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死神少女は生きています  作者: 気晴
第三章 積み重なる過去
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44 班長室と乱入者

 ゆっくりと羽を伸ばすことのできた休暇明け、アルカとキョウ、アケミは班長室に呼ばれる。

 例のごとく眉間に皺を寄せているヴィクターと、ニコニコ笑顔の大護が待ち構えていた。


「何か御用でしょうか」

「そう気張る必要はない。今回呼んだのはアルカの質問に答えるためだ。二人も知っておいた方がいいと判断してこの場に呼んだ」


 アルカとキョウはすぐにピンときた。一部の強すぎる死神についてだ。

 アケミは何のことかわからず、首を傾げながらアルカを見ていた。


「班長、アルカの質問とは何でしょうか」

「私達のような一部の死神が以上に強い理由を教えて欲しいというものだ」

「それは確かに疑問ですね」


 アケミも薄々は感じていたようだが、特に不自由はなかったためあまり気にしていなかったようだ。

 改めて言われてみると疑問に感じたようで、興味あり気にヴィクターに視線を向けた。


「さて、と言ってもそれほど難しい話ではない。死神の特異技能スキルがもう一段進化する、という話だ」

「特異技能の進化、ですか?」

「そうだ。特異技能が芽生えた死神は身体能力を始め、様々な能力が飛躍的に上昇することは覚えているな?」


 何時ぞやヴィクターが言っていたことを思い出す。その他にも、特異技能が何かの切っ掛けで芽生え、いきなり身体能力が向上するパターンと、徐々に身体能力が上がっていくパターンがあること。全く同じ特異技能は無く、必ず何処かが違っていることなどだ。


「はい、覚えています」

「それと同じように特異技能が進化すると、それに伴い能力が向上する。それがアルカの質問の答えだ」


 物凄く単純な答えが返って来た。だが、そこまで単純ならば、進化する人数が少ないのは何故だろうか。ヴィクターに尋ねると、これまた納得の答えが返って来た。


「死神の中でも班員に成れる者は少数だろう?班員の中でも特異技能が進化する者は少数なのだ。あぁ、そうだ。このことは特異技能の開花と呼ばれている」


 学術的にはこう呼ぶのが正しく、進化種と誤認されることも考えられるため間違えないように、とヴィクターは言っていた。

 アルカとアケミは納得したように頷いている中、口を開いたのはキョウだった。


「班長。どうやったら特異技能は開花できますか?」


 いつもは黙って聞いているだけだったキョウをヴィクターは見つめる。

その誰よりも真剣な目を見て、少しだけ目を細めた。


「途轍もなく難しいが、覚悟はあるのか?」

「あります」


 即答だった。いよいよ口の端が上がったヴィクターは答える。


「望むことだ」

「望む?それはいったい……」

「自身がどうなりたいか。どうしたいか。それを思い描き渇望することだ。誰よりも望み、願う意思がなければ特異技能の開花など不可能だ」


 もっとも、特異技能の開花について調査したが、その母数が少なすぎるため正確さに欠けるとことではあるがな、とヴィクターは言葉とは裏腹に自信を持って話す。

 班員ほどになると、もはや不自由など遠い世界の話でしかないため、より強く渇望することなどほとんど無い。もし何かを渇望するような場面に出くわしても、諦めが先に出てきてしまうため開花に至る死神はごく少数なのではないか、と仮説を立てているそうだ。


「わかりました。ありがとうございます!」


 その事実を目の前にしてなお、惚れ惚れするような笑顔ではきはきとお礼を述べるキョウに、ヴィクターは目を細めた。


「それだけ前向きならば、そのうち特異技能も開花しよう。アルカ、質問の答えとしてはこれで満足か?」

「はい。ありがとうございました」


 疑問が氷解したことで、アルカはスッキリとした表情を浮かべる。


「よろしい。次いで新たな任務について話がある。アケミは席を外してくれ」

「わたしはのけ者ですか?」

「近く静香が復帰する。彼女についていてやりなさい。それにこの任務は別の都市に行くことになる」

「それなら……」

「復帰後すぐに環境が変わると精神的に辛いものだ。まずはこれまでの業務を恙なくこなせるまでに成るように支えなさい」


 言外に、今はアルカと静香を会わせる訳にはいかない、という意味を理解し、アケミは押し黙る。

 そして、ヴィクターの意見に従い班長室を出ていった。


「さて、先程も言った通り次の任務地はここトウキョウではない」

「オオサカ、ですか?」

「察しがいいな。その通りだ。連絡役が所属していた『西の夜明け』というテロ組織の調査、及び壊滅が任務となる」


 これまでの任務に比べると、急に大事になった気がして、アルカの背筋は自然と伸びた。


「この任務はかなりの危険が伴うと考えられる。廃墟群で遭遇した敵がいるかもしれない。この任務に関しては辞退も許可されている。特に二人は機動隊に入って日が浅く、若い。故に辞退しても経歴に傷はつかない」

「私は……」

「返事は明日聞く。熟考して決断をしなさい。即断は結構だが、一度立ち止まって周囲を見ることも大切だ」


 参加したい、と言う前に言葉を遮られ、諫められた。

ヴィクターにはアルカが焦っているように見えたのだ。

ヴィクターから任務の判断材料として、現在決まっていることをヴィクターに伝えられる。

 この任務は一班と六班が加わること。総指揮は大護が執り、三班からは龍造とソウゴ、小十郎とテツが参加する予定だ。他班の人選は不明だが実力第一での選考のため、人格者が来るとは限らないらしい。

 勝てない敵がいるかもしれず、廃墟群で一班に絡まれ、その死神より酷い性格の可能性があり、三班も武闘派の人ばかりでついていけるか心配ではあるが、それを聞いてもアルカの決意は揺らいだ様子はなかった。キョウは言わずもがなである。


「本来なら私が総指揮を執るべきなのだが、政治家の横やりが入ってしまった。何でも『トウキョウの近くに危険なテロリストが複数いるのにもかかわらず、地方に行くなど以ての外』だそうだ」


 一見普通に聞こえるが、意訳すると「自分達を守るのが最優先だから遠くに行くな」となるそうだ。


「はるか故人の功績に縋って生き恥を曝す無能共め。少しは未来を考えて欲しいものだ」


 ヴィクターはこれ以上ないくらい不機嫌な様子で悪態をついた。

 その非常に珍しい様子に、アルカとキョウは目を丸くし、大護は目を輝かせている。

 そんな中、にわかに扉の外が騒がしくなり、そして勢いよく班長室の扉が開かれた。


「よう、ヴィクター。邪魔するぜ」


 扉を窮屈そうに潜り抜け入って来た人物にアルカとキョウは目を見開いた。

それもそのはずである。二メートルを優に超える身長、丸太のような四肢、軍服からはちきれんばかりの筋肉。そして、獰猛な肉食獣の頭をしていたのだから。

アルカの記憶にある動物図鑑のライオンとよく似た顔の人物は、アルカ達に目もくれず、ずかずかと突き進む。


「豪。お前は本当に邪魔しかしないから帰ってくれ」


 元来、表情が鉄仮面なヴィクターが、この時ばかりは心底嫌そうな顔をしていた。

 しかし、豪と呼ばれた人物はお構いなしに話を続ける。


「こんなところで座ってばかりじゃ体が鈍るだろう?たまには本気で戦おうぜ」

「断る。お前と違って私は忙しい。それにお前と本気で戦いたくはない」

「つれねぇな。いいだろ、なぁ?」

「お前は書類と戦え」


 二人のやり取りを見る限り、険悪な関係ではなく、寧ろ気心知れた仲なのが伝わってくる。

 それはいいとして、この人物は誰なのだろう、そう疑問に思っていると、隣にやって来た大護が説明してくれた。


「あの人は不破 豪。一班班長ですよ」

「えっ!本当ですか?」

「ええ、本当です。元々班長は一班に所属していて、北部戦役後に三班に異動してきました。一班の時の相方があの人なのです」


 なぜか自慢げに胸を張っている大護を見ていると、キョウが肩をつついてきた。


「何、キョウ?」

「アルカ、一班は戦闘がメインで、アタシら三班は捜査がメインだろ?」

「うん。大体あってる」

「六班って何?」

「……訓練生の座学でやったでしょ」

「そうだっけ?」


 さすが座学が赤点ギリギリ。全く憶えていない様子だ。アルカはため息をつきながら、ざっくりとキョウに説明をする。詳しく話してもどうせ忘れるからだ。

機動隊は六つの班が存在していて、目的別に分かれている。

一班は不死者との戦闘。

二班は拠点防衛及び護衛。

三班は探索及び強襲。

四班は後方支援。

五班は医療。

六班は諜報。

 任務によっては協力し各班の得意分野を活かして行われる。今回の任務はテロ組織相手の対人なので、三班を主体にして行われるようだ。

 ほぅほぅ、と呑気に頷いているキョウをジト目で見ていたら、ヴィクターと豪のやり取りに、何やら動きがあったようだ。


「仕方ねぇな。貸しだぞ」

「何も借りた記憶はない。それよりだ。何しに来た。用事があるのではないか?」

「おっと、そうだった。共同捜査でウチの馬鹿共が迷惑かけたそうだな。その謝罪に来た」

「それなら私ではなく、彼女らに謝るべきだろう」


 ヴィクターの視線の先にいるアルカとキョウに、豪は初めて目を向ける。そしてアルカ達の方に向き直った。

 改めて正面に立たれるとその大きさも相まって、ただその場に居るだけで威圧感すら感じる。首を上に逸らし、豪を見上げると表情が読み取りにくい、獰猛な顔があった。


「すまなかったな。ウチの馬鹿共がちょっかい掛けて」


 あまりにあっさりとした謝罪に、二人はきょとんとした顔になる。

 豪の後ろでは頭を抱えたヴィクターがため息を吐いた。


「アルカ、キョウ。ソレにこれ以上の言葉は求めるだけ無駄だ。諦めて謝罪を受け取っておきなさい」

「これ以上、どう謝ればいいんだ?」

「頭を下げるくらいしたらどうだ」

「断る。オレが頭を下げるヤツは世界でただ一人だ」


 てっきり頭なんて下げない、というと思っていたが、寧ろ下げる人がいることに驚きだ。

 そしてこの短い間に、アルカは何となくだが豪の性格が分かってきた。何というか、キョウと似ているのだ。主に話を聞かず、考えないところが。


「さて謝罪も済んだし、帰るとするか」

「おい豪。オオサカへ派遣する人選は済んだか?不祥事をした部下への処罰は?隊員から上がってくる報告書は読んだか?班員に適切な任務を振り分けたか?」

「あー、体を動かしたくなってきた。じゃあな」


 扉を蹴破るような勢いで、豪はその図体からは想像もつかない俊敏な動きを見せ班長室から出ていった。

 嵐が去った班長室では、アルカとキョウは茫然と立ち尽くすのみで、大護はニコニコと笑顔を浮かべ、ヴィクターは盛大にため息をつくのだった。


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