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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
33/122

32 廃墟群

 共同捜査の顔合わせの翌日、アルカは廃墟群に向かう小型飛行艇の甲板にいた。眼下に流れる海岸線を眺めながら、大きく息を吸った。

 何となく、都市にいるより空気が美味しく感じる。


「何やってんの?」

「ん、空気を吸ってた」

「なんで?」

「……美味しいから?」

「空気に味なんてないぞ」


 情緒を理解しないキョウにジト目を向けるが、そんなことはどこ吹く風で、柵にもたれかかる。


「しっかし、こんな飛行艇もあったんだな。デカいやつしか知らなかった」

「小型っていっても全長三十メートル越えってどうなの」

「普通の飛行艇がデカすぎるだけだろ」


 小型の飛行艇ですらこのサイズで、しかもかなり低速、低高度で飛行している。さらに悪天候時は航行不能なので、魔力自動車がどれほど移動に寄与しているのか、今まさに実感している。


「でも大きいだけあって、中は何でもあるな」

「宿舎に会議室、談話室に遊戯室、整備工房にお風呂もあったね」

「生活できるな」


 長期遠征時はこの飛行艇を拠点に出来るように設計されているため、本当に何でもあるのだ。

 しかし、今回は都市から近く、短期間での任務として計画されているため、荷物の運搬のために利用するだけである。

 聞いた話では小型飛行艇の利用にあたって国上層部に申請を出したところ、近いなら魔力自動車か、それこそ歩いて行けばいいと言われたそうだ。それを、ヴィクターを始め、機動隊上層部が使用許可をもぎ取ったらしい。

 荷物の量が多く、魔力自動車では何往復もしなければならない程で、歩いて持っていくなど考えたくもない。

 効率化のため二隻使用しており、各班に分けて乗船している。拠点を設営する場所が違うこともあり、一班を乗せた飛行艇は別行動である。

 いろいろな意味で楽になったので、ヴィクター達に感謝である。


「二人とも、こんなところにいたのね」

「あっ、アケミさん」


 飛行艇内部に続く扉が開き、アケミが姿を現す。静香が休暇でいないため、今回は大護と臨時でチームを組んで任務に参加している。

 また、女性の班員がアルカとキョウの新人二人では不便だろう、という配慮から参加が決定した。

 アルカの隣まで来て、柵にもたれ掛かる。


「アルカとキョウも大変ね。配属から任務を立て続けにこなして」

「そうでもないですよ。皆さんが手を貸して下さるので、出来ているだけです」

「役に立てて嬉しいわ」


 髪が風に靡くその横顔は笑っているが、いつもと違った。


「……静香さんが気になりますか?」

「バレちゃったか……そうね、心配だし、この任務に就けなかったことが残念ね」


 今回のような規模の共同捜査は近年行われたことが無く、必ず良い経験になる、とアケミは話す。

 出来ることなら連れてきたかったが、静香本人にも聞いた結果、拒否されたそうだ。


「アケミさんは近くにいた方が良かったのではないですか?」


 同性の班員なら他にもおり、この任務を任せて静香の傍にいた方が良かったのではないか。こういう時こそ誰か近くにいて欲しいとアルカは思う。

 しかし、アケミは首を振った。


「女性班員の中で、子供がいて家を空けることが出来ない人や、アルカ達より弱い人、遠征の経験が無い人を除くと、わたしくらいしか適任がいないのよ。昔はいたのだけどね。それに、わたしも機動隊員よ。公私の分別はつけるわ」


心配なのは山々だが、仕事に持ち込まない。それは静香も同じである。個人の悩みで仕事に支障をきたしてはいけないのだ。

まして、アケミは班員である。そこはキッチリとしておかなければならない。

アケミの立派な言葉に、アルカは申し訳ない気持ちになった。

 アルカ自身、個人的事情で話せていない事や独断をした事があるのだから。今はまだ何も起きていないが、何時か悪い方向に向かうかもしれない。

 少しずつでもトラウマを克服していこうと、アルカは決心する。


「おっ!あれが廃墟群か!」


 しんみりとした空気をぶち壊す、明るい声を発したのはキョウだ。柵から身を乗り出して前方を見ていた。

 そして、アルカに笑顔で振り向き「アルカも見てみろよ」と、遠く向こうを指差す。

 アルカとアケミは顔を見合わせ、やれやれと苦笑いを浮かべる。そしてキョウの指差した先を見つめる。

遥か昔、それこそ大変革前の繁栄した都市だったであろう場所だが、半分以上植物に覆われ、その無常さを一層、醸し出していた。

 廃墟群の中心部には背の高い建物がいくつも建ち並んでおり、その周りの地面は所々建物などが見えるが、多くは倒壊している。

 そんな中心部から離れた、地面の開けたところに飛行艇は着陸する。ハッチが開き、隊員達が手早く荷下ろしを始めた。

 三班の班員が四名地上に見える。彼らはこの場所を拠点して行動することになる。アルカ達は東部の拠点を使うことになっている。

 一時間もかからず荷下ろしが終わり、飛行艇が離陸する。そこからしばらくして、また着陸した。


「外だー!」


 ハッチが開くと同時に一目散に駆け出したキョウは無視して、荷下ろしを見学する。班員の指示など無くてもテキパキと仕事をこなしていく隊員達は、都市外調査訓練の時とは別物にしか見えない。

 そんな中、隊員の中に見知った顔があるのを確認した。都市外調査訓練の時に一緒だったハイディ・クレセントとチェリンカ・ハミットだ。

 ハイディの指示のもと、どんどん荷物が運び出され、同時に設置されていく。チェリンカは忙しそうにあちこち動いていた。

 アルカは仕事が無く、眺めているだけでソワソワし始める。その時、たまたま近く大護が歩いていた。


「私も何か手伝えることはないですか」

「彼らが忙しいのは今だけです。廃墟群の調査が始まれば、そこまで忙しくはありません。逆に私達が暇なのは今だけです。なので、ゆっくり休んでいてください」


 そう言ってどこかに行ってしまった。

 アルカはやるせない気持ちであっちこっち歩き回り、時間をつぶすのだった。





 準備が整ったのは、とうに午後を過ぎてからだった。

大型の骨組みがしっかりしたテントが幾つも設置され、そのうちの一つにアルカ達班員は集まっていた。

 そのテントは通信用の機材が設置されており、会議室としての利用を前提としている。その機材に繋がれた画面に各拠点の代表が映し出されていた。


「各拠点、問題ありませんか?東部は問題なしです」

『こちら北部。問題ありません』

『あー、あー、こちら南部。問題ない』

『西部。問題ないぜ』

「了解です。ではブリーフィングを開始します」


 テーブルの上に地図が映し出され、各拠点が書き込まれている。


「タイヤ痕は廃墟群の北東で発見されています。故に犯人は北部から東部にかけているものと考えられます」

『オイオイ、こっちはハズレじゃねーか』

「そうでしょうか。犯人が飛行艇に気が付いている場合どうなると思いますか?」

『……なるほど。その場合、飛行艇から逃げるようにこっち側に来るな』

「はい。それに犯人は最低三人と言うだけです。証言からも背後に何者かがいることは確定しているのですが、実際にはどれほどいるか不明なので、意外といるかもしれません」

『ほぅ、そりゃぁ面白いじゃねーか』


 画面の向こうでは、ミハイルが興奮を押さえられない様子で笑っている。他の一班班員の声も聞こえ、相当楽しみなことが伝わってきた。


「暗くなってからの廃墟群は危険度が跳ね上がりますので、探索は明るい間に行うことが絶対です。今日はもうすぐ暗くなりますので、廃墟群に向かうまでの道を確認する程度に抑えてください」

『ああ、了解だ。廃墟群については班長から厳重注意を受けている。破るやつなんていねぇさ』

「それは結構。捜索方法はお任せしますが、破壊行為は最小限に留めてください。」

『破壊行為はしねぇよ。下手するとあのデカい建物が崩壊すんだろ。俺だって死にたくねぇ』

「わかっているなら十分です。何かご質問は?」

『犯人はどうすればいい?』

「犯人ですが、生きている方が好ましいですが、生死は問いません。自分達の生存最優先です」

『オーケー、分かった』

「他に質問は……なさそうですね。ではブリーフィングを終了します」


 通信が切れ、画面は何も映さなくなる。


「聞いてもらった通り、犯人の総数は不明で、どこにいるかも分かりません。地の利は向こうにあります。加えて気を付けるべきは犯人だけでなく、建物の崩壊も考えなくてはなりません」

「思った以上に大変ね。長丁場になるかも」

「できうる限り短期間で終わらせられるよう、努力するほかありませんね」

「廃墟群までの道を確認しに行きますか?」

「そうしましょう」


 大護を先頭に、魔動武装を携えて廃墟群に向かう。拠点から離れれば、すぐに植物が鬱蒼と生い茂った緑溢れる土地になった。

足元にはかつて道を構成していたであろう砕けた瓦礫が散乱し足場が悪い上に、背の高い雑草や木で視界も良くない。


「どうします?少しは雑草の処理でもしますか?」

「それは明日からの隊員の仕事にしましょう。我々は我々にしかできないことをすべきですから」


 足場を確認しつつ進み、廃墟群に到着した。植物は道中ほど侵食しておらず、崩壊した建物や瓦礫などとよくマッチしており、ある種の神秘的光景を創り出していた。

 その光景に思わず息を呑む。キョウに肩を叩かれるまでずっと見入っていた。


「ごめん」

「いいさ、アタシも見入ってたくらいだ」


 アルカは改めて周囲を見回す。道路らしき黒い道はあちこちひび割れ、隙間から植物が顔を覗かせていた。歩きにくくはあるが、通ることは出来そうだ。

 倒壊した建物は骨組みだけが残っていたりと様々だが、衝撃を与えれば崩れ落ちることは想像に難くない。

 所々に中に入れそうな建物も残っており、隠れる場所には困らなさそうだ。


「さて、道の確認は出来ましたから戻りましょう。いくら我々でも、暗い中この道を戻るのには骨が折れそうです」


 太陽は既に傾いており、大分影が長く伸びていた。

 拠点に戻った頃には、太陽は山に差し掛かっていた。

 食事は用意中のようで、辺りにはいい匂いが漂っている。先に体を綺麗にするように言われ、アケミについてテントの一つに向かった。


「遠征はシャワーだけだけど使えるし、ご飯は美味しいし、宿舎も快適だからいいわね」

「シャワーもあるんですか。何か都市外調査訓練とは比べ物になりませんね」

「お腹すいた……」


 快適に過ごせそうで、アルカは気分が良くなる。なお、キョウの鳴き声はスルーした。

 シャワーを浴び終え、食事に舌鼓を打ち、宿舎のテントに向かう。このテントは女性専用で、衝立やカーテンで個人スペースを確保していた。


「明日からは、早朝から捜査をすることになるわ。早めに就寝することね」


 いつもよりかなり早い時間であったが、アケミの助言に従い、ベッドに入る。

寮のベッドと遜色ない寝心地で、初めての事ばかりで緊張して疲れていたのか、すぐに眠気がやって来た。

 アルカは眠気に逆らわず、そのまま眠りにつくのだった。


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