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死神少女は生きています  作者: 気晴
第一章 独立機動隊の新人
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04 第三区画

「あれが第二防壁です」


 近づいてくる壁を見て大護がそう告げる。


「第一防壁とだいぶ雰囲気が違いますね」


 アルカは最初通り抜けた第一防壁を頭の中で比較する。防壁自体が一回り小さく、物々しさは無くなり、代わりにシンプルなデザインになっているのだ。

 その疑問に答えるように大護が話す。


「建造された時期が全く違いますからね」


 曰く、不死者との大規模な戦いがなくなり、比較的平和になったことで人口が大きく増加し、第一区画だけでは到底守り切れなくなったために建造されたとのこと。


「第一防壁の数倍の距離を建造するのに加え、資材と工期の関係で簡素になったそうです」

「ちゃんと理由があるのですね」

「第二区画に歴史博物館があるのですが、そこで学ぶことができますよ」


 私のおすすめの場所です、と締めくくり、第一防壁同じように門にいる機動隊員に情報端末を見せる。

 ご苦労様です、と見送られ門を通り抜ける。


「雰囲気が変わりましたね」


 一見するだけでは、道路や道沿いの建物は比較的きれいで、第二区画と大きな違いはないように見える。しかしアルカの目は路地から見える光景をしっかりととらえていた。どこか淀んだ空気を感じつつ周囲を見ていると、キョウと目が合う。どうやらキョウも空気の違いを感じているらしい。

 二人の様子を見た大護は、感心したように口を開く。


「二人とも流石ですね。すでに雰囲気の変化に気づけるのですから。ここに初めて入る新人は第二区画と変わらない、と最初は言うのですよ」


 そう言って、大護はピンッ、ときたらしい。


「ああ、二人は都市外移住者アウトシティでしたか。なら知っていても不思議はないですね」


 大護は納得したように頷く。

 アルカとキョウは都市外移住者-都市シティを離れ、自然の中で生活する人々-の子供である。保護された際、ここを通ってきた記憶があるのだ。生まれ育った雰囲気によく似たこの場所の。

 門から進むにつれ段々と雰囲気が変わってくる。ボロボロの建物、汚れた地面、そして何よりもそこにいる人からは余裕のなさが伝わってくる。


「大護さん、あれは何ですか?」


アルカは指をさして尋ねる。その指し示す先には異彩を放つ巨大な建物と、その建物の前にたくさんの人が集まっていた。

それを見て、大護は初めて不愉快そうな顔をする。


「神意教とその信者ですよ。……二人はあまり嫌悪感がないようですね」

「それは……。私たちを育ててくれた人が神意教の神官でしたし、保護してくれたのも神意教の教徒でした。」


アルカの言葉に、大護は驚く。


「そのような人が神意教にもいるのですね」


 今度は大護にアルカは質問を投げかける。


「大護さんはあまり神意教をよく思っていないようですが、何故です?」

「今まで何度も神意教と関わってきましたが、嫌がらせや捜査妨害など散々、受けてきましたし、テロ組織とつながっているなんて噂もありますからね」


 その言葉に、今度はアルカが驚く。


「大問題じゃないですか。機動隊はなぜ神意教を取り締まらないのですか?」

「あまり厳しく取り締まると、その方が問題が大きくなるからです」


 なんでも神意教は大変革直後から存在し、ずっと人の営みを支えてきたのだ。その影響力はとても広く強い。また、特に何の力も持たない人間の心の拠り所であり、今でも多くの信者がいる。彼らの不満を一身に受け止めているのも神意教であり、機動隊に矛先が向くのを防いでいるのだ。

 

「多少邪魔でも、直接被害が出るよりはマシということで放置されているのが現状ですね」


 はぁ、と大護はため息をつく。


「教義をもう少し変えてくれればよいのですが」

「“大変革は神の怒りである。人間は世界の理に逆らわず、自然に身を任せよ“ってやつですよね」


 当然二人は知っている。自分たちを育ててくれた神官が毎日のように言い聞かせてくれたものだからだ。

 だからこそ何が悪いかがよくわからず、アルカは首を傾げる。


「教義の解釈は人それぞれですが、第三区画では二人を育てた神官とは違う解釈がされています。人間ががん細胞で不死者は特効薬、そして死神は抵抗性がん細胞であると。本来人間は不死者によって絶滅するのが自然の摂理である。ならば、その摂理に反する死神は人間ではない。神の御心に沿わない物は滅ぶべきだ。……と、おおよそこれで間違いないです」


 アルカとキョウは目を見開く。だが同時に納得してしまった。自分たちが生まれた村で、殺されかけるほど嫌われていたのだから。


「彼らにもいろいろ事情があるのでしょう。しかし気を付けて下さい。ここでの神意教は味方ではありません。むしろ死神に敵意を抱いています。そのことを念頭に置いて任務にあたってください」


 大護はそう言葉を締めくくった。

 車内に静寂が広がる。

 いつの間にか道路横の建物はほとんどなくなり、代わりに畑が広がっていた。





 魔力自動車が止まる。大護に降りるよう促され外に出る。

 畑ばかりの中に、門と建物、そしてずっと遠くまで続く鉄柵はよく目立った。


「ここが第三区画の終わり。つまり都市の端になります」

「ずいぶんと寂しいところですね」


 ちらほらと畑に人がいるのは確認できるが、それ以外には、建物の屋上にいる見張りくらいしかいないのだ。


「ここは寂しいくらいがちょうどいいです。騒がしくなったら確実に事件ですから」


 「このあたりなら出歩いてもいいですよ。私は少し用事を済ませてきます」と言って、大護は建物に入っていった。

 ずっと座っていたせいか、体が凝っているように感じ、一度伸びをしてから歩き出す。


「ホントに何もないなぁ」

「そうだね」


 のんびりと流れる時間の中、鉄柵から外を眺める。鉄柵のすぐ向こうは一段低くなっており、水が溜まっていた。その水は鉄柵に沿うようにして堀のようになっている。


「こんな貧弱な柵で大丈夫なのかよ。死神なら簡単に壊せるぞ」

「だからこんな大規模な堀があるんでしょ」


 キョウの疑問にアルカが答える。しかしキョウは余計に意味が分からなそうな顔をした。

その顔を見て、アルカは内心呆れつつ説明する。


「授業で習ったでしょ、不死者は水が苦手って。雨に濡れるのはともかく、川や海は渡れないんだよ」

「そうだっけ?まあいいや」

「よくない。堀があるだけで不死者の侵攻ルートがかなり限定されるから、防衛しやすくなるんだよ」

「へー、そうなんだ」

「どうかしましたか?」


 気が抜けているところに、突然声を掛けられ、二人はバッと振り向く。そこには、にこやかに笑みをたたえた大護が立っていた。用事を終え、気配を消して近づいたらしい。


「いえ、なんでもありません」

「そうですか。ちなみに第二区画や第三区画も、至る所に水路が張り巡らせてありますよ」


 ちゃっかり話を聞いていたらしい大護は、そう付け加える。


「さて、本部に戻りますよ。第二区画で昼食を食べて、午後から他の班員とともに訓練です」

「はい」


 元気よく返事をし、魔力自動車に乗り込む。

昼食と聞いて、キョウの尻尾は元気よく揺れていた。



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