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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
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43 目覚めと後始末

 目を覚ますと、知らない天井だった。体から伝わる感触から、どうやらアルカはベッドに寝かされているらしい。

 何故こんなところで寝ているのだろう、そう思い記憶を遡る。連絡役を連れて北部拠点に向かい、途中の敵襲で隊員達が敵の足止めをして、それから……。

 アルカの脳裏に、連絡役に突き刺さる剣と、紅い口紅が笑みを浮かべる情景が甦った。


「……っ!」


 急にベッドから起き上がろうとしたら、全身を激痛が貫いた。悲鳴こそ上げなかったが、痛みに悶えることとなった。

 よくよく見ると、体の至る所に包帯やガーゼが貼りつけられている。


「起きたか、アルカ……何プルプルしてんだ?」

「痛かったから……そんなことはどうでもいいよ。それより、どうなった?」

「あー、それは班長から聞きな。アタシもまだ詳しく知らないし」

「班長から?ここにいるの?」

「うん」


 現時刻は当日の午後五時過ぎ。場所は東部拠点だ。キョウ曰く、いつの間にかいたらしい。


「アタシが気を失ったアルカをここに運んで来たら、いたんだよ」

「私がここにいることがそんなに不満か?」

「びゃっ!」


 突然話しかけられたキョウの毛が逆立つ。ぎこちない動きで後ろを振り向くと、いつも以上に険しい顔をしたヴィクターと、心なしか元気のない大護がいた。


「不満なんてありません!超心強いです!」


 ビシッと直立してはきはきと答えるキョウを一瞥した後、ヴィクターはアルカに険しい視線を向けた。


「傷跡や後遺症の残る怪我はないと軍医は言っていたが、何処か体に違和感はないか?」


 雰囲気的にも、てっきり厳しい言葉で叱責が飛んでくるかと思っていたが、予想外の気遣いの言葉にアルカは目を瞬いてしまう。


「厳しい言葉がお好みか?」


 アルカの心を読んだように、グッと眉間に皺が寄ったヴィクターが言った。

 慌ててアルカは体を動かしてみたり、魔力を巡らせて支障が無いか確認する。


「体を動かすと痛いですけど、それだけです。魔力の巡りも問題ありません」

「ならいい。しっかりと静養するように」


 一度目を伏せ、再び目を開いた時には険しい顔は幾分かマシになっていた。


「アルカの無事がわかったところで、今回の件について確認をしたい。まずは大護からだ」

「はい。まず最初に襲撃があった時刻は十二時前。敵が一人でこの拠点に攻撃を仕掛けてきました」


 敵の強さから、隊員や容疑者に被害が及ぶと考えた大護が避難を命じ、アルカは容疑者を担いで北部拠点に向かい、隊員達も遅れて北部拠点に向かった。

 大護は時間稼ぎをしつつ戦闘をしていると、北部拠点から襲撃を受けたという緊急連絡が入る。

しかし、敵の策略により救援に向かう暇は無く、時間を稼がれた挙句、取り逃がしてしまう。

 その後、各方面に連絡を入れるとアルカ達と連絡が付かず、捜索に向かうことになる。

 キョウとアケミも連絡を受けてアルカ達の捜索をして、大護が気絶した隊員達を、キョウがアルカを発見し、拠点に運び込んで今に至る。


「その……容疑者は……」

「全員死亡が確認された。他の拠点もだ。この事件に関与したと思われる容疑者八名全員が死亡した」

「あ……」


 結局、アルカは任務を全うすることが出来なかったのだ。ショックを受けたように呆然とするアルカの肩に、優しくキョウが手を乗せた。


「私がもっとしっかりしていれば……」

「それは違いますよ、アルカ。これは私の責任です。私が指示を出し、あなたはそれに従ったに過ぎない。責められるべきは相手の戦力を見誤った私になります。」


 責任の所在は自分にある事を強調して、大護は言い聞かせるようにそう言った。


「班長。此度の任務の責任はすべて私にあります。処罰は私だけにしてください」


 大護はそういうものの、アルカの表情は曇ったままだ。

 大護の言葉はありがたいが、そうではない。

 処罰とかではなく、アルカは腑に落ちていない部分が上手くまとめられず、もやもやとし続けているのだ。

 そんな状況で口を開いたのはヴィクターだった。


「アルカ、今回の任務は失敗だ」

「班長!?」


 慰めの言葉かと思っていたのか、大護は声が裏返っている。そんな大護を手で制止し、ヴィクターは続けた。


「だがな、任務の失敗と不可能を一緒に考えてはいないか?失敗は失敗として受け止め、次への糧としなければならない。しかし、不可能を悔いたところで意味はない。アルカ、過去を思い返してみて、容疑者を守ることが出来る可能性はあったか?」


 ヴィクターの言葉通り、あの戦いを思い返すが、どう足掻いたところでアルカの負けは覆らない。必然的に任務は失敗に終わるのだ。

 その考えをしっかりと意識した時、アルカは気が付いた。何とも言えないもやもやの正体はそこにあったのだ。

 もっとしっかりしていれば何とかなったかもしれない、というありもしない可能性を考え、アルカは苦しんでいたのだ。

たった一つのアドバイスのおかげでアルカは、ようやく失敗を受け入れることが出来た。


「だいぶ顔色は良くなったようだな」

「はい、ありがとうございました」

「礼は受け取っておこう」


 そう言うとヴィクターは、大護に向き直る。


「大護。お前にも言っておくが、もう少し他人を視ろ。このままでは三班を預けることは不安だ」

「精進します」

「それとだ。今回の件を承認したのは私だ。故に私にも責任がある」

「現場にいない班長に責任なんて……」

「居ようが居まいが私はお前の上司だ。部下の責任は私の責任でもある」


 有無を言わせないヴィクターの強い語調に、大護は押し黙るしかなかった。


「この話はこれで仕舞いだ。話を戻すぞ。アルカ、君の見た情報を教えて欲しい」


 アルカは見たままの情報を伝えた。

 ローブを纏った人物が襲ってきて隊員三名が囮になってくれたこと。それでもすぐに先回りされ、なりふり構わず全力の戦闘を行ったこと。そして、負けてしまい連絡役が刺される瞬間をみて気絶したこと。


「全力のアルカに勝った!?それも余裕で!?マジかよ」

「うん。それこそ班長と戦っているくらいの差があった」

「他に何か覚えていないか?」

「うーん、あっ。紅い口紅をしていました。それと、笑い声が女性の声でした」

「ふむ。隊員達と同じか……」


 手を顎に添えて少し考える素振りを見せているヴィクターに、アルカは引っかかっていた疑問を投げかける。


「班長。私が戦った敵もそうですが、班長達のような一部の死神は異常なまでに強くありませんか?」


 アルカは誰にでも勝てるなどと言えるほど驕ってはいないし、事実今までに何度も負けている。

班員との摸擬戦で負けても、それはこれまでの経験や年齢による魔力効率、強化上限の差による。今回のような絶望的なまでの差は感じなかった。

しかし、ヴィクターや大護との摸擬戦は違う。キョウと共に戦ってもまるで歯が立たない。大人にいいようにあしらわれる子供のようにだ。

ヴィクターはアルカに視線を戻し、肩を竦めた。


「少なくともここで話すことではないな。周囲に機動隊しかいないとは言え、軍務規定上は隊員に伝えることは禁止されている。盗聴の可能性があるこの場では詳しく言えないが、アルカの言う通り、私達は少し普通とは違う」


 これ以上は話すつもりが無いようで、ヴィクターはここで話を終わらせた。

 アルカは機動隊本部に戻ってから聞くことに決めた。


「アルカの見た情報はわかった。次は他拠点について話そう」


 同じ三班がいる北部拠点も襲撃があった。時間的には大護が交戦を始めてからすぐだ。地面から氷の壁が出現し、容疑者を収容していたテントごと隔離され、殺された。犯人はローブを纏った小柄な人物であり、岳のチームが交戦。手も足も出ず逃げられたそうだ。

 一班のいる西部拠点も同じく襲撃があった。時刻は北部拠点と同じで、犯人はローブを纏った人物だ。ミハイルが拠点に近づく犯人の気配に気が付き交戦するも、あえなく敗北。容疑者を殺害された後、逃走された。

 唯一、容疑者を確保していなかった南部拠点は無事だった。


「襲撃時刻や敵が同じようなローブを纏っていたこと、容疑者のいる拠点を的確に狙うことなどから、組織的な犯行であることは間違いない」

「あの、死傷者は……」

「隊員や班員に死者はいない。重傷者は目の前にいる一人だけだ」


 なんとアルカが一番重傷だったらしい。他は打撲や切り傷程度で済んだという話しだ。

 その事実に安堵していると、にわかに外が騒がしくなる。そしてアケミが飛び込んできた。


「大丈夫、アルカ!?意識不明って聞いて心配したんだから」

「痛い、痛いです。アケミさん」


 ベッドに座っているアルカの無事を確認し抱きしめるアケミのせいで、アルカの体は痛みが走る。

 アルカの苦言で抱きしめからは解放されたが、アルカの傍からは離れようとしなかった。


「だから言ったじゃろ。死神はその怪我程度では死なんて」


 呆れたような声で入って来たのは龍造とソウゴだ。


「なんでお二人がここに?」

「ヴィクターのお供じゃな」


 襲撃を受けたという連絡であったため、戦力の補充とヴィクターの護衛を兼ねているそうだ。強さ的には護衛が足手まといになってしまっているが、班長という立場上、都市外に護衛なしで向かうのは良くないのだ。


「護衛と言いつつ置いていかれたんじゃがの。お前さんが意識不明と連絡が入った時のヴィクターと来たらのう」

「龍造、口が過ぎるぞ」

「何でじゃ、事実だろうに。部下を心配することは、恥ずかしがることではないぞ」


 良いことを言っているように聞こえるが、どうにも龍造の顔を見るにからかいの色が濃い。

 それを分かっているらしいヴィクターはいつもの倍くらい眉間に皺を寄せ、龍造の首根っこを掴んで出ていった。


「ま、ヴィクターもお主を心配しておったのだ。相変わらず分かりにくいがの。それじゃワシもお暇するぞ。はよぅ元気になれよ」


 後ろ手に手を振ってソウゴも出ていった。大護もそれに続き出ていき、急に部屋が広くなる。

 にわかに静かになったテント内で、アルカとキョウは顔を合わせた。


「後は女性同士ごゆっくりってことよ。それにしてもアルカ、本当に大丈夫?」


 その後はアケミに甲斐甲斐しく看病されて、静養するのだった。





 翌日にはアルカも廃墟群探索に復帰し、各班の増員もあったおかげで非常にハイペースに進み、数日掛けて全域を探索し終えた。

 飛行艇での撤収がてらブリーフィングや報告書をまとめ上げ、都市に戻ると休暇を言い渡されて寮に戻った。

 久しぶりの自室のベッドの寝心地はとても快適だった。


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