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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
43/122

42 白昼の襲撃2

 アルカ達に指示を出して駆け出した大護は全身に魔力を巡らせ、今にも自身を轢き殺そうと迫りくる物体に、全力の一撃を与える。

 トンファーから伝わる凄まじい反動に、後方に跳んでダメージを抑えたい思いに駆られるが、アルカ達がいるのでそれも出来ず、足をアンカー代わりにして地面に押し付け無理やり相殺する。

 地面に二本線を描き止まった大護は、同じく停止した物体を凝視する。

 巨大な物体は全体を覆うように布で覆われており、全体像はわからない。しかし布と地面の隙間から見える鈍い銀色の輝きとトンファーとの衝突音から金属であることはわかる。


「チッ。轢き殺して終わりのはずだったんだがよぉ。まぁいい。お前は殺してもよさそうだしなぁ」


 布を纏った物体が動き人型のシルエットになる。どうやら腕をクロスさせて突撃姿勢をとっていたようだ。布はローブであり、フードを目深に被っているため表情は見えないが、声色は苛立ちと喜びが混じっているように聞こえる。


「あなたが連絡役の言っていた刺客ですか」


 目測で約三・五メートル。人型ではあるが余りにも大きすぎる。死神と言えど、背丈は只人と然程変わらない。大護の知っている限り一名の例外を除いて、通常ここまで巨大になることはまずありえない。

そして大護の全力の一撃に正面から激突して無傷であることからも、ほぼ確実に特異技能が芽生え、同等に戦えるレベルにいる死神だ。

大護レベルの死神ならば、この拠点の殲滅など余裕で出来てしまう。場所を変えることとアルカ達の逃走の時間を稼ぐこと、二つを主軸に行動を開始する。


「刺客だとかどうだっていい。ここにいる全員殺して、逃げた奴らを始末するだけだぁ」

「それは不可能ですね。あなたのようなデカブツでは私を殺すことなど出来ませんから」


 大護の言葉に返って来たのは拳だった。振り下ろすような拳を回避し、あえてその上に着地する。


「掠りもしませんね。その程度で私を殺そうなどと片腹痛い」

「お前ェェェッ!」


 激昂するデカブツを前に、大護はひそかにほくそ笑む。

 簡単に挑発に乗ってくれたので、デカブツの注意を大護に集中させることは成功した。

 直撃すれば怪我では済まないであろう拳の雨を軽快なステップで躱しつつ、拠点から引き離す。

 大護の気配察知によると、アルカ達は察知範囲外に出ていき、拠点では隊員達が退避する準備をしていることが伝わってくる。

 もう少し時間を稼ぐことが出来たら一気に攻勢に移り、このデカブツを制圧して任務完了。そう大護は考えていたその時、急に攻撃が止んだ。


「おや、どうしました?お疲れですか?その程度で私を殺そうとしたのですか?」


 理由がわからず、困惑する内心を隠しつつ、大護はニヒルに笑いながら挑発する。

 しかし、デカブツは先ほどの激昂が嘘のように余裕を持って笑うだけだった。


「歴然とした実力差を理解して笑うしかなくなりましたか」

「ハハッ、威勢のよさもそこまで行くと滑稽だなぁ。自分が罠に嵌ってるなんて微塵も考えてないその態度、吐き気がするぜぇ」

「罠?……まさか!」


 察知範囲にデカブツ以外の不審な気配はない。拠点の隊員達も隊列を組み、退避する準備が整いつつある。

 察知範囲内に異変が無いのならば、その外にある。そしてアルカ達も察知範囲外だ。

 端から大護を護衛対象から引き離すことが目的だったとしたら、完全に敵の掌の上で踊らされている。

 急いで連絡を取ろうと情報端末に手を伸ばそうとしたが、それはデカブツに妨害されてしまった。


「連絡もさせねぇ。合流もさせねぇ。俺様を無視して向かったらぁ……あそこにいた死神は皆殺しだぁ」

『副班長!こちら北部拠点!敵襲です!繰り返します!……』


 情報端末の緊急通信が開き、北部拠点で襲撃が起きたことを伝えてきた。

 即座に返答したいが、そのような時間をくれるような相手ではなかった。

 実に楽しそうに嗤うデカブツに、大護は珍しく苛立ちを露わにしてトンファーを構える。


「いいねぇ、いいねぇ。その表情最高だぜぇ」

「無駄口を叩いている暇はありません。力ずくで通らせてもらいます」


 トンファーと拳の応酬が始まった。





 生い茂る木々を縫うようにアルカ達は駆け抜ける。アルカを先頭に一列に並び、一糸乱れぬ様子は、隊員達が日頃の訓練の成果だろう。

 アルカの気配察知から、容疑者を含めた八名以外の気配が無くなって少し経過した後、最初に異変に気が付いたのはアルカだった。

 突然、気配察知で知覚していた最後尾の隊員が止まり、容疑者が消えたのだ。

 気配察知から消えるということは、大護のように気配を消すか、死亡もしくは瀕死ということだ。

 まさかと思い後ろを振り返ると、地面に横たわる隊員と容疑者、そして容疑者に剣を突き立てるローブを纏った人物がいた。

 その人物を見た瞬間、本能がけたたましい警鐘を鳴らす。一見しただけで理解できてしまう程の力量差がそこには存在した。

 アルカが背後を振り向き止まったことで、隊員達もローブの人物を視認した。


「なっ、いつの間に!」

「アルカさん、ここは自分達が引き受けます」

「あなた達では勝てません!」

「わかっています。しかし、この中で一番速く動けるのはあなたです」


 そして一番重要な連絡役を担いでいるのもアルカなのだ。逃げ切る確率と合わせると隊員達が時間稼ぎに徹した方が良いのだ。


「ご武運を」


 迷っている時間は無く、アルカは魔力を全身に巡らせ、これまでとは比較にならない速さで森を駆け抜ける。


 残った隊員達は片手で魔動武装を構える。地面に容疑者を置こうものなら、ローブの人物は確実に容疑者を狙うだろう。自身の体を盾にしてでも守ることが出来るので容疑者は担いだままだ。

 倒れていた隊員も立ち上がり、瞬時に状況を理解して魔動武装を構えた。

 一連の様子をローブの人物は悠然と立ったまま、まるでこちらを観察するように見ているだけだった。

 そして三対一の状況にいながら、唐突に拍手をしたのだ。


「いい判断だわ。でもね、役不足にも程があるのではないかしら?」


 それは艶のある女性の声音であった。

 隊員達が理解できたのはそこまでで、そこからは蹂躙というのも烏滸がましい、あまりに一方的な展開だった。

 三十秒。それが隊員達に稼ぐことのできた時間だった。





 隊員達と別れたアルカの足は止まっていた。信じられない物を見たから。

 進行方向を塞ぐように、ついさっきと同じ気配を漂わせるローブの人物が立っていた。その手には血に濡れた剣が握られており、誰かを切ったことは間違いなかった。

 逃げられないと悟ったアルカは刀を引き抜き構える。

 アルカの頬に冷たい嫌な汗が伝う。格上を相手に誰かを守りながら戦うなど無謀にも程があるからだ。

 先手を取ったのはローブの人物だった。

放たれた真っ直ぐな突きを下から救い上げる様にして軌道を変える。ほとんど抵抗なく受け流せたことに違和感を覚え、大きく後ろに飛び退いた。

 その判断は正解だった。突きとはケタ違いの威力の蹴りが、アルカが直前までいたところに放たれていた。

 突きは意識を逸らすためのフェイントだったのだ。


「強い……」


 思わず言葉が漏れた。まるでヴィクターや大護と戦っているような感覚に陥る。


「ふふっ」


 フードの奥から楽しそうな、嬉しそうな女性の声が漏れ出る。

 一陣の風が吹き、揺れたフードから紅い口元がチラリと見えた。

 アルカは右手の刀を構えた。

逃走は不可能。防御に徹することも考えたが、力量差があり過ぎる。ならば、隙を見て相打ち覚悟で一矢報いるしかない。

攻撃と防御、両方をこなす事は大変だが、それは相手も同じだ。防御に徹すると、ローブの人物が攻撃のみに意識を割けるようになってしまう。そうなると簡単に押し切られる。

 全身に大量の魔力を巡らせ、身体能力を大きく向上させる。後先は考えないし、そんな余裕はない。

 ローブの人物が再び突きを放つ。身体能力の上昇に伴い、動体視力も向上しているにもかかわらず、最初よりも格段に速い攻撃にアルカは思わず舌を巻く。

 幾多の攻撃により、瞬く間に体のあちこちに切り傷が生まれた。

しかし、おかげである程度相手のパターンがわかった。一つは巧みな剣術を使いこなす相手だが、どれも正統派な攻撃で、例えばキョウのように意味不明な攻撃が無い分対応はしやすい。

そして、もう一つが、相手に近づくと牽制の蹴りが入ることだ。回避や後退で自身が動くのではなく、必ずアルカを動かすのだ。

 あまり長引かせるわけにはいかない。アルカは勝負に出ることにした。

 ローブの人物の猛攻を防ぎながら、虎視眈々とその時を狙う。そして、ほれぼれするような鋭い突きを、剣先が頬を掠めながらも紙一重で躱し懐に入った。

 すると、アルカの予想通りに蹴りが放たれる。速さも威力も申し分ない蹴りだが、来ると分かっていれば対処の使用もあるというもの。攻撃範囲を見極め、上半身を逸らした。前髪に相手のつま先が接触したものの、回避に成功する。

 そのまま上半身を逸らした勢いを乗せて、全力で蹴り上げた。例え格上であろうとも、確実にダメージが入る威力の蹴りが相手に吸い込まれていった。


「なっ……止めた!?」


 信じられないとばかりにアルカは目を見開く。蹴り上げた足を左手でガッチリと掴まれていた。動かそうにも万力で固定されたかのように、びくともしない。

 アルカがやっているように魔力を大量に巡らせているようだ。それをあの蹴り上げる一瞬で行ったのだ。アルカ以上に強く、魔力の扱いに長けている相手だったらしい。

その考えに至ったと同時、アルカはものすごい勢いで投げ飛ばされた。

 受け身を取ることすらできず地面にバウンドし、木に激突して停止した。

 朦朧とする意識の中、アルカが見た光景は、地面に転がっている連絡役に剣を突き立てるローブの人物と、フードから覗く、吊り上がった紅い口紅だった。


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