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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
40/122

39 尋問

久々の投稿

 拠点に戻ると、いつもより早い帰還と担いだ荷物に気が付いたハイディが駆け寄ってくる。


「お疲れ様です。容疑者を確保できたようで」

「はい。なので、死神用の拘束具と留置場の用意、及び監視員の選別をお願いします」

「分かりました」


 ハイディは情報端末でテキパキと指示を出した後、こちらに向き直った。


「留置場の場所は決まっているので、ついてきてください」


 ハイディに連れられて、拠点中央付近の広場に到着する。そこでは、隊員達がせっせとテントを建てていた。

 共謀等の防止のため、容疑者一人につき一つ使用することになっており、計四つのテントが組み立てられていく。

 そこに隊員達が二人係で箱を待ってきた。中には金属製の重厚な手枷と足枷が入っていた。それぞれ鎖で繋がれており、一度嵌められたら逃走など出来ないだろう。

 それを容疑者に取り付けていき、ダメ押しとばかりに目隠しと耳栓を取り付けていく。

 組み上がったテントの中には、これまた頑丈な椅子が中央に設置され、容疑者を座らせる。椅子に縛り付け、鎖の一部を地面に固定することで、ようやく拘束が完了する。


「これは厳重過ぎでは?」

「そうでもないよ。死神だと只人用の手錠の鎖を引きちぎることが出来る人もいるし、確実を要するならこれくらいしとかないと。監視員も足りないしね」


 ハイディは当然のように言う。確かにその通りであるし、キョウならこれでも拘束できなさそうである。

 

「にしてもお手柄だね、アルカ。犯人を捕まえるなんてさ」

「私だけでは捕らえることは出来ませんでした」

「いいんだよ、それで。一人で出来ることなんてたかが知れているからね」


 頭をぐりぐり撫でられて、ハイディは去っていき、入れ替わるように大護が来た。


「これから尋問を行いますので、来てください。アルカとキョウにも行ってもらう予定です」


 アルカの担当する容疑者は、因縁のある腕を折った男性らしい。最初に大護が尋問を担当し、それを見学することになる。

 容疑者の一人が留置されているテントに入り、人払いしてから目隠しと耳栓が外された。

 眩しそうに目を細めていた容疑者に大護が問いかける。


「先ほどぶりですね。これから私が質問をしますので、正直にすべからく話して下さい」

「……」

「この廃墟群にいる仲間の人数は?」

「……」

「ふむ。あなた方は何故、只人を捕まえていたのですか?」

「……」

「なるほど。あなた方に指示を出していた人物は誰ですか?」

「……」

「そうですか。裏にいるのですね。しかも機動隊が」

「なっ!」


 無言を貫いていた容疑者はにわかに動揺する。何故わかったのか、と口には出さないが、目が雄弁に物語っている。

それを見るだけで、機動隊の、それも物資を横流しできる立場にある人間が関わっていることは、ほぼ確定となった。


「何故わかったと思いますか?」

「……まさか」

「ええ、その“まさか“です。それはもうよく話して下さいました」


 ニッコリと笑みを深めて、大護は畳みかける。


「ところで、あなたはこのままだとどのような刑罰が下ると思いますか?これは私見ですが、懲罰部隊行きで済む話ではないかと」


 明らかに目が泳ぎ、息遣いが荒くなっている。


「かと言って、はぐれ死神を何人も収容しておく旨味も必要もありません。そうなると……」


 ゴクリと容疑者が息を呑む。


「まさか……死刑、か……」


 これ以上ないくらい口の端が吊り上がる大護は、しかし答えを言わない。


「さて、ここで提案があります」

「な、なんだ」

「正確な情報をくださった方には『情状酌量の余地あり』と軍法会議で口添えすることぐらいは出来ますが……」

「ほ、本当か?」

「こう見えて副班長ですから、機動隊上層部も無視はできないでしょう。全員は無理でも、二、三人ならあるいは……」


 その言葉で、大勢は決した。

 大護の質問に、素直に受け答えしていく。色々な情報込みで。

 すべての質問を終えると、再び容疑者は目隠しと耳栓を装着された。

 一度、聞き出した情報の整理と尋問のテクニック解説のためブリーフィングを行うテントに向かう。


「アルカ、キョウ。尋問で気が付いた点はありますか?」

「そうですね……相手への揺さぶりがとても上手でした」

「と言うと?」

「推測でしかない情報を、さも知っていると誤認させる技術。容疑者の誰かが話したと思わせる話術。動揺したところに畳みかけた上で、救済案をちらつかせて情報を引き出す交渉術が見事でした」

「今回は非常に上手く出来ただけですが、概ねアルカの言った事が大切な点です」


 尋問を平和的に行うには、まず相手のペースを乱すことが重要だ。焦りは思考を鈍らせ、判断を間違った方に導く。


「あの容疑者は、私が断言したことで判断を誤りました。加えて、ここでも一つ工夫があります」

「工夫、ですか?」

「はい。それは、相手に考えさせることです」


 ただ一方的に伝えられた情報よりも、自身で導き出した情報の方が、価値が高いと考えるものらしい。

相手を焦らせることで短絡的な思考に陥らせて、間違った情報を相手が導き出すように言葉巧みに誘導すると、尋問の成功確率がグンと良くなるのだそうだ。


「聞く限り、とても難しそうです」

「こればかりは場数を踏むしかないですね」

「わたしだってあそこまで華麗に出来ないから大丈夫よ」


 アケミは励ましてくれるが、前回は盛大に失敗をしているので自信が無いのだ。頭を使う分野なのでキョウは使い物にならないこともあり、重圧を感じる。

 気が重くなる中、大護はさらに続ける。


「それに仲間が自白し、罪が軽くなる道があるという状況ならば、自身だけでも助かろうと、必死に証言をする傾向があります」


「囚人のジレンマという大変革前から存在する心理をアレンジしたもので……」と、大護が饒舌に語るが、キョウには理解できず頭を抱えていた。


「つまり、どういうこと?」

「あー、数量限定に人は弱いってことかな」

「はーん、完全に理解した」


 絶対に理解していない表情でキョウは頷いているが、もとより期待していないので問題はない。


「他には嘘と真実、織り交ぜながら話すことです」

「推測の範囲を出なかった事象を、さも知っているように話していましたね」

「それもありますが、一番の嘘はそこではありません」

「そうなのですか?」


 他に嘘をついていた場面はあっただろうか、とアルカは考えるが思い浮かばない。そんなアルカを見て、アケミが代わりに答えた。


「死刑になる、というところですね」

「正解です」

「えっ!そうなのですか?」

 思いもよらない答えに、アルカは声が裏返ってしまった。

 彼らは少なくとも誘拐、誘拐未遂、傷害、監禁、殺人を犯しているのだ。それも複数。死刑になってもおかしくはないとアルカは考えている。


「彼らは死神です。そして被害者は只人。これだけ言えば分かりますよね?」

「特権、ですか」

「そうです。被害者の人数にもよりますが、確認できた不死者は四体。普段では罪に問われるかすら怪しいものです」

「さらに被害者は都市外移住者。機動隊からは手間ばかりかかる存在と認識されているわ。これまでの事件の延長でなければ、無罪放免でしょうね」


 死神としての特権の残酷な生々しさを、初めて目の前で目の当たりにし、背筋がぞっとする。自身が死神で良かったと思うと同時に、生まれ育った村での扱いにひどく納得してしまう自分がいる。

 死神でなければ不死者を殺せない世界で特権を持つ理由と、その特権で不幸を被った只人が死神を嫌う理由。双方を理解できてしまうが故に、正反対の感情に板挟みされ、不快な感情が巻き起こる。

 この感情をどのように処理するか、この問題をどう対処すべきか悩んでいると、急に肩を揺さぶられた。


「アルカ、聞いているの?」

「あっ、すいません。聞いていませんでした」


 完全に自身の思考に沈んでいたため、何も聞いていなかった。

 考えるのは後でも出来るので、今は尋問の要点を学ぶことにして、問題を先送りにすることとした。恐らくその問題の答えは、今は見つからない事だけは何となく感じたから。

 アルカの意識が向いたのを確認して、大護が話し出す。


「嘘と真実を混ぜるだけでなく、表情に感情を出さないことがあります。相手に手札を悟らせないことと、プレッシャーを与えることに繋がりますので」

「尋問とは難しいものなのですね」

「得手、不得手ありますし、経験や尋問相手との相性もあります。アルカが最初に取り調べした彰浩は相手が悪すぎました。彼は戦闘能力以外の面であなた方を上回っていたのですから」


 確かに、取調室に入ってすぐに新人であることを見抜かれ、金の刻印を見せるまで相手のペースに乗せられていたのだ。

 そう考えると、今回の容疑者は簡単なのではないかと思えてくる。


「普通の死神は只人より強く、特権にも守られています。しかし、それは時に弱点にもなります。常人よりも恐怖や死から離れるが故の耐性の無さが、容易に視野を狭め、思考を鈍らせ、判断を誤らせます」

「そうね。直近で起きた大事件なんて、それこそ北部戦役が最後かしら。今の機動隊は平和すぎて、それが顕著に現れている、と班長が言っていたわ」


 北部戦役を生き残った班員や隊員は肉体的にも、精神的にも別格に精強らしい。


「これらのテクニックを駆使して尋問を進めてください」

「頑張ります」

「では次に情報の整理ですが、キョウ。端的にまとめてください」


 尋問のテクニックについてはアルカばかり発言していたことを見逃していなかったようで、キョウを名指しで指名する。

 キョウは名前を呼ばれてビクッと背筋が伸び、少しだけ声が震えていた。


「あ、えっと、まずこの廃墟群にいたメンバーは八人。どこにいるかは不明。罠を仕掛けたことも証言していました」

「他には?」

「他……そ、その指示役が機動隊と繋がっていて、でもその人の顔と名前はわからないって……」

「そうですね。指示役が機動隊の内部情報を詳細に知っていたため、機動隊の人間だと思っていたそうですね。顔や名前が分からなくとも、物資や金を融通できたので気にしていなかったとも」


 しどろもどろになりながら何とか言葉を絞り出したキョウに、まあいいでしょう、と大護は合格点を出した。


「アルカは他に覚えていますか?」

「誘拐の目的は不明で、生死関係なく全て引き取っていったこと。ここに残ったのは、指示役からの指示だったこと。彼らは進化種を名乗っていること、でしょうか」

「よく覚えていましたね、正解です。キョウも見習うように」

「はぃぃ」


 尋問で得られた内容はこれだけであり、これらを頭に入れた上で次の尋問を行うことになる。

 話が終わり、アルカが尋問を行う時が近づいてきたのだった。


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