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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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46 車中の雑談

「龍造さんは班長の師匠だったのですか?」

「そうじゃよ。ヴィクターの剣は儂が教えた。すごいじゃろ?」

「何を偉そうに。ヴィクターなら誰が師匠でもさして変わらんて。偶々お龍造だっただけだ」

「運も実力の内じゃよ。運がないソウゴには縁のない話だのう」

「何だと?」

「お?やるか?」


 ギャーギャーと言い合いを始めた二人を横目に、小十郎とテツが龍造とヴィクターの関係を詳しく教えてくれた。

 曰く、元々龍造とソウゴも一班所属だった。そこにヴィクターと豪が配属され、同じ武器を使用していたヴィクターが龍造に弟子入りした。

北部戦役後しばらくして、ヴィクターが三班に異動になる際、龍造とソウゴに話を持ち掛けて、一緒に異動した。

その後、特異技能が芽生えた小十郎とテツは、北部戦役での恩人であるヴィクターがいる三班に入ったそうだ。


「三班の中では龍造とソウゴのチームに次ぐ強さですから、都合よく使われるのですよ」


 かれこれ五十年以上の付き合いがあるので気心も知れた仲であり、今回のような危険な任務にはよく駆り出されるらしい。

 そんな話を聞いていると、龍造とソウゴの決着がついたようだ。互いに肩で息をしている様子から、引き分けになったに違いない。


「はぁ、はぁ……。今日はこれぐらいにしといてやるわい……」

「はぁ……それは……はぁ……こっちの台詞じゃ……」


 二人そろって捨て台詞を吐き、こちらに意識が戻ってくる。


「さて、どこまで話は進んだかの」

「北部戦役の話は終わりました」

「そうか。他に聞きたいことはあるか?」

「はいはい!オオサカってどんなところなんだ?」


 息を整えたソウゴに、キョウは元気よく手を挙げた。


「オオサカか。地方都市では最大の大きさだが、トウキョウと比べると小さい。第二防壁までしか存在せんからな」

「儂もそれほど詳しくはないが、方言といって言葉遣いが変な奴が多いはずじゃ」

「食事も変わったものがありますね。美味しかったはずです」

「ご飯!」

「……地方は文化や風習が独特だ。トウキョウと同じようにはいかないと思った方がいい」


 美味しい食事と聞いてハイテンションなキョウに、小十郎の言葉は聞こえていないだろう。ご機嫌そうに尻尾がピンッと立っている。

 しかし、トウキョウと同じようにはいかない、その言葉はよく覚えていた方がいいとアルカは思う。心構えがあるだけでも、だいぶ楽になるのだから。


「独特な風習って例えばどういうものがあるのですか?」

「そうじゃなぁ。人との距離が近かったり、騒ぐのが好きな連中が多い気がするのう」

「キョウなら問題ないだろうが、アルカは少し面倒に感じるであろうな」


 その言葉で、アルカは気が重くなった。事実、騒がしい相手は苦手である。


「ま、これは慣れていくしかないのう。諦めろ」


 そっけなく言われて、アルカはガックリと肩を落とした。


「後はテンションが上がると川に飛び込むな」

「何でですか?」

「さあの。儂も知らん」


 意味が分からない。謎が多すぎるオオサカという地で、果たしてアルカは生きて帰ることが出来るのか不安になった。


「そんな顔するなよ。何とかなるって」

「キョウの能天気さが羨ましいよ」

「それほどでも」

「褒めてない」


 照れたように頬を赤らめるキョウに、アルカは全力でジト目を送る。

 そんな二人のやり取りで談話室は笑い声に包まれた。

 ちょうどその時、談話室の扉が開き大護が入って来た。


「あ、副班長」

「全く、何処をほっつき歩いとったんじゃ」

「他班との打ち合わせがありましたので。それにしても扉越しにも笑い声が響いていたのですが、どのような話をしていたのでしょう?」

「オオサカの話とかワシらの昔話じゃな」

「班長のはなむぐぅ……」

「待て!キョウ!」

「ほほう?班長の話ですか」


 咄嗟にキョウの口を塞ぐものの、時すでに遅し。大護の目が今まで見たどの時よりもギラギラしている。


「気のせいじゃ」

「班長はなかなか過去を教えてくださいませんから是非とも知りたいのです。本人視点の話もとても魅力的ですが他視点から見た班長の活躍はさぞ素晴らしいものでしょう。何時何処で班長がどの様にご活躍されていたのか詳細にお話ししていただけませんか」

「面倒なことになりました。どうしましょう」

「何時如何なる時でも班長は光り輝いていたに違いありません。いったいどれほど輝いていたのか考えるだけでも時間があっという間に過ぎ去っていくのですが実話には及びません。何故私は班長と年が離れて生まれたのでしょう。年が近ければ直接その活躍を拝見できたというのに」


 間髪入れず話し続ける大護に、一同は物理的に距離をとった。


「そんなんじゃから女に逃げられるんじゃよ」

「……はて、何のことでしょう?」


 龍造が呆れた様子で言った言葉に、全く心当たりがないのか、大護は首を傾げた


「気づいていなかったのか。お前の相方だった朱音だ。確実にお前に好意を抱いていたぞ」

「そうなのですか。初めて知りました」

「そっけないのう。これでは朱音も浮かばれんわい」


 朱音という人物に大護は興味がない様子を見て、龍造をはじめとする老人達は盛大にため息をつく。

 アルカとキョウの二人だけ知らないため頭に疑問符を浮かべていると、いろいろと教えてくれた。


「大護の訓練生時代からの同期じゃ。隊員の時から飛びぬけて優秀でな、次期班長と目されていたんじゃよ」

「緋色の髪がトレードマークでかなりの別嬪さんでしたし、たしかアケミを妹みたく扱っていましたね」

「そうだったな。アケミの口調も朱音から移ったもののはず」

「……それに強かった。班長と平然と摸擬戦のできる数少ない人だった」

「突然、退役届を出した時には驚いたものじゃ。ヴィクターも引き留めたが、結局やめていったのう」


 それぞれの話を聞く限り、朱音という人物の評価は高く、アケミの姉みたいな存在らしい。性格に難があるわけでもないので、もし今も機動隊にいたらアルカやキョウの指導役になっているだろうという話だ。


「朱音はそこまで評価されていたのですね。初めて知りました」

「……お前はもう少しヴィクター以外に意識を割くことじゃな」

「善処します」

「それはしない奴の言葉だ」


 大護の様子から、ヴィクターが第一という考えが滲み出ている。

多分、この先も治りそうにない気がするので、一同ジト目を大護に向けた。

 なおこの時、ヴィクターの背筋に寒気が走ったのは、ここにいる全員が知らない話だ。


「さて、朱音の話はもういいでしょう。班長の話を始めましょう」

「待て、大護。ワシらは若いもんに戦場の厳しさを教えるために話をしたにすぎない。お前も若いもんに教訓の一つでも教えてやったらどうだ。」


 決してソウゴの言うような崇高な考えはなかった。単に昔話をアルカとキョウにしたかっただけなのだ。

 喉まで出かかったその言葉をアルカとキョウはグッと飲み込む。さっきみたいに大護の早口は聞きたくないから。

 そこからはヴィクターの話をのらりくらりと逸らしつつ、どうにか昼になった。


「おや、もうこんな時間じゃのう。昼にするかの」

「そうだな。約一名、待ちきれない様子だし」

「キョウ、よだれ」

「っ!」


 何か言いたそうな顔をした大護が発言をする前に、そそくさと食堂車に向かう。

 食堂車は広々とした空間に優美な装飾がなされており、高級な食事処のような佇まいだ。これは遠征中であっても食事の時くらいは優雅なひと時を楽しんでほしいという配慮かららしい。

 設置されているテーブルについて、備え付けられていたメニューに目を通す。廃墟群の時とは違い、今回は都市での運用となるため、自身の好きな物を頼めるようだ。

 各員、料理を選び、テーブルに備え付けられている装置で注文をする。

 食堂車での注文が、隣に連結されている調理用の車両に行き、しばらくすると料理が運ばれてきた。


「おいひー」

「はいはい。飲み込んでからしゃべろうね」


 キョウのお世話をしながら昼食を終える頃になると、アルカ達が入って来た方向とは違う扉が開く音がした。

 そちらの方に顔を向けると、一班所属のミハイルを含め四人が入ってくるところだった。


「聞いてはいたが、本当にいるんだな。人選ミスじゃねーのか、大護」


 入ってくるなり、またそんなことを言うミハイルにアルカとキョウはムッとした顔になり、大護が口を開こうとする。

 だがその前に声を上げた者がいた。


「なんだ、ミハイル。偉そうにしおってからに」

「げっ……ソウゴさん。いたんすか」

「げっではないわ、この馬鹿者!相手を見た目で判断するなとあれ程言ったのに、まだ身についておらんのか!」

「すいやせんでした!」


 背筋をピンと伸ばし、頭を深々と下げる様子に、アルカ達だけでなく一班の班員達も目を丸くしていた。


「あの、どういう関係で?」

「ん?ソウゴはミハイルの師匠じゃ。今やミハイルの方が強いが、それでも頭が上がらないんじゃ。頭の弱さも移ったんじゃろう」


 とつとつと説教をするソウゴに、ペコペコと頭を下げるミハイルという光景は違和感しかない。

 地味に面白い光景を眺めながら会話を聞いていると、アルカとキョウの話題が出た。


「ですがソウゴさん。今回の任務は特異技能が開花した死神と戦闘の可能性があります。ソウゴさんクラスでも遅延行動がやっとではないですか。それなのに、あの二人は若すぎます。特異技能が開花しているという話も聞いていません。無謀すぎます」


 人選ミス、そう言ったミハイルだったが、しっかりとした根拠がある事がわかる。しかも正論だ。


「お前の意見もわかる。強さに関しては、強くはあるがワシらに勝ててはおらんし、特異技能も開花しておるわけではない。だが、この事件に一番深く関与しておるのがその二人なのだ」

「その言い分だと、ヴィクターさんが推挙したのですか」

「その通り。最初に事件にかかわった者が最後までやり通すべき、そう言って聞かなんだ」


 ヴィクターの流儀で、そういうスジを通すところは誰よりも頑固らしい。

 ミハイルだけでなく、後ろにいた一班の班員達も納得したようだ。


「それなら仕方ないですね……おい小娘ども。あの時は助かったらしいが、次はそうなるとは限らねぇ。気を引き締めてやれよ」


 いつもの口調に戻ったミハイルがそう言うが、その言葉にとげとげしさは感じなかった。


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