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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
35/122

34 犯人の痕跡

 翌朝、アルカ達は朝の支度を終え、廃墟群に向かう。隊員達が雑草を刈ってくれたので、非常に視界が良くなり、歩きやすくなった。

 拠点から十分離れたところで、大護が口を開いた。


「昨日、班長に連絡を入れましたが、横流しに関しては班長が調べてみるそうです。それと探索ですが、何でも地下に列車が通っていたとかで、この廃墟群は地下にも空間があるそうです。大変革前の物なので崩落している可能性もありますが、もし残っていた場合、隠れるにはうってつけだと話していました」


 大変革以前の地図は現存する物が極端に少なく、各地の廃墟群を特定できる事もあり、厳重に保管されている。それをわざわざ確認してくれたそうだ。


「地下に空間と列車ねぇ。想像つかないわ」

「三百年も昔にそんなことが出来たのですね」

「大変革で文明が後退していますから、失われた技術かもしれませんね」


 失われた技術、不完全ながら宇宙にまで進出できたのだから、地下に空間くらい余裕なのかもしれない。

 過去の技術力のすごさと、探索範囲が広がったことに感嘆と恨めしい気持ちが入り混じった感情が出てくる。


「さて、立ち話もこの辺りにして、探索を始めましょう。昨日言った通り、アルカとキョウがチームを組んでください」

「わからない事があった気軽に聞いてね。まだまだ新人なんだから、知らない事があるのは当然なのよ」

「その通りです。では昼に会いましょう」


 大護たちと別れ、アルカとキョウは探索を開始する。今日の探索は南側だ。

 また一つ建物内部の探索が終わり、地図に書き込んでいく。ついでに廃墟群全体を確認してみる。

 昨日、犯人のいた形跡が発見され、廃墟群にいる可能性が高いと判断されたこともあり、特に一班の捜索スピードが速くなっていることがわかった。


「しっかし、見つからないな」

「昨日見つかった痕跡も北側だったから、こっちで見つかる可能性は低いと思うよ」

「うがぁー」


 また奇妙な鳴き声を上げて頭を抱え始めたキョウを見ながら、呆れた声で話す。


「まだまだ未熟な私達がしっかりと基礎を積めるように、問題が発生しにくい方を担当にしてくれたんだよ。もし犯人が居たら探索も中途半端にしかできないじゃん」


 探索のスピードを見ても大護達の方が早く、それでいながら、連絡と指示も合間に行っているのだ。まずは、探索を完璧にこなせるようになるべきである。

 都市外調査訓練も半端になってしまい、アルカは最後どうなったのか話でしか知らないのだから基礎は大切である。

 キョウは渋々探索に戻り、新たに建物に入っていく。アルカも先輩達に追いつけるよう、探索を頑張るのだった。

 それからしばらくして太陽も高く昇った時、アルカに連絡が入った。


「こちらアルカです。大護さん、どうしましたか」

『こちらで犯人の痕跡が見つかりました』

「本当ですか?」

『はい、痕跡を見る限り、昨日か一昨日のものだと考えられます』

「そうなると、ここに犯人がいるのはほぼ確定ですね」


 その考えに大護も同意で、指示をするために連絡をしたそうだ。そして地図を表示し、大護と共有する。


『それぞれの痕跡を発見した位置はここです。ここから推測すると、犯人の移動ルートはこう考えられます』


 地図に線が書き込まれる。大護達が見つけた痕跡はかなり北側で、北部拠点との捜索範囲の境界あたりである。


『見つけた痕跡があった建物はしっかりとした造りでした。火を使う時、外部に火の光が漏れないよう選んだと思われます。』

「そうなると、今いる場所にいる可能性は低そうです」


 アルカとキョウが探しているのは、かつて住宅地だったようで半分以上が倒壊し、残っている建物も壁や屋根に穴が開いているのだ。


『ええ、そうなります。なので、午後からはしっかりした造りの建物があるこの辺りを探してほしいのです』


 地図に書き込まれた地点は、探索範囲の中央よりやや南側。今は南部拠点との捜索範囲の境界近くにいる。


『それと、痕跡のあった周囲を探索するので合流は出来ません。昼食は各自でお願いします』

「わかりました」

『それでは引き続きよろしくお願いします』


 それを最後に通信が切れた。話が終わったことを察したようで、キョウが近づいてくる。


「何の連絡?」

「副班長が犯人の痕跡を見つけたって」

「となると、やっぱりここに犯人がいるんだな」

「うん。だから午後は犯人のいそうな場所を捜索するよ」

「りょーかい」


 時間もちょうどいいくらいになったので、昼食をとった後、現在地から北上していく。

 道すがら捜査も並行して行っていると、段々と形の残った建物が増えていく。同時に、建物自体も大きい物が増えていった。


「この辺か」

「だね。しっかり調べていくよ。万が一もあるから、今まで以上に警戒して」


 そう言って一番近くにある建物に入る。外観は五階建てで、一階は何かの店だったのか、錆びついた棚が並んでいた。

気配察知で奥の棚の向こうに反応があり、一瞬で臨戦態勢を取ったが、どうも様子がおかしい。

 息を殺しながら、いつでも刀を抜けるよう構えて棚に近づき、勢いよく飛び出す。

 そこには猪がいた。

 肩の力が抜け、驚いて突進してきた猪を軽く避ける。猪はそのまま外に逃げていった。

 結局その建物には何もなく、いつもより疲れただけだった。

 そこからはひたすらに探索をしていく。しかし、そう簡単に痕跡は発見できず、長時間警戒していたことで集中力が切れてきた。本当にここにいるのだろうか、と考えを巡らしていたその時、事件は起きた。

 アルカはこじんまりとした建物の二階に上がろうと、廊下の奥にある階段の目の前にした時、足に何かが引っかかった。それが何か確認する前に、本能が警鐘をけたたましく鳴らす。

わき目も降らず全力でその場から飛びのくと、アルカがそれまでいた場所に瓦礫が降り注ぐ。


「トラップ……」


 偶然にしては不自然なほどピンポイントに瓦礫が降って来た。それに加えて、足に引っ掛けた物の存在。見た限り躓くほどのものは無く、かつ段差や窪みは無かった。

 と、思考を巡らせていると、天井から埃が落ちてきた。嫌な音も聞こえる。

アルカは慌てて外に出る。そして十分に離れたところで、建物が轟音と共に倒壊した。


「どうした!アルカ!」


 音を聞いて、大剣を引き抜いて駆け寄って来たキョウが声を上げる。


「捜査してたら建物が倒壊した」

「ケガは……なさそうだな」

「うん。大丈夫」


 キョウはアルカの全身を観察し、無事を確認してから頭に着いた埃を払う。


「んで、何があった?」


 大剣を仕舞い、腰に手を当てながらアルカに質問をする。

 アルカは足に何かを引っ掛け、建物の一部が倒壊し、連鎖的に崩壊したことを伝える。


「ただ、引っかかった感触的に、瓦礫とかじゃなくて、ワイヤーみたいな細い物だった」

「ワイヤー?」

「そう。それに瓦礫が落ちてきたのも不自然だった」

「……罠か」

「私はそう考えてる」


 証拠は何もないが、そんな気がするのだ。

 とりあえず大護に連絡を入れることにした。建物の崩壊とアルカの考えを報告すると、大護は少し間をおいて、考えを話し始めた。


『恐らくアルカの考えた通り罠だと思います。犯人にとって我々に人的被害が出れば逃走確立が上がりますから』

「このまま捜索を続行しますか?」

『まだ罠があると予想されますが、出来ますか?』


 言外に命の危険があると伝えてきたが、アルカとキョウは迷うことはなかった。


「やらせてください」

『二人ならそう言うと思っていました。では捜査を続行してください。そして最後に一つだけ。探索の練習ではなく、戦場で敵を探していると考えて行動することです』

「はい」


 二人は力強く返事をし、大護との通信が切れた。


「面白くなってきたじゃねーか」

「面白くはないけど、貴重な経験にはなるね」


 先ほどまでと異なり、キョウはやる気に満ち溢れている。アルカは今にも駆け出しそうなキョウを窘めつつ、気を引き締めた。

 そこからは打って変わって緊張感漂う探索になった。曲がり角や暗がりにワイヤーなどが無いか注意を払いつつ探索を続けると、今度はキョウが何か見つけたようだ。

 キョウに呼ばれこれまた小さめの建物に入り、奥にある廊下にそれはあった。

薄暗い通路の瓦礫に隠すようにして、細いワイヤーが張られていたのだ。ワイヤーは真上の天井まで伸びていることが分かる。


「これは確定だな」

「そうだね。写真だけとっておこう。変に触るとまた倒壊するかもしれないから」


 証拠写真を撮り、特徴を押さえる。

暗く、物が散乱して視界が悪いだけでなく、奥まった場所に仕掛けることで、脱出しにくい状況を作り出している。

 適当に仕掛けるのではなく、キチッと考えて仕掛けられていることに、相手の評価を修正して、その建物を後にした。

 時間ギリギリまで探索を続け、さらに二つ罠を発見した。どれも巧妙に隠し、回避し難い場所に仕掛けられていた。

 大護、アケミと合流し、拠点に戻りながら報告をする。大護は少し考えるように眉を顰め、口を開いた。


「戦闘の様子を聞いた限り、特異技能は芽生えていないようですが、頭は回るようですね」

「全員に罠があることを周知した方がいいと思います」

「そのつもりです。それに何やら一班も伝えたいことがあるそうですから、ブリーフィングを急ぎましょう」


 拠点に戻るなり、すぐさまブリーフィングを行う。画面に各拠点の代表が映るが、見知らぬ顔が映っていた。


『西部拠点だがミハイルは所用で遅れる。俺は代理だ』

「そうですか、わかりました。では始めましょう」


 大護は犯人がいた痕跡を見つけた事、そこから得た情報から犯人の居場所を推測し、罠が仕掛けられていた事を伝える。


「犯人の強さは我々なら問題なく対処できますが、頭が回るようです。甘く見ていると痛手を負うかもしれません。各員注意を払って探索を進めてください」


 班員達は各員に送られた罠の写真や、罠の要点をまとめた資料を見ていると、西部拠点の画面にミハイルの姿が映る。


『すまねぇ。遅れた』

「いえ、問題ありません。連絡事項については同じ拠点の方に聞いてください。資料は情報端末に送りましたので」

『了解だ。で、こちらからの情報を言っていいか?』

「はい、どうぞ」

『容疑者を捕まえた』


 その言葉に、西部拠点以外の班員が目を見開くのだった。


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