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死神少女は生きています  作者: 気晴
第二章 栄枯盛衰の廃墟
31/122

30 休暇の戦闘訓練2

 キョウが大剣を、アケミは二本の槍を構えた。

隙の無い、それでいて力んだ様子もない強敵にキョウは不敵に笑う。


「んじゃ、いくぜ」


 地面を目一杯蹴り、全力で駆けるキョウの顔には一抹の不安もない。その目は新しいおもちゃに目を輝かせる子供のようだ。

 思い切りのよいキョウの攻撃に、アケミは慌てることなく対処する。

 正面から受けるのは不利と即座に判断して、回避行動をとる。一撃二撃と突撃の勢いが無くなるまで回避に専念し、反撃に移った。

 大剣を振り切った状態のキョウに鋭い突きを放つ。キョウは慌てて避けるが、次から次へと繰り出される突きに防戦一方となった。

キョウはたまらず距離をとろうと下がるが、アケミはそれを許さない。キョウが下がれば追いすがり、向かってくれば後退して、絶妙な距離を保つ。

大剣を振り回すには近く、拳では遠い距離から一方的に攻撃を仕掛けるアケミの技量にキョウは思わず舌を巻く。

しかし、キョウもやられてばかりではない。盾代わりに使っていた大剣を、突きを防ぐと同時にアケミに向かって投げ飛ばした。

突拍子のない行動にアケミは目を見開き、咄嗟に大剣を上に弾き飛ばした。

そのわずかに大剣に意識が逸れた瞬間、キョウは距離を詰め渾身のパンチを放つ。

アケミはバランスを崩しつつも何とかガードに成功し、後方に吹き飛ばされながらも受け身を取った。

アケミが着地するのと、キョウが落ちてきた大剣をキャッチするのは同時だった。


「まさか魔動武装を投げるとは思わなかったわ」

「初見で対応できるなんて、やっぱアケミさんつえーよ」

「あら、お褒めにあずかり光栄よ」

「でもまだ本気じゃなさそうだな」

「ふふっ、よくわかったわね」


 アケミはニコリと笑うと、おもむろに二本の槍の石突部分を連結させた。出来上がった長大な槍を確かめるように振り回す。


「へぇ、面白れぇな」

「さあ、どこからでもかかってらっしゃい」

「それじゃ、遠慮なく」


 言うが早く、アケミに立ち向かうキョウに大槍が襲い掛かる。遠心力が乗った薙ぎ払いを受け止めはしたが、完全に勢いは失われた。

いままでとは比べ物にならない威力を実感して、キョウは背筋に冷たい汗が伝う。

 そこからは、先ほどよりさらに一方的な戦いになった。

キョウが有利だった魔動武装のリーチと単純な力は今や逆転され、何とか懐に入ったところで、槍の合体を解除し対処される。

 キョウもどうにかして打開しようと考えるが、どれも不発に終わる。そしてついにキョウがギブアップした。

 摸擬戦が終わると、周囲から拍手や称賛の声が飛んでくる。いつの間にか、何人もの班員がキョウとアケミの戦いを観戦していた。


「はー、やるやん」

「アケミに本気を出させてよく粘った」

「アケミさんの魔動武装って合体するのか。初めて知った」

「キョウってやっぱりかなり強いね」

「年を考えれば強いが、まだまだ未熟じゃの」


 いろいろな声を聞きつつ、キョウは飲み物を口に含む。


「負けた……手も足も出なかった」

「そうでもないわ。最後まで攻めきれなかったもの。十分強いわ」


 アケミに慰められていると、観戦していた班員達が寄ってきて摸擬戦の申し出をしてきた。アルカとキョウは喜んでその申し出を受ける。

 そのまま何試合も行っていき、気づけば昼食の時間となる。アルカ達四人は昼食を取りながら雑談をする。もちろん内容は午前中の摸擬戦の事だ。


「何だかんだ強い人はしっかり隠し玉を持っていたな」

「そうだね。追いついたと思ったら、さらに離された気分だよ」


 最初に比べ、対等に戦えるようになってきたチームに負けたのだ。アケミのように武器を変形させたり、幾つもの暗器を駆使したりなど多彩であった。


「私も驚かされたぞ。アケミのは知っていたが、他の班員もあんな事が出来たのだな」

「そうね。強くなるために色々と模索した結果らしいわよ」

「参考になりそうなものもありましたし、役立ちそうです」

「午後から試してみるか」

「二人の向上心は十分すぎると思うわよ」


 アケミは苦笑いをして小さく呟く。そしてほんの少しだけ静香を見た。その横顔はいつもとは違って見えた。


「そういえばアルカ、静香の剣を弾いたのはどうやったの?」


 アケミの急な質問にアルカは目を瞬く。


「どうって言われても、普通に身体能力強化をしただけですけど」

「普通ってどういうこと?」


 会話がかみ合ってないことを確信したアルカとアケミは話を詰めていく。


「一瞬だけ多量の魔力を使って、身体能力を大幅に上昇させただけです……まさか普通じゃないのですか?」

「普通ではないわ。いろいろと常識外のことをしているわね」


 そう言ってアケミは細かく説明してくれた。

まず一瞬だけ魔力を使うことが、難しいそうだ。

不死者イモータルとの戦いでは、これまでの歴史を振り返り、長時間の戦いが想定されているため、いかに長く魔力を持続させるかが重要となる。そのため、少量の魔力で少し身体能力強化を長時間行うことに重点が置かれている。

アルカやキョウが行ったことはその考えと真逆であり、機動隊では教えられていない。

アケミも一瞬でなければ出来るが、慣れていない事もあり、相当無駄に魔力を消費することになるそうだ。

 意外な事実を聞いてポカーンと口を開ける二人に、アケミは優しく話しかける。


「出来るに越したことはないわ。それに午前中の二人の様子を見ていると、何回も使っているのにそれほど魔力の消費はなさそうだし、わたしも練習してみようかしら」

「良ければ教えしますよ」

「あら、その時は是非お願いするわ」


 昼食を終えて、再び訓練場に向かう。準備運動をしていると、アケミが何気なく質問してきた。


「そういえば二人は疲れていないの?」

「多少は疲れてるけど、午後戦う分には問題ないね」

「午前中なんて休みなしだったのに、すごいわね」


 素直な褒め言葉にキョウは若干照れる。

 そんなのんびりとした雰囲気の中、静香がアルカに話しかけてきた。


「アルカ、午後からもう一回摸擬戦をしないか」

「?ええ、いいですよ」


 静香の雰囲気が少し違う気がしたが、アルカは断る理由も無いため、承諾した。

 準備運動後、アルカと静香は武器を構えて向かい合う。キョウの試合開始の掛け声が上がる。

 しかし、静香はその場から武器を構えるだけで動かなかった。明らかに今までと違う様子に、アルカは警戒のレベルを上げる。

 そして、静香の呼吸に合わせてゆっくりと動いていた体がピタッと静止した。

 その瞬間、アルカの本能が警鐘を鳴らした。アルカは反射的に全力で回避行動をとる。

 正解だった。直前までアルカの首があった場所を剣が通過したのだ。

 いつの間にか目の前にいた静香が、バランスを崩したアルカに猛攻を仕掛ける。ムラはあるものの、午前とは比べ物にならない速さと力で、魔力を大量に使っての身体能力強化をしているのはわかる。

遠くで誰かの声が聞こえたが、防御に手一杯で何と言っているのかはわからなかった。

 アルカは圧倒的不利な状況を打開するため、静香と同じように身体能力強化を行う。力は相変わらず負けているが、それだけだ。

一回で押し返せなければ二回打ち込めばいい。そんな単純な思想から生まれたアルカの超速の連撃が静香を襲う。

あっという間に形勢逆転し、アルカが優勢となる。静香はどうにか距離を取ろうとするが、アルカはそれを許さない。

静香が勢いに押されて一歩下がろうと足を上げた瞬間、アルカはすかさず足払いを仕掛ける。体の支えを無くした静香は後方に倒れ、武器を突きつけられて摸擬戦は終了した。


「とても強かったです。もう少しで負けるところでした」


 本当にピンチで、静香が身体能力強化に不慣れでなければ負けていた。

アルカは本心を伝えたつもりだが、静香は非常に悔しそうな顔をしていた。


「静香!」


 アケミとキョウが駆け寄ってきた。そしてアケミは静香を剣幕で怒る。


「今のは危険すぎよ!一歩間違えばアルカが死んでいたわよ!」

「……」


 死んでいた、の言葉に静香は俯いたまま動かない。しかし、きっと先ほどの悔しそうな顔をしているのは想像がついた。

 アルカとキョウは顔を見合わせ、事の成り行きを見守っていたが、アケミが何を言っても返答が無い。

 はぁ、とアケミはため息を漏らした。


「アルカ、キョウ。ごめんなさいね。今日はここまでにしておくわ」

「あ、はい。わかりました」

「二人とも無理しないでね。特にアルカは今の試合で疲れたでしょう?それじゃ、ね」


 そう言い残し、アケミは静香を連れて訓練場を後にした。


「静香さんどうしちゃったんだ?」

「わからない。でも悔しそうな顔してた」

「悔しい……?アルカに負けたことが?」

「それはわからない」


 年下の新人に負けたら悔しいのは想像つく。しかし、摸擬戦前からどこか様子がおかしかった。それに突然、静香が特異技能スキルらしきものを使用してきたのも理解できない。アケミも言っていたが、かなり危険な攻撃だったのだ。キョウのように慣れている相手ならともかく、事前に話も無く使われたのは異常と言っていい。


「静香さん大丈夫かな」

「今はアケミさんに任せるしかない。アタシ達は出来ることするだけだ」


 キョウはそう言って魔動武装を手に取る。

 確かにこれ以上考えたところでどうしようもない。ならいつも通り訓練をするだけである。

 午後から戦闘訓練にきた班員達と個人、チーム問わず摸擬戦を繰り返し、アルカとキョウの休日は過ぎてゆくのだった。


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