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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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48 出会い

アルカとキョウの二人は昼食も兼ねて近くにあったカフェに入り、外が良く見えるテラス席に座っていた。


「……疲れたよ……キョウ……」

「あぁ、うん。頑張ったな、アルカは」


机にぐったりと伏せたアルカにキョウは同情の視線を送る。

 聞き込みを進めていくうちに、いつの間にか可愛い機動隊員がいるという話が拡散されていったのだ。

 二人が気が付いた時には小さくない人だかりになっていたのだ。写真や、何故かサインも求められたりもした。

 特にアルカは背が低めなこともあり、頭を執拗に撫でられ、もみくちゃにされていた。

 これが敵であれば容赦なく腕をへし折るところだが、単なる好意と好奇心から来るものなので無碍に出来なかった。


「にしても、トウキョウと全然違うな。アタシ達を怖がったりしないし」

「それはいいことだけど、距離が近すぎるよ」

「おかげで聞き込みは進むけどな」


 途中から声を掛ける必要がないくらい集まって来たので、手あたり次第に写真を見せて聞き込みをすることができた。

 残念ながら手掛かりは何も得られなかったのだが。

 食事をとり英気を養った二人は再び聞き込みに向かった。



――



 日が落ちて空が暗くなり始めた頃、アルカ達派遣組は会議室に集まり報告会をしていた。

 どのチームもこれと言った情報はなく空振りだったようだ。


「私の方でもデータベースを精査してみましたが、組織されてから日が浅いせいもあり、当たりはありませんでした。地道に捜査していくしかなさそうです」

「はぁ、面倒くさいが、その通りだろうな」

「これは案外、長丁場になるかもしれんのう」


 その後は適当に話が進み、解散となった。

 ちなみに食事の時の雑談は、アルカとキョウの担当地域の話が大いにうけた。

 戦闘があったわけでもないのに非常に疲れたアルカは、ベッドに入るなりすやすやと寝息を立て始めるのだった。

 翌日、進展などの情報が無い為、朝食を済ませてそのまま担当区画に向かう。

 今日は昨日の場所よりもさらに高級な店が立ち並ぶ一角だ。なので、当然アルカとキョウの格好は一段と目立つ。そして、昨日の噂が広がったらしく、明らかにアルカとキョウに興味の視線を向ける人が多い。


「うわぁ……嫌だなぁ」

「諦めるしかないだろ」


 アルカの耳は元気がなくへこたれてしまった。ガックリと肩を落としたアルカに、キョウは優しく声を掛ける。

 そんなアルカをよそに、早速、むこうから声が掛けられる。


「うわー、本当にいるよ!」

「かわいい~。撫でていい?」

「本当に君達機動隊員なの?」

「握手してください!」


 等々、新しい集団が来る度に同じような質問をされ、撫でまわされ、昨日以上の勢いに、アルカもキョウも対応に苦慮しながらも何とか応戦していき、情報を集めていく。

 しかし、そんな苦労を払ったのにもかかわらず、有用な情報は集まらなかった。

 昼も近くなり、人の波が切れた隙に場所変えも兼ねて移動する。

 ずっと話しっぱなしだったので、昼食くらいは静か食べたいという意見は一致し、脇道に入り飲食店を探す。


「こっちだな」

「なんで?」

「いい匂いがした」

「……しないけど?」

「マジ?」


 大体こういうご飯が絡むときはキョウの勘は非常に有用なことをアルカは知っているので、それ以上は何も言わなかった。

 知らない土地を迷うことなく進んでいくキョウの後をつけていくと、人通りのほとんどない綺麗な道に出た。

 そして、同時になにやら壁際に佇む女性を数人の男性が囲んで声を掛けている現場にも出くわした。


「なぁ、いいだろ?俺達と少しお茶しようぜ」

「……」

「いい店知ってんだよ。もちろんこっちの奢りだ」

「……」

「沈黙は賛成と取るぜ」

「……鬱陶しいわ」

「……は?」


女性は色っぽい声で、冷たく言い放った。サングラスをかけているので目は見えないが、確実に軽蔑の眼差しをしていた。

対して男性側は、最初何を言われたのか分からなかったようで間抜けな顔を曝していたが、断られたと理解するとともに怒り出した。


「おい女ッ!さっきから優しくしてりゃ調子乗りやがって!」


 詰め寄っていた男性は逆上し、顔を真っ赤にして女性に襲い掛かる。逃げ場のない女性に手が届きそうになったその時、横から腕を掴まれた。


「これ以上は言い訳できませんよ」

「何だこのガキ……」


 掴んでいる腕を振りほどこうとしたが、びくともしない。腕を掴む少女を見ると、動物の耳がぴくぴくと動いていた。

 軍服を纏っていることからも機動隊ということを理解し男性は一歩後退った。


「あ……いや、これはだな……」

「ただ手を伸ばしただけ、ですか?」

「そ、そうだ!」

「そうですか」


 アルカが手を離すと、男性達はそのまま逃げるようにどこかに行ってしまった。


「お疲れさん」

「これくらいなら疲れもしないよっと、そうだ……お怪我はありませんか?」


 キョウの軽口を適当に受け流し、女性に声を掛ける。

 しかし、当の女性の方はアルカとキョウを興味深そうに観察しており、返事がなかった。


「大丈夫か、この人?」

「キョウ!?あ、あの、大丈夫でしたか……?」

「ん?ええ、おかげさまで掠り傷一つないわ。ありがとね」

「そうですか。良かったです。それではこれで」

「待ってちょうだい」


 女性の無事を確認できたのでアルカとキョウの二人も立ち去ろうとしたが、呼び止められてしまった。

 昼食前なのでキョウがそろそろ限界を迎えそうなのだ。お腹がすいた状態のキョウの相手は面倒なので、早く終わらせてほしい。


「助けてもらったお礼としてランチでもどうかしら?」

「喜んで!」

「あら、よかったわ。すぐ近くに行きつけのお店があるのよ」


 キョウの事を知ってか知らずか、そんな言葉を口にした女性に見事キョウはつられてしまった。

 脊髄反射的に返事をしたキョウは、既に女性の後をついてしまっている。アルカは呆れながらもそれに続いた。


「ここよ」


 歩くこと数分、一つの店の前で足が止まる。そこはお洒落でありながら落ち着いた印象を与える、少し古そうな店であった。

 店内はアンティーク調で、別世界に迷い込んだようにも感じる。


「好きな物を頼んでいいわよ。わたくしの奢りだから」

「いえ、でも……」


 メニューを見るとどれも中々のお値段であり、恐縮気味になるアルカだったが、キョウは一切気にする様子も無く注文していく。

 女性の方も値段を気にする様子も無く、平然と注文していたので、アルカは申し訳ない気持ちになりながらも、自分達では選ぶことが無い店なので、キョウを見習ってお高めの物を注文した。

 

「改めてありがとうね。若い機動隊員ちゃん」

「あ、いえ、あれくらいなら楽勝です」

「流石は班員。もう慣れっこかしら」


 思わずアルカは目を見開く。班員とは一言も言っていないのにもかかわらず、確信を持った口調で断言されたのだ。

 警戒心を高めるアルカの様子を、それはそれは楽しそうにみていた女性はさらに口を開く。


「『何故、班員だと分かったのか』かしらね、その顔は」

「っ!」

「そうねぇ。身のこなし、力の強さ、雰囲気等々、色々あるのだけど、一番は乙女の勘かしら」

「乙女の勘?」


 意味が分からず、女性の顔をまじまじと見つめてしまう。

 緋色の髪、シミ一つない綺麗な肌、目はサングラスで隠れているが、左目の目元に泣きぼくろがある。顔のパーツが全体的にバランスよく配置されており、滅茶苦茶美人だという予測が出来る。


「そんなに見つめられると恥ずかしいわ」

「すいません!」


 頬をほんのり朱色に染め、はにかむ姿は絵になる美しさだった。


「ふふっ、冗談よ。乙女の勘も」

「冗談だったんですか」

「ええ、そうよ」

「乙女って年じゃないのか」

「キョウ!」


 とんでもなく失礼なことを言うキョウの口を、慌てて塞ぐアルカのやり取りを、女性は上品に笑うだけだった。


「いい?背の高いお嬢ちゃん。乙女って言うのは年齢ではないわ。本人の在り様よ」

「はぁ?」

「乙女とは他人が決めることではなく、自分が決めることなのよ。もっとも、一番乙女として輝くのは、自身が乙女としての自覚を持っていない時なのだけどね」

「そうっすか」

「そうなのよ」


 まるで興味がないキョウのそっけない返事に、女性はとても嬉しそうだ。

 恐らく、今この瞬間のキョウが乙女として輝いていることが分かっているのだろう。キョウが可愛いのは、アルカも認める所存である。


「楽しくて脱線してしまったわ。何を話していたのかしら」

「乙女の勘が冗談ってとこです」

「そうだったわね。簡単に言うと私も班員だったのよ。だからこそ分かったの」


 女性が班員だった。それを聞いてアルカはピンと来た。

 このアケミによく似た話し方といい、緋色の髪の美人といい、オオサカに来る途中で話に出てきた朱音という人物ではないだろうか。

 ここまで情報が一致しているので、間違っているとは思わないが、恐る恐る聞いてみることにした。


「もしかして朱音さん、ですか?」

「あら、わたくしを知っているの?」

「話で聞いただけですが」

「朱音って副班長を好きだった人だよな?」

「あらあら、そんなことまで知っているのね。何だか恥ずかしいわ」


 頬に手添えて少しだけ首を傾げる仕草は、とても様になっている。

 そんな朱音の様子を見て、こちらだけが名前を知っている事に気が付き、遅まきの自己紹介をする。


「今更ですけど、九十九 アルカです」

「アタシは轟 キョウだ」

「二見 朱音よ。ところで、二人はどうしてオオサカに来たの?」

「それは……」


 自己紹介とともに、何気ないように疑問が投げかけられる。

 「テロ組織の捜査と壊滅です」そう答えようとしたアルカだったが、サングラス越しの目がアルカをじっと見つめていた。まるでアルカを試すように。


「……任務です」

「任務?どんな任務なの?」

「これ以上は言えません」

「何故かしら?元とはいえ班員よ。教えてくれてもいいじゃない」

「ダメです。今は班員ではありませんから。一般人に詳細を伝えるわけにはいきません」


 朱音のお願いをアルカはきっぱりと断り、教えないという態度を示す。

アルカと朱音の視線が交差し、五秒も満たない沈黙の後、朱音がとても嬉しそうな笑顔で口を開いた。


「良く言えたわ。正しい判断よ。意地悪してごめんなさいね」

「いえ……」

「わたくしは元班員。任務の内容をおいそれと外部に漏らすことがどういうことなのか嫌というほど良く知っているわ。もし話していたら叱っていたところよ」


 朱音が上品に笑うのと頼んだ料理が来るのは同時だった。


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