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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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54 情報の精査

 社会の現実を突きつけられた後、春門神官との会合は、大護が資料を確認し終わるまで続いた。と言っても、単なる雑談ではあった。

 春門神官は見た目通り、様々な経験をしてきた人で、興味深い話が多かった。

 例えば、機械の発展の話だ。春門神官は百を超える年齢であり、数多くの機会を見てきた。都市を掃除するロボットは当初、ゆっくりしか動けず、空き缶すら回収できなかったそうだ。

今では軽快に動き、適宜ゴミや汚れに応じて対応できるようになっている。

また、アルカ達が試験で戦った人型のロボットの登場も衝撃的だったそうだ。

 もう一つ興味深かった話が、危機的状況において人々が織りなす軌跡は面白く、迷える死神を只人が救い、死神が只人を助ける、そんなドラマチックな光景は何度もあったそうだ。


「いざという時、死神や只人の区別なく助け合う光景を幾度となく見てきました。私はそれが偽りではない事を信じているのです」


 そう春門神官は締め括り、アルカとキョウから視線を移した。

 その先には、丁度資料を確認し終えた大護がいた。


「さて、そろそろ頃合いでしょう。アルカさん、キョウさん。お会いできて光栄でした」

「こちらこそ、貴重な話や資料をありがとうございました」


 資料は返却不要と言うことなので、持って帰る事にして、屋敷を後にする。屋敷の門までは守衛が見送りに来てくれた。

 小さくなってゆく屋敷を尻目に、アルカは大護に尋ねた。


「あの資料はどうだったんですか?」

「外なので詳しくは省きますが、神意教の情報収集能力を、もう二段ほど上げなければなりませんね」


 つまりは機動隊が今持っている以上の情報が載っていたようだ。

 アルカは捜査が進んでいる事を肌で感じた。

 オオサカ支部に戻ると、昼休みの真っ只中で、多くの人が出歩いていた。


「そう言えば、何でここってこんなに人が多いんだ?」


 何の気なしに出たキョウの質問に、セザールが答えた。


「経費削減で、第二区画の駐屯地が何個か閉鎖されてな。だから隊員もここを使っている」

「へー、大変なんだな」


 割と切実な理由に対して、キョウは適当に相槌を打つ。多分、分かっていないのだろう。

 トウキョウでは、基本的に本部は班員と一部の信用のある隊員しか使っていない。

これにはしっかりと理由があり、本部には国会議事堂がある事、それに伴い国家機密等の重要情報が管理されている事がある。それらを守るために、入場制限が掛けられているのだ。


「何だ、その目は。言っておくが、一般隊員の使用場所は制限しているぞ」


 しっかりと区分けして、情報漏洩には対策をしているようだ。抜け目なく対処できるセザールは、やはり優秀だとアルカは思う。

 加えて、春門神官と話をした後から、何となく雰囲気が変わった気がする。何というか、最初の刺々しさが無くなったのだ。寧ろ、目に輝きが宿ったように感じる。

 そんなことを思っていると、会議室に到着していた。


「大護、資料は俺も確認したい。後で寄越してくれ」

「コピーでよろしければ」

「構わん。俺は仕事に戻る。何かあったら連絡してくれ」


 スタスタと足早に去っていくセザールの背中を見送り、会議室に入る。中にいた三班の面々は昼休みで休憩の様子だ。


「ようやく戻ったか。遅かったのう」

「こっちはそこそこ進んだが、代わりに目が疲れた。労うといい」

「そうでしたか。では、お土産です」


 お土産と聞いて身を乗り出した龍造とソウゴだったが、大護が取り出した紙束に絶望の表情を浮かべる。


「もしや、とは思うが、まさかそれが土産とは言わんじゃろうな?」

「流石、長年の勘が冴えわたりますね」

「これほど自身の勘を恨んだことはないぞ」

「勝手に恨んでくださって構いませんので、追加の資料ですよ」


 龍造達の恨み節を華麗にスルーして、大護は持っていた資料をテーブルに置いた。


「この後、班長へ連絡と昼食をとるので、午後は少し遅れるかもしれません」

「ならさっさと行かんか!」


 龍造とソウゴに追い出されるようにして、アルカ達は会議室を後にし、オオサカ支部三班の部屋に向かった。


「何でここなんですか?」

「部外者に聞かせるわけにはいきませんので、内情を知っている関係者しかいないからですよ。会議室では煙たがられますから」

「ここは俺がいるんだが?」

「我慢してください」


 大護はセザールの苦言をバッサリと切り、情報端末でヴィクターに連絡を取る。


『何かあったか?』

「はい、神意教の神官との会合について少し……」


 春門神官との会話と資料を入手したことなどを報告していく。

 時折、質問を交えながら聞いていたヴィクターは、報告を聞き終えて話し出す


『神意教の件はよくやった。手渡された資料は信用できるものだろう。過信しすぎない程度に使え』

「何故、信用できると?」

『その声はセザールか。簡単な話だ。神意教はアルカとキョウに悪感情を持たれたくないからだ』


 神意教にとって、班員でありながら金の刻印を持つ二人は、是が非でも取り込んでおきたい存在なのだ。その二人が、神意教に対して不信感を持つような手を打つとは考えにくい。


『セザール。この件は箝口令を敷いている』

「わかっています」

『それは結構。アルカ、キョウ。新たに疑問が出てきた。こちらに戻ってから話を聞くので、そのつもりでいなさい』

「マジかよ……」

「おや?キョウ、不満ですか?折角、班長が貴重なお時間を割いてくださると言うのに」

「いえ、そんなことは決してありません!」

「よろしい」


 不用意な一言を聞いて詰め寄る大護に対し、背筋を伸ばして応答するキョウのやり取りを背後に、セザールは神妙な面持ちでいた。


「班長、一つ質問があります」

『何だ?』

「……俺は……上に行くことが出来ますか?」


 その質問は、セザールにとってとても大切なものであることは、声のトーンからもヴィクターに伝わったようだ。

 たった数秒の沈黙。セザールは緊張している様子で、荒い息遣いが聞こえる。


『現実を言うのなら、難しいと評せざる負えない』


 セザールの拳がグッと握られるのが分かった。だが、そこで話は終わらなかった。


『だが、難しいからと言って投げ出すような者では、班長の肩書は重すぎる。この地位に着いた時点で“難しい”は“可能”にしなければならない』


 たとえどれほど確率が低かろうと、命を賭してやり遂げなければならない場面がある。たかが“難しい”で諦めるなら、一生不可能だ。班長の肩書は、そんなに軽いものではない、とヴィクターは続けた。

 それは、奇しくも春門神官と同じ考え方で。

 セザールは今一度、拳を強く握り直した。


「ありがとうございます」

『助けになれたのならばよい。他に何か聞きたいことは?』

「いえ、ありません。大護達は?」

「残念ながら無いです」


 大護は悲しそうに俯いた。アルカとキョウも首を横に振る。


『諸君らの健闘を期待している』


 その言葉を最後に通信が切れた。


「さて、昼食を食べて資料の精査に戻りましょう」

「ごはーん!」


 昼食と聞いて目を輝かせるキョウと、別の意味で目がギラついているセザールを見やる。


「変わりましたね」

「腐るよりいいでしょう」

「アルカ、行くぞ!」


 キョウに腕を引っ張られて昼食に向かう。

 部屋を出る時に見えたセザールの表情は、柔らかく見えた。





 昼食を終えて会議室に戻ると同時、昼休みが終わる。


「これをやるのか……嫌だなぁ」

「キョウ、さっさと目と手を動かす。ダラダラしてると終わらないよ」

「ぐえぇ」


 潰されたカエルのような鳴き声を上げる、キョウの資料を捲るペースは遅い。座学赤点ギリギリには辛い作業のようだ。

 一方のアルカは、的確に資料を精査している。そのスピードは普段から慣れている大護に迫るほどだ。方法がキチンと決められているものならば、アルカにとって簡単なのだ。


「はー、早いのう。こりゃあ楽じゃ」


 事実、大護とアルカだけで残りの五人の作業量をはるかに上回っている。このままいけば今日中に終わりの目途が立つだろう。

 その日はひたすら資料の精査に努めた。最初の方こそ、文句を言うだけの元気があったキョウも、次第に口数が少なくなり、終いには全く話さなくなった。

 会議室内に資料を捲る音、ペンを動かす音、電卓を叩く音など無機質な音が支配し、黙々と精査が進む。

 そして、業務終了の時間になった。


「お、終わった……」

「これなら不死者討伐遠征の方がはるかにマシじゃ……」

「何故アルカはそんなにピンピンしているんだ……」


 死屍累々の会議室にそんな声が響いた。

 訓練生時代の座学の勉強、もといキョウに勉強を教えるのに比べたら楽である。“寝る・逃げる・忘れる”の三点セットの前に、何度挫けそうになったことか。


「キョウに勉強を教えたらわかります」

「意味が分からん」


 頭に疑問符を浮かべる面々だが、きっと知らない方がいい。アルカは絶対にそう思う。

精査済みのものと、そうでないものは分けて片付けていると、一班の班員が戻って来た。


「戻ったぜ」

「何か動きは?」

「何も。怪しいくらい何もない。そっちは?」

「資料から不審な企業はピックアップしている途中です。新たに情報も入ったので、明日の終わりには進展が見られるかと」

「ホントかよ!ようやくこのつまらねぇ張り込みから解放されんのか」


 ミハイル達は安堵した様子を見せる。


「なので、最後まで手を抜かないようにしてください」

「わかってるって。よしっ、お前ら!気合い入れてくぞっ!」

「応!」


 気合を入れるのなら明日でいいのではないだろうか、そう思ったがアルカは口には出さない。折角、やる気を出しているところを邪魔する必要はないからだ。

 そんな騒がしい集団は去っていき、資料の片付けも終わった。


「さて、我々も帰りましょうか」

「大護、ミハイルにああ言うってことは、新しい資料とやらは余程の代物だな?」

「ええ、班長も使って良いと判断しました」

「ヴィクターが言うなら問題なかろう」


 その会話を機に、一同は宿舎代わりの列車に戻り、明日に備えるのだった。


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