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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
38/122

37 地下へ

 廃墟群中心部の建物は、これまでの物に比べてどれも大きく、一つ探索するのに時間がかかった。

 その為、思った以上に探索が進まず、二つ目の建物の探索が終わって外に出た時には、随分と太陽は高く昇っていた。

 一度大きく背伸びをし、次の建物に向かう。かつてとても広い交差点だったと思われる開けた場所を横切る。そしてその交差点のすぐ近くにある建物に到着した。


「これが地下への入り口か……塞がっているけど」


建物入り口の前に妙な窪地があったので見てみたら、地下への階段があった。しかし、その階段の屋根を構成していたであろう、平たいコンクリート塊が道を完全に塞いでいた。

 どうあがいても入れそうに無いが、隙間から地下を覗くと空間が広がっているように見える。

 気にはなったが入る方法も無いので、とりあえず心のメモに書き留めておいて、建物の探索に向かう。

 そこからさらに二つの建物の探索を終える頃にはもう昼になっていた。なので、一度集合して昼食がてら情報交換を行う。


「何か発見はありましたか?」

「いえ、何もなかったです」

「そちらもですか」


 大護も犯人に繋がる痕跡は発見できていないようだ。キョウも同様に首を振る。


「わたしも見つけられなかったわ。でも四人がかりで探して手掛かりゼロなのは少し不自然ね。予想が外れたかしら」


 探索した建物が少ない分、一つ一つ大きいのだ。地図を見ても、探索済みの建物が占める面積は、これまでの探索とそう変わらない。

 だからこそ、可能性が高いと推測されたこの場所で何も発見できないのはおかしいとアケミは言う。


「そういえば、班長の言っていた地下空間らしきところがあったのですが、その中はどうですか?」

「地下空間に入れたのですか?」

「いえ、瓦礫に埋まっていました。でも隙間から覗いたら空間があるように見えました」


 大護はアルカの言葉を聞いて、情報端末を手にとり地図を開いた。しかし、見慣れた地図ではなく、簡略化された建物や図形、太さの異なる線、文字が載っている色彩豊かな地図だ。

 見覚えのない地図に大護以外の三人が揃って首を傾げるのと、大護が口を開くのは同時だった。


「班長から送られてきた昔の地図のデータです」

「こんなゴチャゴチャした地図でよく迷わなかったな、昔の人は」

「これ以外にも様々な地図がありますからね。目的に合った地図を使っていたのですよ」

「へー」

「雑学はこれくらいにしておいて、アルカの言っていた地下空間ですが、これですね」


 大護が指差した地下空間は、道路や建物に跨るように広がっていることが読み取れる。そこに繋がるように複数の入り口が存在している。


「どこかから入れるとしたら、十分な隠れ家になるわね」

「昼一番に地下への入り口を確認しましょう」


 手早く昼食を終えて、地図で確認した入り口に向かう。午前中にアルカが見つけた場所だ。

 アケミは隙間からライトを照らし、瓦礫の向こうに空間を確認する。


「確かに空間があるわね。アルカ、キョウ。何か気配とか感じ取れる?」


 アルカとキョウは目を閉じ意識を集中させ、瓦礫の向こうに耳を澄ました。

少しして目を開き、首を振った。


「どう?」

「何も気配は感じないです。キョウは?」

「アタシもだ」

「そう。ここは外れかしら」

「そのようですね。副班長、次の場所に行きま……副班長?」


 アルカが振り返ると、目を閉じて意識を研ぎ澄ませている大護がいた。あまりに突然で、アルカは不審がる。

 どれほど耳を澄ませても、動物の特徴を持つアルカとキョウに聴覚で勝てるわけが無いのだから。

 と、大護が目を開ける。そして、フッと笑った。

 何故笑ったのか、アルカとキョウはわからなかったが、アケミはピンと来たようだ。


「何かあったのですね」

「ええ、大当たりです。しかも不死者付きで」

「不死者が!?」

「はい。閉じ込められているようで、扉を叩く音と唸り声が聞こえました」


 不死者の唸り声の近くから人の話し声が聞こえたそうだ。

 犯人が見つかった喜びと不死者がいる驚き、そしてアルカ達ですら聞こえなかった音を聞けたことによる疑念がない交ぜになった感情がアルカの中に湧き起こる。

 その感情を見透かしたように、大護が話し始めた。


「私は特異技能の関係であなた方より耳がいいのですよ。そんなことより、他の入り口に向かいましょう」


 大護は速足で次の入り口に向かう。

 アルカは納得しきれなかったが、特異技能に関することなので深くは追及することはせず、大護の後に続く。

 その後の探索で、地下空間の四方にある階段はどれも瓦礫で埋まっていたが、地下空間から垂直に伸びている縦穴の底に、人が通れそうな隙間を発見した。


「全員が一度に突入することは出来なさそうです。加えて、着地や通り抜ける時に大きな音が発生して気が付かれる可能性があります」


 アルカが検分した結果を聞き、大護は一瞬考える素振りを見せて、すぐに口を開いた。


「私とアケミの特異技能を使いましょう」

「わかったわ」

「えっ!いいんですか?」


 基本的に信頼関係が無いと特異技能を相手に教えたりしない、と過去にヴィクターが言っていたのだ。躊躇いなく使おうとしている二人にアルカは思わず声を上げた。


「わたしはアルカとキョウを信頼しているから問題ないわよ」

「私もです。少なくとも、今までの行動で不審なことはありませんでした。特異技能を見せても問題ないでしょう」


 先ほどの気遣いが無駄になったような気がしたが、それよりも二人から信頼を得ていることに、驚きと喜びでどうでもよくなる。


「さて、私の特異技能を使うと音が聞こえなくなるので、今のうちに作戦を伝えておきます」


 曰く、大護の周囲からできる限り離れないこと。離れすぎると特異技能の効果範囲から外れて、音が発生してしまう。効果範囲は広げることは出来るが、魔力の消費量が大きくなるので過度な期待はしないこと。

 犯人を最初に拘束し、次に不死者を討伐すること。

 大護の聞いた声から判断するに、犯人は地下空間の中でも遠くにいると思われる。大護先導で、必ずハンドサインの指示に従うこと。

 一通りハンドサインを確認し、ついに突入となる。

 徐にアケミが軍服の袖を弄ると、袖が二の腕まで裂けた。アルカの軍服ではできないので、改造しているのだろう。いきなりのことで驚いたが、それ以上に驚くべきことがあった。

 裂けた袖から美しい羽根が姿を現したのだ。アケミの腕から生えているようで、その綺麗さに思わず目を奪われる。

 そんなアルカの視線に気が付き、アケミは少しはにかみながら微笑む。


「そんなに見つめられると恥ずかしいわ、二人とも」


 どうやらキョウも見とれていたらしく、慌てて二人はアケミから視線を外す。


「アケミさんって羽根が生えていたんですね」

「そうよ。普段動くときは邪魔になるから仕舞っているけれど、特異技能を使う時は制御のし易さとかの関係で広げるのよ」

「ハイハイ。お話は後でもできますので、今は犯人確保に集中してください」


 大護が手を叩く音で現実に引き戻された。

 アケミがふわりと浮き上がり、大護の手を取って縦穴に侵入していく。まず大護が先行して罠の有無を確認し、次いでアルカとキョウが後に続く形だ。

 アケミと大護の気配は察知できるが、音は一切聞こえない。

 すぐに縦穴からアケミが出てきて、アルカとキョウ、それぞれの手を取り縦穴に入っていく。

 地面から足が離れて体を支える物が無くなり、宙に吊られて移動する感覚は、これまで味わったことのない不思議なものであった。

 と、ここで気づいたことがある。普通、キョウならば何かしらのリアクションをとるが、それが一切ないのだ。それどころか一切の音が無く、耳の痛くなるような静寂の中にいるのだ。

 事前に教えてもらわなければ、確実に混乱することは想像に難くない。現にキョウを見ると必死の形相で口をパクパクしている。地味に面白い。

 ゆっくりと地面に足がつき、下にいた大護と合流する。

大護の手には細いワイヤーが握られていた。察するに、上から見えた入り口に仕掛けられていたのだろう。そういうところは抜け目ない相手だ。

 入り口は人一人が通れる大きさで、順次通り抜ける。

 地下空間は広く、そして暗かった。遠くに見える光は瓦礫の隙間から漏れているようだ。視界は暗くて悪いが見えない程でないため、ライトは点灯させない。

 足元を見ると、分厚い埃に幾つもの足跡がついており、アルカ達の物ではない足跡が続いていた。それを辿っていくようだ。

 大護を中心にして右にアルカ、左にキョウ、後ろにアケミで進んでいく。

壁面に飾られていたポスターと思しきものは、長い時間の中で色褪せ、その役割を完全に消失し、ガラスは割れて一枚も原形をとどめているものは無かった。

天井が一部崩落し、瓦礫の山を越えて地下に向かう階段にたどり着いた。

ここにきてようやく、アルカは人の気配を察知できた。数は四人。残りの犯人の数とも合致する。

 素早く大護にハンドサインを送ると、大護も感じ取れていたようで、分かっていないアケミに伝えられた。

 神妙に頷くアケミとは対照的に、獰猛に笑うキョウは今にも飛び出しそうだ。

 慎重に階段を下り、物陰に隠れながら気配のする方向に進む。犯人達は火を焚いているようで、揺らめく光が居場所を示していた。

 可能な限り近づき、そして一斉に物陰から飛び出すのだった。


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