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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
41/122

40 得られた情報

「はぁ……」


 アルカが腕を折った男性に、再び目隠しと耳栓が装着されたことを確認したと同時、アルカは大きくため息をついた。

 尋問自体は上手く出来たとは思う。新たに得られた情報こそ無かったものの、証言に齟齬はなく、裏付けは取れた。

 ため息をついたのは緊張から解放されたからではなく、ひとえに容疑者の性根の悪さのためだ。

 彼は筋金入りの差別主義者で、只人のことなど人の言葉を話す家畜程度の認識でしかなく、そこに嗜虐癖まで加わって最悪であった。

 都市外移住者を追いかけまわすことをゲームと称して始めたのも、危害を加え始めたのも彼が発端だ。じわじわと甚振る主義で、苦しむ姿や悲鳴、恐怖に染まる表情が大好きだそうだ。

 アルカは終始、無表情を貫いていたが、内心では早く尋問を終わらせたくてたまらなかった。もし誰も見ていなければ数発殴っていたかもしれない。


「お疲れさん」

「よく耐えたわ、アルカ。わたしなら手が出ていたから」

「アケミの言う通りです。彼に関しては性根が腐っていました。刑罰に関しては私が手を回しますので」

「お願いします」


 大護が厳罰に処すことを約束してくれたので、ひとまず彼への尋問は終わる。

 続けて、キョウが尋問を行った。

 キョウは感情が顔によく出るので、尋問などは大の苦手である。そのことが尋問相手にも伝わってしまい、中々証言を引き出せないでいたが、馬鹿にしたような態度に段々とフラストレーションが溜まり、仕舞いには真顔で「殺していい?」と大護に許可を求めるほどだった。

 大護は涼しい顔で許可を出したが、最初は冗談だと思われたようで、容疑者はヘラヘラと笑っていた。キョウに殴られるまでは。

 殴られて唖然としている容疑者の頭を鷲掴みにして力を掛けていくキョウの本気具合から、さすがに生命の危機を感じたようで、そこからは驚くほどスムーズに尋問が進んだ。

 だが、残念ながら目新しい情報は出てこず、最後に一発殴って尋問は終わる。


「最後のは許可していませんよ」

「あれは……う、腕を伸ばしただけです!」

「そうですか。なら仕方がありませんね」


 そんなやり取りの後、最後にアケミが担当の尋問を行ったが、これが正解だった。


「条件次第で話してもいい」


 彼の第一声はそれだった。これまでの容疑者達とは明らかに違う雰囲気に、その場の全員が姿勢を正す。


「条件?自分の立場を分かっているのかしら?」

「わかっている。今の俺は捕虜。そしてあの馬鹿共は情報をゲロッたんだろう?その上で交渉したい。俺はあいつらが知らない情報を持っている」

「……」


 チラリとアケミは大護を見ると、頷きが返ってくる。


「条件は何かしら?」

「命の保証だ」

「命の保証?」

「ああ。この仕事が失敗したら、俺達は消される。俺は死にたくない」


 彼曰く、連絡役を担当していたため他メンバーよりも情報に詳しいらしい。この活動中、機動隊の内通者がどこかと連絡をしていた時に、そういう話が聞こえてきたらしい。


「証拠もないのに、交渉はできないわ」

「なら一つ。ある組織の情報はどうだ?」

「機動隊が既に入手している情報以外なら考慮するわ」

「トウキョウの第三区画を根城にしている、自由の翼って……」

「機動隊の捜査妨害をしているグループね。知っているわ」


 すべてを言わせる前に、アケミは軽くあしらう。

 連絡役は知られていたことに驚く様子はなく、代わりに少し悔しそうな表情を浮かべて再び口を開いた。


「なら、日本を取り戻す会は……」

「それも知っているわ。大した組織ではない事もね」

「そ、それなら、トウキョウ革新組は……」

「交渉決裂ね」

「待ってくれ!」


 拘束されている椅子から、前のめりになって声を上げる連絡役は、かなり焦っているようだ。余程、死ぬことが怖いと見える。

 その後も幾つか組織らしき名前を挙げていくが、どれもアケミは知っており、仕舞いには容疑者は縋るような視線を向けていた。

 連絡役がそうなったことを見届けてから、取り付く島もないアケミに代わり、大護が口を開いた。一見すると優しそうな笑顔を浮かべて。


「多くの組織を知っていますね。正直驚きました」

「これだけ言ったんだから、命の保証をしてくれよ」

「それはあなた次第ですよ。いくら同業者と言えど、これだけ知っていることは些か不自然です。ましてトウキョウを拠点としている組織以外まで知っているとなると、尚更」

「……」

「連絡役とはいえ、単なる末端の人間に情報を渡すとは考えられません。ならば、あなたはそれなりの地位にいる、もしくはいたのでしょう。それを話すのなら、交渉は成立するでしょう」


 死への恐怖と、組織への忠誠で板挟みに合っているようで、逡巡している様子が見て取れた。


「本当に、命の保証をしてくれるんだな?」

「有益な情報ならば、相応の配慮をします」


 大護の言葉に、すぐに返答は無かった。

 しかし、それも長くは続かなかった。諦めたように肩を落とし、しかし、声は安堵の色が混じっていた。


「……俺はオオサカ拠点の組織、西の夜明け所属の実行部隊リーダーだ」

「西の夜明け、というと死神中心の世界を目指して活動している組織ですね」

「最近できた組織なのに、もう知られているのか」

「組織の名前は新しくても、内部の人間はそうとは限りませんから。複数の組織が合わさって出来ただけあって、足付きがそこそこいますね」


 トウキョウ以外の都市の組織まで把握しているあたり、大護の優秀さにアルカは感心していると、脇腹を小突かれた。


「太陽って東から昇るよな」


 横を見ると神妙な顔をしたキョウがおり、何事かと思ったが、その口から出た言葉に思わずガクッとしてしまった。

 とてつもなくどうでもいい事だったので、軽く睨んで黙らせるが、この狭い空間の中では全員に聞こえていたらしく、連絡役が説明してくれた。


「今の社会構造を根本から変える事は、常識を覆すこと。それにオオサカから始めることを踏まえて、西の夜明けだ」


 少しばかり誇らしげに語る連絡役に、なんと反応していいのかわからず、アルカを見ることしかできないキョウであった。


「西の夜明けの目的は分かりました。何故オオサカを本拠地とする組織がここにいるのか、構成員の名前や居場所は?」

「……これ以上は助かってからだ」

「ほう?」

「ここで全部話したら、俺を守る価値がなくなるからな」


 大護の凄みのある笑顔を前にしても、これ以上情報を吐くつもりはないことは伝わってきたので、尋問はこれにて終了となった。

 目隠しと耳栓がなされたことを確認して、時間もブリーフィングが迫っていた。

 ブリーフィングでは得られた情報の共有を行う。


『地方都市の組織か。何でトウキョウで活動してんだ?』

「そこまでは聞き出せませんでした。しかし、彼の様子からは、近いうちに暗殺等が発生する可能性が高いです」

『護衛することになるのか』

「そうなります。容疑者を拘束している拠点は、護衛に班員を二名つけてください。残りは証拠品の押収や罠の撤去のため探索をしてください」

『副班長、容疑者を一ヶ所に集めた方が効率的では?戦力の分散は悪手だと考えます』


 岳の進言に大護は首を横に振った。


「確かにそれもあります。しかし、我々班員がいると相手もわかっているでしょう。その上で刺客を送り込んでくるのならば、相手は生半可な強さではないでしょう。ならば一ヶ所にまとめて一網打尽にされるよりは、目標を分散させることにより時間を稼ぎ、逃走確立を上げるべきでしょう」

『俺やアンタでも勝てない程の死神がそう簡単にいるかよ』

「我々の勝利条件は容疑者の護衛ですから。足手まといを守ることは簡単ではありません」

『あー、納得だ。そういうのは二班の得意分野だしな』


 ミハイルや岳も納得し、そのままブリーフィングを終える。

 容疑者の監視のための夜番は大護とアケミが担当することになった。

 アルカも参加を希望したが、遠征に慣れていない上に隠密行動と不死者の討伐まであったのだ。自分の思っている以上に疲れが溜まっていると言われ、渋々引き下がる。


「アルカ、休むことも仕事の一つよ。それに交代で夜番だから大丈夫よ」


 アケミに諭され体を洗い、食事をとった後、強烈な睡魔が襲ってきた。

 どうやらアケミの言った通り、想像以上に疲れていたようだ。しきりに欠伸をしながらベッドに潜り込む。

 そのまま睡魔に抗うことなく身を委ねるのだった。


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