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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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49 助言

「ほいひ~」

「美味しいのは分かったから、飲み込んでから話して」

「あらあら、元気がいいのね」


 運ばれてきた料理はどれも絶品だった。キョウにいたっては口の中に何かをずっと頬張っているような始末だ。

 キョウがあまりに美味しそうに食べるので、アルカはキョウの頼んだ料理を少しずつ分けて貰ったくらいだ。

 そんなアルカとキョウのやり取りを微笑ましく見守っているのが朱音で、傍から見ると本物の保護者に見える。

 昼食を食べ終え、各自が飲み物を飲み始めた頃に、アルカは朱音に捜査の写真を見せた。


「この写真の人物達を見かけたりしていませんか?」

「ん?どれどれ……あら、そういうこと」


 写真を一通り見た朱音は質問に答えず、一人で勝手に納得してしまった。

 アルカが疑問符を浮かべていると、朱音は写真の一枚を指差した。


「この人はよく知っているわ」

「本当ですか!?」

「早合点し過ぎよ。アルカちゃん」


 テロ組織に一歩近づいたと思い、知らず知らずの内前のめりになったアルカに、朱音は落ち着くように促した。


「知っているだけよ。昔、わたくしが捕らえた死神だから。期待に沿えず申し訳ないわ」

「いえ……私が早とちりしただけですから」

「気にすんなってアルカ。まだまだ捜査は始まったばかりだし」


 少ししょんぼりしているアルカに励ましの言葉を掛けるキョウを見て、朱音は優しく微笑んだ。


「キョウちゃんの言う通りよ。捜査は何十という無駄足の上に一つの手がかりを得るものなの。少しずつ、でも確実に真実に近づいていけばいいのよ。一足飛びに行こうとすれば足元をすくわれるわ。焦ってもいい結果は来ないのよ」

「だってよ」

「うん、そうだね」

「ふふっ、二人はとてもいいチームね」

「そうでしょうか」

「互いが互いの短所を補い、長所を伸ばすことは簡単ではないわ。無意識的に出来ているのは素晴らしいことよ。大切にしなさい」


 朱音はべた褒めをするが、アルカとキョウはいまいちしっくりと来なかったようで、顔を見合わせる。

 何時かわかる時がくるわ、と話す朱音はどこか遠くを見ているように見えた。しかし、視線はすぐにアルカ達に戻ってくる。


「そんな二人にヒントをあげましょう」

「ヒント、ですか?」

「ええ、そうよ。後これは独り言だから」

「ヒントなのに独り言なのか」

「気にしたら負けよ。では話すわね。まず写真の男だけど、わたくしの記憶が正しければテロリストだったはずよ。それ以外にも“進化種”関連の過激派もいるわね。そうなるとこの写真に写る人達も危険分子という予測が立つわ。これだけ人数を探しているのなら大きな組織でも作ったのかしらね」


 写真を見ただけでここまでわかるとは、流石としか言いようがない。元次期班長の名は伊達ではないようだ。

 しかし、朱音はこれだけでは終わらなかった。


「それに、あなた達が来たことも判断理由の一つよ」

「私達が?」

「昨日から突然軍服を着た少女達が人探しをしているって噂が広まったわ。気になって調べてみたらオオサカでは見慣れない、わたくしには見慣れた顔がいるのですもの。わざわざトウキョウから腕利きの班員が派遣された時点で危険な任務に決まっているわ」


 大規模なテロ組織ならばそれらの説明がつく、そう締めくくり朱音はコーヒーを一口含んだ。

 対してアルカとキョウはあっけにとられていた。こちらが聞いた写真からだけでなく、噂から事実を見つけ出し、複数のルートから事実を確認し、仮説を組み立てる。簡単に行っているようだが、実際は難しい上にこの短期間で、一人で調査したのだ。

 開いた口が塞がらない二人を面白そうに観察していた朱音はさらに追い打ちをかける。


「ここからは助言みたいなものね。わたくしだったらどう考えるかを教えてあげるわ」

「まだ、あるのか……」

「ここからが本番よ。これまではわたくし視点の事実を分析した上で仮説を立てただけ。あなた達は既知の事実でしかないわ。そして、あなた達はここで止まっている。そうよね?捜査が進んでいるのなら聞き込みなんてしないもの」


 図星だった。


「本来はどのように捜査を進めるかは総指揮が考える事なのだけれど、知っていて損はないわ。まずテロ組織だけど、この写真の人数以上にいることは確実よね。さらに言うなら彼らは幹部クラスの人間よ。末端まで含めたら想像の倍は居ると考えておくべきね」

「倍……」

「多く見積もっておくくらいがちょうどいいのよ。多すぎるのも問題なのだけれど。それで、それだけの人数、どこにいるのかしら?捜査に進展がないなら、何処かに隠れているのは明白よね」

「でも何処に?」

「それを予測することが重要なのよ。アルカちゃん、あなたなら何処に隠れるかしら?」

「私ですか……」


 何処に隠れるべきか。人目につかない場所や一般人が近づかない場所。そうなると第二防壁近くの入り組んだ区画か、それこそ都市外に潜伏することが最善ではないか。

 そんなアルカの答えは、朱音には満足いくものではなかったようだ。


「素人の答えとしてなら合格。でもね、班員としての答えなら失格よ。一人二人の潜伏ならばわかるけど、大人数が隠れるにはアルカちゃんが挙げた候補はどれも不適格だから。何故だかわかるかしら」

「……大人数が動くとどうしても目立ちます。全員が誰にも見つかることのないように動くのは至難の業だからだと思います」

「その通りよ。訓練を積んだ班員ならば出来るでしょうけど、素人に毛が生えた程度の集団では無理があるわ。さらにもう一つ大きな理由があるの。キョウちゃんは何だと思う?」

「え!?アタシか……うーん……」


 腕を組んで考えこむキョウだったが、一分も経たず朱音に視線を戻した。


「うん、わからん」

「……キョウちゃんはいつもこうなの?」

「……概ね、いつもです」

「そう……アルカちゃんも大変ね。ではキョウちゃん、考え方を変えましょう。潜伏するにあたって必要な物は何かしら?」


 朱音は椅子の上で小さくなっているアルカに同情の念を送り、今度は少し具体的な質問を投げかける。


「必要な物?食いもんは必須だな。あと住むところ」


 キョウの意見にアルカも同意だ。廃墟群での任務を思い出すと、やはり食料は必須だという結論に至る。

 住むところも長期間潜伏するのならば、しっかりと雨風凌げる場所の方が良いに決まっている。都市外調査訓練でのテント生活と廃墟群での拠点では疲れのとれやすさや、何より精神的に楽だったのだから。


「わかっているじゃない。都市外は長期間の潜伏は厳しいわ。それに食料や水を定期的に運び込まなければならない。大人数だと量も多いし物凄く目立つのよ。都市外に運ぶのならば尚更ね。かと言って第二防壁近くは人口が多い分、人の目に付き易いから潜伏にも食料の運び入れにも不向きなの」

「なるほど。話は分かります。ですが、そうなると歓楽街やオフィス街、ここや第一区画のような整備された区画になりますよね?そこで目撃情報が無いのはおかしくありませんか」


 どこも人も目は必ずあるし、建物などの所有者もはっきりしている。隠れようにも知らない人物が大勢出入りしたら、噂が立つものだ。

 そんなアルカ意見をやんわりと朱音は否定した。


「それがそうでもないのよ。大通りですれ違う人の顔なんて、案外覚えていないものだし、大企業なんて呼ばれる会社の建物なんかは特にね。知らない顔がいても当然で、寧ろ知らない顔の方が多いくらいよ。恰好が場違いでない限りわからないものなのよ」

「そうなんですか……って、待ってください。その話し方だとひょっとして……」


 大企業がテロ組織のバックボーンとして存在していることになりませんか、そのが言葉が出てこなかった。

 もしそれが事実なら、想像以上に根が深い事件になるのではないか。そしてアルカとキョウはそれに一番深く足を突っ込んでいることになる。


「実際はどうかわからないわよ?でも、わたくしはそう考えるわ。幾つもの選択肢の中から一番可能性の高いものだから。それに昔からのことわざに、木を隠すなら森の中というものがあるのよ。大勢の人を隠すならさらに大人数の中に潜り込めばいい。さらに付け加えるなら、その条件に見合う企業なり集団はかなり絞り込めるわ。たとえ空振りでも時間の浪費は少なくて済む。時間効率から考えても悪い選択肢ではないのよ」


 朱音の説明に、アルカは何も言い返せなかった。アルカの考えよりも遥かに説得力のあるものだったからだ。

 自身の考えの至らなさと、関わっている任務の大きさを知った気がしてアルカは首を垂れるしかなかった。

 

「気にし過ぎよ。二人はまだまだ新人なのだから知らないことも間違いも当然なのだから。先輩達がどう考えているのかを学び、間違いから気付きを得て成長していくものなの。初めから完璧に出来る人なんてほとんどいないわ。そんなことできるのは天才だけよ。もしかしてアルカちゃんは自分が天才だと思っているの?」


 まさかそんなことは思っていない。天才ならばこうしてショックを受けることも無いし、廃墟群で連絡役を守りきれたし、そもそもその前に容疑者を確保できている。そして何より、自身の育て親であるクアド神官を消し飛ばすことなど無かった。

 故にアルカは首を横に振る。天才どころか失敗ばかりだからだ。


「それでいいのよ。前は駄目でも、次に成功すればいい。そのためにはどうすればいいか学び、考えることが大切よ。忘れないでね」

「はい、朱音さん」


 胸の中にあったモヤモヤがまた少し晴れたような気がした。


「ふふっ、とても素敵な笑顔じゃない。さてと、随分と話し込んでしまったみたいね。そろそろお暇しましょうかね」

「有意義なアドバイスと時間をありがとうございました」

「いいのよ。可愛い後輩達と話す機会に比べたら安いものよ」


 席を立って、そのままレジに向かおうとした朱音をアルカは慌てて呼び止めたが、「奢りって言ったじゃない」と、料金を払われてしまった。

 別れ際に、アケミによろしく、と言葉を残し朱音は颯爽と歩きだす。

 その後姿を見送りながら、アルカとキョウも午後の聞き込みに向けて気合を入れなおす。


「飯も食ったし、いっちょ頑張りますか」

「そうだね。いい出会いもあったし」

「だな。それにしても……」

「どうしたの、キョウ?」

「独り言とずっと会話してたな」

「それは……そうだね」


 至極真面目な顔なキョウに、アルカは苦笑いを浮かべるだけだった。


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