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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
32/122

31 色々な話

 休日が明けて本部に顔を出すと、朝から班長室に来るよう通達があった。

 班長室に入るのも慣れたもので、ヴィクターの眉間に皺が寄った普通の表情にも怖がることはなくなった。

 そもそも班長室に高頻度で呼ばれるのもいいことではないのかもしれないが。

 班長室にはヴィクターの他にもアケミの姿があった。しかし、静香の姿はなかった。それだけで何となく呼ばれた理由が察せられた。


「二人ともこの状況を見て察しているだろうが、静香のことについてだ」


 昨日から様子がおかしかった静香がどうなったのか、神妙な顔で耳を傾ける。


「静香は少し考える時間が欲しいということで、しばらく休暇をとることとなった」

「あの、体調とかは……」

「身体には問題はない。精神が不調をきたしている。理由は不明だそうだ」


 静香自身も何故これほど心がささくれているのか、感情の整理ができないのか理解できていないらしい。


「私達に何か出来ることはありませんか?」


班員の中で、大護の次くらいに交流があるのが静香なのだ。居ても立っても居られず、静香のことが心配になり、つい言葉が出た。

しかし、帰って来た言葉は残酷だった。


「無いな。強いて言うなら近づかない事だ。少なくとも今は、な」


 助けたいのに助けることが出来ないという、もどかしさを噛み締める。その様子を見て、ヴィクターは続けて言った。


「静香は君達二人に嫉妬しているのだ。無理に近づけば傷つけることになる」

「嫉妬……」

「静香は気づいてないようだったが、こればかりは本人が乗り越えるべき壁だ。君達二人ではどうすることも出来ない。私やアケミでも精々、助言をするのが関の山だ」


 押し黙る事しかできない二人に、アケミが声を掛ける。


「静香はね、天才なのよ。大体のことはそつなくこなせるし、生まれ育った環境も良いから努力や苦労を積み重ねていないの。特異技能も簡単に芽生えてしまったわ」


 本来、特異技能とは才能ある者の強烈な願望や意志によって芽生えるのだ。ただ欲しいと思った程度では芽生えることはない。

 しかし、静香は特異技能を欲しいと思って、すぐ芽生えたそうだ。「才能という点では、現存するどの班員よりも上だろう」とヴィクターも太鼓判を押ほどに。


「才能だけでやればできてしまうから、努力や工夫をしない。そして、年嵩の班員に負けるのは死神の特性上仕方がないと思っている。そんな中、アルカとキョウみたいな類稀な才能と異常なまでの向上心を持った年下が現れたの」

「私達が……」

「静香にとって初めての出来事なのよ。これを乗り越えられなければ、静香は機動隊でやっていけないわ」

「厳しすぎるのでは?」

「世の中にはいくらでも理不尽が転がっているわ。それを飲み込み、越えていかなければならないのよ」


 アケミは優しく語り掛けるように言っていたが、それでいて強い意思が感じられた。


「静香のことは君達が考える事ではない。もう一度言うが君達は何もするな。話が拗れることになる」


 アルカとキョウはもどかしい、やり場のない気持ちを押さえながら頷いた。


「では、任務の話をする」


 ヴィクターが話を打ち切り、アルカ達三人は姿勢を正した。


「昨日、逃走した車両のタイヤ痕を辿っていったところ、予想通り廃墟群に向かっていた。そして廃墟群に配置していた監視員からは、車両や人の出入りは確認していないと報告が上がっている」

「犯人が隠れている可能性が高い、ということですか」

「そうなる。相手ははぐれ死神だ。我々班員が動くことになる。加えて一班と共同で捜査することが決定した」

「一班ね……」


 アケミにしては珍しく、露骨に顔を顰めた。そしてその理由はすぐわかった。


「一班は戦闘が主な任務だ。だからか気性が荒い人物が多い。そして進化種を名乗る死神の大半は一班に集中している」


 アケミが顔を顰めるわけだ。これまでの事から、アケミはそのタイプの人間を嫌う傾向がある。

 そしてアルカとキョウは神意教教徒であると知れると面倒事になりそうなので、進化種とは関わりたくない。

 この任務の先行きに気が重くなる。


「廃墟群での捜索は三班主導のもと行う。協調性のない人物や性格に問題がある人物は弾いているが、もしこちらの指示に従わない者がいたら、実力を行使してもいい。あそこはそれが一番うまくいく」

「いいのですか?」

「いい。ただ腐っても相手は班員だ。手を抜くと負けるかもしれない。肝に銘じておくように」

「はい」

「あと、午後からは共同捜査の顔合わせがある。捜査の詳細は送るので確認しておいてくれ」


 そう締めくくりヴィクターの話は終わり、班長室を後にする。

 扉を閉めたところで、やって来た大護から声がかかる。


「私は午後の準備があるので、今日のところはアケミがアルカとキョウの見回りについていって下さい。お任せします」

「わかったわ」


 それだけ言うと、そそくさと部屋を出ていった。


「珍しく忙しそうだな」

「コラ、失礼でしょ」

「でもいつも何しているか不明なのよね。副班長って」

「どうかなさいましたか?」

「!いえ何も」

「そうですか」


 ひょっこりとドアの隙間から顔を出した大護に、慌てて口を噤む。


「あぁ、私は見回りと任務、各班員からの報告のまとめとスケジュール調整、他班とのやり取り、各方面への連絡、班長が出席する会議の補佐、班長からの調査依頼、班長の観察など様々しています」

「そ、そうですか」

「そうです。意外と忙しいのですよ。では」


 そう言って、扉が閉まる。


「……大変なのか」

「最後のはただの趣味だよね」

「地獄耳ね」


 三者三葉の感想を呟き、見回りに出発する。

 アケミ運転のもと、本部を後にした。

 見回りの最中、ヴィクターからの連絡が入る。


「共同捜査の詳細ですね」

「どうなったの?」

「廃墟群を囲むように四方向から同時に捜査していくそうです。東西南北四つの各拠点に班員を四名配置。三班は北と東が担当です。南と西は一班の担当ですね」

「少なすぎないか?いくら班員でも十六人ですべてこなすのは無理だろ」


 この調査は監視任務を兼ねているため、野営しながら捜査を行わなければならない。そうなると廃墟群を捜査もしつつ、監視しつつ、生活しつつでは忙しすぎるのではないだろうか、とキョウは考える。

 それに答えたのはアケミだ。


「隊員も連れていくから、わたし達で全てを行うことはないわ」

「でも危険地帯だって」

「入らなければ問題ないわ。生活面や監視任務の一部は隊員に任せて、班員は捜査がメインよ」


 このような野営を含む任務では、隊員が全面的にバックアップしてくれるらしい。頼もしくはあるが、都市外調査訓練を思い出すと、もろ手を挙げて喜べない。

 そんなアルカの心情を読み取ったようにアケミは付け加える。


「大丈夫よ。都市外調査訓練はあくまで訓練なのだから。でも今回は任務よ。身勝手な行動をとれば、その場の班員の権限で処刑まで出来るわ。それに、重要な任務に素行の悪い隊員はほとんどいないわ。万が一、何かあれば選出した上官の責任問題だもの」


 機動隊の歴史には、実際にそれで物理的に首が飛んだ上官がいるらしい。


「あと、都市外調査訓練みたいなテントでなく、もっと立派なテントに宿泊できるし、食事も豪華になるわ」

「マジ?よっしゃー!」


 食事が豪華になるだけでテンションが上がったキョウに対して、アルカは安心と不安がない交ぜになった感情を自覚する。

 面倒な輩がいないのも、住環境が良くなるのも嬉しい反面、班員という特権に恐怖している。

 そんな有耶無耶な感情を抱えたまま見回りは終わり、午後の顔合わせの時間になった。

 任務に参加する三班班員と会議室にて待っていると、ぞろぞろと見知らぬ顔の人物達が入って来た。全員、普通の軍服と違っており、かなり改造している事が伺える。


「共同捜査の顔合わせはここで合っているか?」

「ええ、合っていますよ」


 先頭にいた顔に傷跡のある赤毛の男性の質問に大護が答えた。そして用意されていた席に座る。


「全員揃いましたね。では自己紹介から始めましょうか」


 大護から始まり、三班全員の自己紹介終わる。そして一班の番になる。最初に名乗ったのは先ほどの男性だ。


「ミハイル・ラノルートだ。今回は一班のまとめ役になる。ま、適当に頼むわ」


 ひらひらと手を振って三班を眺め、アルカとキョウに顔を向けて鼻で笑う。


「まぁ、寧ろこちらが頼まれる側かもなぁ。三班は人員不足のようだし」

「人員不足に加えて、任務も一番回ってきますから。人員豊富な一班とは違うのですよ」


 ゲラゲラと声を上げて笑う一班の班員に、大護は皮肉を放つ。しかし残念ながら、それを理解したのは二名だけで、他六名は相変わらず笑うだけだった。

 そのまま自己紹介が終わり、面白くなさそうな顔をしたミハイルが席を立った。


「顔合わせはもういいだろ。まだ何かあんのか?」

「そうですね。任務の詳細は既に連絡していますから……あぁ、そうでした。最後に一つ」


 それまでニコニコとしていた大護の雰囲気がガラリと変わる。


「あまり勝手をするなよ」


 今までよりも低く、口調を変えた殺気の籠った言葉に、それまで笑っていた一班の誰もが引き攣った表情を浮かべた。

 それも一瞬、再び笑顔に戻った大護から逃げるように一班は立ち去った。


「副班長、ありがとうございました」

「いいのですよ。彼らの態度には、流石に頭に来ましたから。あなた方を守る意味でも多少脅していた方が効果的でしょう」


 三班の班員達も結構腹が立っていたようで、大護の行動で溜飲が下がったようだ。

 しかし、三班にはいないタイプだったが、他班はあのような人を小馬鹿にするような者ばかりなのだろうか。そう思って、大護に質問をぶつけた。


「一班に多いですが普通の感性を持つ人もいます。二班にも少々。残りはいないようなものですね」

「なんで一班に多いのですか?」

「一班は戦闘が主な任務です。つまり不死者討伐において最前線に出ることになります。過去には多大なる功績を上げた人も多い。機動隊の花形とも言えます。しかし今は、不死者はほぼ発生しません。しても少数です。過去の栄光に縋っているだけで、自分達は何もなしていないことを理解していないのです」


 機動隊の過去の花形たる一班に配属され、自身が偉くなり優秀だと勘違いし他班を見下す、過去の偉人の七光りで偉そうにしているだけの愚か者、というわけだ。

 あまりに面倒くさい相手に、思わずため息が出た。


「さて、明日から共同捜査が始まります。各員準備が必要でしょうから、現時刻を以って自由行動にします。アルカとキョウはアケミが面倒をみて下さい」

「そうね。同性の先輩はわたししかいないし。わかったわ」


 そこからはアケミに連れられて、必要な物も調達や準備に勤しむのだった。


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