない二人がいない場合、どうすべきか。

 まず、他の構成員に居場所を吐かせる。他にも協力していた企業の人間を捕らえて聞く。それでもダメなら、聞き込みの再開だろう。

 それを伝えると、大護は大きく頷いた。


「アルカの考えで良いでしょう。どのみち、協力していた人物は逮捕しなければなりませんし、それでも出てこないなら、もうオオサカにはいない可能性が高いですから」


 勿論、警察なども使って都市内を大捜索するなどの手段もとることが出来るとのこと。

 アルカはそこまでの大捕り物にする気はないが、そういうことも出来るのか、と今後使うかもしれないので聞いておいた。


「では次です。廃墟群探索で出会ったあの敵が出てきたらどうしますか?」


 この作戦で一番の問題はそれなのだ。あの敵の行動目的が分からない。あの時は連絡役の始末による、情報漏洩を防ぐためだと考えられる。

 しかし、全員が捕まったタイミングですぐに襲撃に出る事ができるのならば、その前に始末できる時間は十分にあったと思う。

 わざわざ捕まるまで待ち、自身も捕まる可能性がありながら姿を現したり、アルカを生きて返すなど、理由が分からない事が多すぎる。


「はっきり言いますと、行動目的が不明なので、推測は出来ません。ただ、私を殺さなかったように、積極的にこちらと関わるとは思えません。あるとすれば、前回と同じように口止めが目的で出てくるかと考えます」


 行動の一貫性が掴めておらず、相手の方が強いことは分かっている。恐らく特異技能が開花した死神だ。対抗できる人物はこちらには大護しかいない。

 そう思っていたが、大護曰く、ミハイルも開花しているらしい。


「どちらにせよ、正体不明のあの敵達と遭遇したら、私かミハイルに連絡を入れてください。無理しての交戦は避けること。今のあなた方ではまず勝てません」


 それは交戦したアルカが一番よくわかっている。あの時の敵は本気ではなかった。もし本気を出されていたら、精々二、三太刀受けるのが精一杯だろう。根拠はないが、そんな気がする。


「作戦の概要はアルカの考えで良いでしょう。突入の時間は深夜、闇夜に乗じて潜入、拘束していきます。最初は隠密行動ですが、相手に突入が悟られ次第、速度重視の制圧に切り替えます」


 突入の振り分けは各建物に四名ずつ、計十二名だ。一つだけ一班と三班の混合部隊があるが、三班は龍造とソウゴが担当となった。

「ま、儂らが適任じゃろうな。一班の気質も良く知っておるし」とは、龍造の言葉である。

 そうなると必然的に、アルカとキョウは小十郎とテツと組むことになった。


「突入は明日の深夜に行います。こちらに来てから時間も過ぎていますので、もたもたしている暇はありません」

「副班長、いくら何でも急すぎませんか?逃走防止のための隊員の配備などが間に合わないのではないのでしょうか」

「問題ありません。何のための権力だと思っているのですか?こういう時に無理を通すためにあるのですよ」


 ニコニコと笑顔で黒いことを吐く大護は、アルカのように気に留める様子は微塵もない。

 アルカも権力の使い方を覚えなければ、こういう時に困るので、気は進まないが覚えることにする。


「どの部隊がどこに突入するかなどはこちらで決めますがよろしいですか?」

「問題ないのう」

「建物の見取り図などはすぐに準備します。あなた方は突入に必要な準備をしておいてください」


 そう言って大護は会議室から出ていった。セザールと必要なものの手配をするのだろう。

 各自、動き始めた中、アルカだけが動けなかった。

 それに気が付いたキョウが話しかけてくる。


「どうした、アルカ?準備するぞ」

「私、突入したことないから、何準備すればいいかわからない」

「えっ……そうだったわ」


 魔力自動車の連続窃盗事件の際、キョウは突入したが、アルカは指揮を執らされていたのだ。何をすればいいのか、全くわからない。

 その時、テツが近づいてきた。


「どうしましたか?」

「テツさん。実は……」


 アルカは突入任務をしたことが無いため、何を準備していいかわからない事を伝えた。


「本来、指揮はもっと現場慣れした人が行うものなのですが」

「……班長に目を付けられたな。あの人は見込みがある人に無茶振りをしたがるのだ」

「自覚が無いのが厄介なところですがね」


 どうやらアルカは、未来の三班を指揮する立場だと見込まれていたようだ。当時、ほとんど面識が無いはずなのだが、不思議なものである。

 戻ったら聞いてみようと、アルカは決めた。


「準備に関しては、一緒に行いましょう」

「ありがとうございます」


 そうして龍造とテツ監修のもと、突入準備を進めるのだった。


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