38 地下での戦闘
大護の合図とともに一斉に物陰から飛び出した。
先頭の大護は焚き火を飛び越え、一番奥に座っていた犯人の一人であるガタイの良い男性に強烈な蹴りを食らわせる。
音が無くなったことと、突然現れた大護に混乱している三人の内、あの時に腕をへし折った男性にアルカは向かう。
音のない世界で本能的に何かを感じ取ったのか、大護に向いていた視線がアルカの方に向く。が、完全に振り向く前にアルカに意識を刈り取られた。
残り二人はようやく危機感を持ったのか、立ち上がって武器を取り出す。しかしそれは遅きに失した。
アケミとキョウが、武器を構える隙を与えることも無く取り押さえた。
ものの十秒もかからず犯人達の制圧を完了し、拘束する。
大護は既に特異技能を解除してるようで、音がにわかに聞こえ始めた。
「確保完了したわ」
「アルカ、見覚えのある顔はありますか?」
「はい」
あの時見た二人を指差し、アルカは頷く。
分かりました、と言って大護は蹴り飛ばした男性に詰め寄った。
「さて、洗いざらい話してもらいましょうか。とその前に、アルカ、キョウ。不死者の討伐を。アケミは二人の補助をしてください」
不死者の討伐。そう聞いてアルカの表情は強張る。
不死者を実際に見たことが無く、初めての討伐となる上に、なるべく考えないようにしていた事態が頭をよぎるからだ。
あの時拉致された人がこの場所に存在せず、気配も感じない。見つかったという報告も無い。
同時に、複数の不死者が唸る声が聞こえるのであれば、自ずと答えが出るものだ。
「アルカ、体が強張っているわよ。無理そうなら……」
「ダメですよ。これから先、機動隊として生きていくならばこれくらいは出来なければなりません。例え相手が知り合いと同じ顔だとしても、躊躇いを持ってはならないのです」
「厳しすぎませんか?」
「緊急時での判断の遅れは致命になります。今回のように時間が有り余る状況は、寧ろ歓迎すべきことです」
今回のようなことは機動隊として活動していると、何時か必ずと言ってもいいほど出合う場面だ。その際に時間的余裕があるとは限らない。相方がいるとは限らない。自分の手で討伐しなければならない場面があるそうだ。
今回ならば、躊躇いがあって討伐に時間がかかっても問題はない。腹をくくるのには丁度いい、と大護は語る。
アケミは理解しているものの、心配の目をアルカに向けていた。
「大丈夫です、アケミさん。出来ます」
「本当に?大丈夫?」
「アルカが出来なくても、アタシがやるさ」
「それは本末転倒ですよ」
「大丈夫ですよ。何だかんだ言って、アルカはやるから」
謎の自信を持ったキョウを横目に、アルカは魔動武装を抜き放ち扉に近づく。それを見てキョウは後に続いた。
扉の前にある瓦礫の前でキョウと視線を交わしてから、キョウは瓦礫を思い切り蹴り飛ばした。
瓦礫は勢いよく遠くに飛んでいくのと同時、扉がバンッと音を立てて開き不死者が飛び出してきた。
数は四体。その中に予想通り、あの時アルカにつっかかってきたタクマと呼ばれた男性が混じっていた。
血の気の失せた青白い肌に焦点の合わない虚ろな眼、人の言葉を話さなくなった口。人の様相を呈しながら、人ならざる化け物。
アルカとキョウは魔動武装に魔力を纏わせ、向かってくる不死者の動きに合わせて一閃する。刀と大剣がそれぞれの不死者の頭を捉えた。
脳が破壊された不死者は再生することなく灰となって消える。キョウは返す刀でもう一体の不死者を討伐した。
対してアルカは、見知った顔の不死者を前に刀を振るうことが出来なかった。
ただ振り回される腕を避けるだけのアルカを見て、アケミが心配そうに見守る。
「アルカ、やれるか?」
「……大丈夫」
キョウの呼びかけに、少しだけ躊躇ったアルカだったが、そのおかげで決意は固まった。
振るわれた腕を躱し、すれ違いざまに刀を振るった。
「助けられなくて、ごめんなさい」
アルカのその言葉と共に、灰となって消えていった。
「すいません。ご心配をおかけしました」
「いいえ、上出来です」
大護は小さく拍手を送り、改めて犯人達に向き直る。そして口を開こうとしたその時、遠くの方でガラガラと何かが崩れる音がした。
咄嗟に武器を構えるが、気配は何も察知できず、代わりにピシッという音が聞こえ始めた。
「あっちってアタシが瓦礫を蹴飛ばした方じゃ?」
「マズいことになりましたね」
「それってもしかして……」
「崩落しますね、ここ。各員容疑者を一名ずつ担いでください。すぐに脱出します」
あたふたとしているキョウに対し、大護は落ち着き払って指示を出す。
適当に容疑者を肩に担ぎ、全速力で来た道を戻る。階段を上ると、来た方向とは反対側の道が崩壊した。あの場所にとどまっていたら、瓦礫の下敷きになっていたと思うと、肝が冷える気持である。
「危ない!」
「うぉ!」
縦穴に戻ったちょうどその時、タイミングを見計らったように、縦穴が瓦礫で塞がれたしまった。
巻き込まれることはなかったものの、縦穴からは脱出できなくなってしまう。
「ここがダメなら、正規の入り口から脱出します」
「入り口を塞いでいる瓦礫は……」
「あの程度なら攻撃すれば壊すことが出来ます」
言うが早く、探索の時には塞がれていた入り口に向かう。が、そう簡単には運ばなかった。
「塞がれている……」
入り口に繋がる細い通路の壁が崩れ、通行不能に陥っていた。
「これぐらいなら……」
「止めなさい、キョウ。衝撃を下手に与えると、生き埋めになるわ」
大剣に手を掛けたキョウをアケミが静止する。
衝撃を与えるならば、その勢いで脱出できるようにしなければならない。このような通路で衝撃を与えると、今度は天井が崩壊する可能性が極めて高く、さらにその先にも瓦礫があった場合、足が止まってしまい、崩落に巻き込まれるのだ。
大護は必死に考えを巡らせているが、名案が出てこないのか悔しそうな表情を浮かべている。
アルカも打開の策を考える。こちら側から脱出できず、反対側の入り口は床が抜け落ちてしまっている。縦穴も瓦礫で塞がっており、脱出は不可能だ。
既存の入り口からの脱出が出来ないのならば、新しく作るしかない。だが、天井を破壊すと、場所によっては近くの建物に影響が出ることに加えて、破壊するには厚すぎる。
「待って。一か所……」
アルカの脳裏に一つの光景が浮かぶ。
音のない世界で瓦礫の山を越えたはず。あの瓦礫は天井の一部が崩落していた。ならば、そこだけ天井が薄く、脆くなっているはずだ。
「大護さん」
アルカは間髪入れず、浮かんだ案を大護に伝える。
「可能性はありますね。しかし、周囲の建物に……」
「位置的には交差点の中央部に位置しています。影響は少ないかと」
「……悩んでいる暇はなさそうですね。その案を実行します」
どこかでガラガラと崩れ落ちる音が聞こえ、移動しながら大護はアルカの案を残り二人に伝える。
「なるほど。アタシが天井に穴を開ければいいんだな」
「単純な破壊力なら私より上だと判断しました」
「キョウ、全力で特異技能使っていいから」
「よっしゃ!任せろ」
「キョウの分の容疑者は私が担ぎます。脱出のタイミングは長くないと考えられますので、遅れないようにしてください」
「はい」
瓦礫の山の上で、キョウは大剣を構えた。緊張をほぐすように一度大きく息を吐き、続いて大きく息を吸う。
そして、カッと目を見開き渾身の一撃を天井に放つ。
轟音と共に日の光が差し込むと同時、アルカ達三人は天井に空いた穴に向けて飛び込んだ。
土埃を抜けると、爛々と輝く太陽に目が眩む。おかげで着地が危うかったが、足を挫くことはなかった。
そのまま穴から離れつつ周囲を見ると、大護は近くで同じように穴から離れ、アケミは低空で飛んでいた。
肝心のキョウは天井を破壊した勢いのまま遠くに着地していた。そしてどこで覚えたのか、ポーズを決めていた。
キョウの開けた穴は段々と広がっているため、観測できる範囲で穴から離れて集まる。
「アルカ、キョウ。よくやりました」
「いえ、頑張ったのはキョウです」
「案を出したのはアルカじゃない。褒め言葉は素直に受け取っておくべきよ。ありがとね」
二人に褒められ、アルカは恥ずかしそうに笑みを浮かべた。キョウも満更ではなさそうだ。
「しかし、言った通りになりましたね。効率を重視した結果、アルカが破壊行為をしました」
「そ、それは……提案は私ですが、直接壊したのはキョウです!」
「アタシを巻き込むのか!」
「事実でしょ!」
「ええ、二人が壊したのよ」
「許可を出したのは大護さんです!」
「さて、記憶にありませんが」
それはもうニコニコとイイ笑顔の大護からは、確実にこちらをからかっていることが容易に伝わってくる。アケミも同様だ。
むぅっと頬を膨らませていると、大護の情報端末に連絡が入った。
『ミハイルだ。やべぇ音が聞こえてきたが、何かあったか?』
「そちらまで響いていましたか。発生源はこちらで間違いないです。残りの容疑者を捕らえましたが、代わりに地下空間が崩壊しました」
『オイオイ。大丈夫なのかよ、それ』
「建物には倒壊の気配はありませんし、怪我人もいません。一度調査をしなければならないでしょうが」
『そうかよ。ならいい。というか残りの容疑者全員捕まったか』
「はい。経緯は今日のブリーフィングで詳しくお話しします」
『了解だ。探索はどうする?』
「続けてください。罠を残したままでは危険ですから。明日からは尋問に人員を割くことになりますので、探索速度が低下します。本日中にできる限り進めてください」
『あいよ。ブリーフィングを楽しみにしておくぜ』
ミハイルからの連絡が切れ、続けて各担当に連絡していく。
「私達は拠点に戻るわよ。このままでは探索もままならないわ」
容疑者を一瞥し、アケミは容疑所の一人を担ぐ。連絡し終えた大護も加わり、拠点に戻るのだった。




