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死神少女は生きています  作者: 気晴
第一章 独立機動隊の新人
26/122

25 都市外調査訓練5

 アケミ達が戻って来たのは、出て行ってから一時間ほど経ってからだった。アケミとキョウは何ともないが、隊員たちの疲れた様子を見るに、ひと悶着あったようだ。

 戻って来たアケミは待機していた隊員達の雰囲気が変化していると気づいたようで、静香と少し話をしていた。

 二日目最後の村の訪問は何事もなく終わり、戻って来た隊員達がホッとした様子が印象的だった。

 そのまま野営地に到着し、アケミにキョウが連れていかれて、アルカが昨日したことと同じように作業していた。

 アルカは散歩がてら、夕食用に野ウサギを三羽捕まえる。キョウがお腹一杯になりそうだ、と思いながら血抜きやら、内臓の処理、解体を手早く終わらせ、自分達のテントに戻った。

 料理道具や調味料もそれほど持ってきていないため、臭み消し用のハーブを混ぜた塩を振りかけ、豪快に焼くだけである。

 夕食の用意がほぼ終わったタイミングで、キョウが戻って来た。


「おかえり」

「ただいま。疲れた」

「はい、これ」

「ウサギ?」

「正解」


 焼けていたウサギ肉を頬張り、ウマー、と声を上げるのを見て、アルカは微笑む。もぐもぐと口を動かしていたキョウが思い出したように、言葉を発した。


「そういえば、アケミさんと静香さんが夕食を食べに来るって言っていた」

「えっ?聞いてないよ」

「今言ったもの」


 どうやら、水汲みの時に急に決まったらしく、静香も知らないと思われる。

 キョウが戻ってきてから五分足らずで二人はやって来た。手には飯盒や缶詰などが握られている。


「突然来ちゃってごめんね」

「いえ、問題ないです」

「私も突然知らされたのだ。アルカもだろう?」


 肩を竦める静香に、アルカも同意する。

 静香は焚き火台の上に缶詰など置き、持ってきていたイスに座る。


「何だ、この肉は?」

「ウサギです。狩ってきました」

「アルカが?」

「慣れていますから」


 静香は目を瞬かせる。たまに隊員で狩りをする者もいるが、そう簡単に獲物を捕らえることはできないそうだ。

 アルカがウサギ肉を勧めると、静香とアケミは喜んで食べてくれた。


「美味いな。」

「ええ、臭みも無いし、塩とハーブがうま味を引き出しているわね」


 随分とお気に召したようで、アケミは使った調味料や手順などを聞いてメモしていた。

 夕食がひと段落したところで、アケミが口を開く。


「静香から聞いたわ。隊員を殴って気絶させて引き摺り回しったって」

「アルカ暴れたのか!ズルい!」

「キョウは黙って。アケミさんの言う通りです」


 アルカは経緯を説明する。静香は納得しきれないようだが、アケミはしきりに頷いている。


「よくやったわ、アルカ」

「待て、アケミ。流石にやり過ぎだろう」

「わかってないわね、静香。ああいう輩は半端に許すと調子に乗るわ。二度と反抗しようとは思えないくらい、脳に刻み込ませなきゃ。その様子を見た他の隊員が、こんな目に合うくらいなら真面目に任務を行おう、と考えるようになればベストよ」


 アルカはアケミの言葉に共感する。キョウは特に何も考えていない様子で頷き、静香は不満げに口を開く。


「彼らを見せしめにするつもりか」

「静香。何かあってからでは遅いのよ」


 大きい声ではなかったが、ひどく実感の籠った声だった。その言葉を言った一瞬、アケミの表情に陰りが見えたのをアルカは見逃さなかった。

 アケミの過去に何があったかを知りたくはあったが、アルカとキョウの過去を聞かないでくれたので、アルカもそれに倣う。

 静香は何も言い返せず、痛々しそうな顔をして黙り込む。恐らく静香は知っているのだ。

 そんな暗くなった雰囲気を変えるように、キョウが話しかけてきた。


「んで、アルカ。戦ってみてどうだった。強かった?」

「弱かった。準備運動にもならなかった」

「なーんだ」


 弱いと聞いて興味を失ったキョウに、今度はアルカが質問する。


「三つ目の村はどうだった?」

「予想通り襲われた。途中からギリギリで避けたり、目を瞑って避けてたら終わってた」

「何やってんの」


 呆れて物が言えないが、強くなるために何でもするのがキョウらしい。静香も呆れたように首を振っていた。


「それ以外は特に何にもなかった」

「キョウが覚えていないだけでなく?」

「……その可能性は否めない」

「わたしの知る限り問題なかったわよ」


 目を逸らすキョウをアケミがフォローし、アルカは引き下がる。

 その後、明日の予定を確認してから二人は戻っていった。

 アルカ達も片付けや体を拭くなど、昨日と同じように過ごした。

 翌日、夜番で起きていたアルカは欠伸を噛み殺す。周囲が明るくなってきたくらいで、早起きの隊員がちらほらと現れ始めた。

 大きく伸びをしてからキョウが眠るテントに入る。寝起きの悪いキョウを何とか引っ張り出して朝食をとった。

 何事も無く出発準備を終え、静香達と合流した。

 アルカと静香を先頭に行軍が始まる。


「今日は三つ村を訪ねる予定でしたね」

「そうだ。今日はアルカを中心に命令を下してもらう」


 静香指導の下、アルカは指示を出していく。最初は緊張したものの、二つの村を回り、昼食をとる頃には、だいぶ肩の力が抜けてきた。

 三日目最後の村に近づき、待機の命令をして村に向かう。随伴する隊員は一日目と同じなので、気張らず話せるようになってきた。


「この村も襲ってくることはないはずだ」

「今日は襲われることが無さそうでよかったです」


 静香の言葉に、チェリンカはホッとしたように胸をなでおろした。一日目の襲撃がかなり堪えた様子だ。


「そういえばこの村に彼らは向かう予定でしたね」


 アルカはこの都市外調査訓練が延期する原因になった人達を思い出す。悪態をついていた彼らが、都市の外で生活するという現実を知ってどうなったか少し気になる。


「延期の原因になった移住者か」

「その人達がこの村にいるのですか?」

「届け出に書かれた予定ではそうなっていたはずです」

「その人達って襲ってきますか?」

「大丈夫だと思いますよ。都市で出会ったときは何もなかったですし」


 都市にいた分、死神の強さを良く知っているので、下手に手を出してくることはないと考えられる。そもそもこちらを襲う気があるならば、その時に攻撃を仕掛けているであろう。

 安心したような表情を見せるチェリンカを尻目に、視界が開けて畑が見えてきた。畑を通り過ぎて、村の入り口にたどり着くと案の定、村長と村人が農具を持って待ち構えていた。


「機動隊です。都市外移住者の村の状況確認に来ました」

「わかっています。村人の人数を伝えればよかったですね?」

「はい、よろしくお願いします」


 村長の発言をまとめながら、アルカはふと思ったことを聞く。


「ここに新しく来た移住者はどうしていますか?」


 何気ない質問であったが、村長や村人の反応は劇的だった。


「それを教える必要はないと思いますが」


 それまでも良い態度ではなかったが、あからさまに拒絶の姿勢になった。さすがの変化に、隊員達でさえも疑惑の視線を向ける。

 どう対処すべきか静香にアイコンタクトをとると、頷きが返ってくる。即ち、調べろ、ということだ。


「今、必要になりました。彼らがどこにいるか教えてもらえますか」


 質問ではなく、命令の意味合いを含んでいることは村長にも伝わったようで、数秒、奥歯を噛み締めてから、ゆっくりと口を開く。


「昨日、出ていった」

「止めなかったのですか?」

「止めたさ。でも、聞き入れられなかった」

「なぜ嘘をついたのですか?」

「……気に入らなければ平然と壊し、奪っていく死神を村に入れろと?ふざけるな!」


 息を荒げながら叫びのような怒声を放つ村長に、思わず息をのんだ。

 人がいなくなったとなれば、村人全員を確認するため村に立ち入ることになる。

 都市が、死神が嫌いで不自由な都市の外での生活をしているのに、自分達の聖域ともいえる村に死神が土足で踏み込もうとしているのだ。それが村長には許せない事なのはよく伝わった。


「……村には入りません」

「アルカ!」

「静香さん。ここで言い合いなどをしている余裕はありません。村長、本当のことを教えてください……私は耳がいいので、どこに誰がいるかくらいはわかります」


 村長は目を丸くする。死神が只人の意思を尊重したことが信じられないかのようにアルカをまじまじと見つめた。そして一度、深く息を吐いた。


「現在の村人は二八名。耳がいいならわかるだろう。出ていった者達は五名だ」

「どこに行ったかは……」

「知らない。そんなことを調べるより、自分達には畑の方が大事だ」


 アルカが音や気配で察知した人数と一致しており、行方不明者の行方も予想通りだったので素直に引き下がる。

 そして静香達の方に振り返った。


「村長の言っていることは本当のようです。静香さん、戻りましょう」

「全く。戻るぞ」


 苛立たし気に言う静香に、アルカは謝罪をする。しかし、静香は「アルカの言うことも一理ある」と言って怒らなかった。

 待機組と合流し、アケミ、キョウと情報共有が行われた。


「なるほどね……静香とアルカが捜索を担当して。隊員は信頼できるベテランを二チーム随伴させなさい。わたしとキョウは訓練を続行。静香は班長に連絡をして。適切な指示が来るわ」

「探索なら私と静香が担当した方が良くないか?」

「訓練を新人二人に丸投げするつもり?できるだろうけど、万一の事態に対応できる班員がいないのは問題よ」


 静香がヴィクターに連絡を入れている間、アケミが隊員に経緯の説明をする。


「村人に行方不明者が出たわ。静香とアルカが探索を担当して、その随伴として二チーム選ばれるから、二人の指示をよく聞くこと。残りはわたしとキョウと共に訓練を続行。ただし、今までとは違って、多少の逸脱行為にお目こぼしはないわ。命令違反者には、相応の処罰が下されるから。そのことを肝に銘じておきなさい」


 アケミの話を聞くにつれ、隊員達の顔が引き締まっていく。

 不要になる荷物をキョウに渡していると、ヴィクターへの連絡を終えた静香が戻って来た。随伴する隊員が呼ばれ、静香のもとに集まる。


「わたしたちは行くわね。静香、アルカ、任せたわよ」

「任された」

「頑張れよ、アルカ」

「キョウもね」


 アケミが先導し、キョウが最後尾を歩く。その後姿を見送り、アルカ達は行動に移る。

 静香が情報端末で地図を表示させた。


「今、我々はこの地点にいる。問題のあった村はここ。行軍ルートはこうだ。昨日出ていったならば、只人が移動できる範囲は村を中心に最大でこれぐらいだと予想できる」


 次々と地図に書き込んでいき、行方不明者がいると予想される範囲を絞ってゆく。


「意外と広いな。ローラー作戦か」


 そう言ったのは、何時ぞやアケミの年齢をバラそうとした隊員-ハイディ・クレセントだ。ハイディの言ったローラー作戦とは、各員の声が聞こえる程度離れ、横一列で探索するものだ。


「そうなる。私とアルカが両端で行う。見つからず、増援が来るまでは仮眠もほとんど無いと考えた方がいい。それを念頭に置いて、隊員はペース配分を考えてくれ。私達はそれに合わせる」

「了解だ」

「問題のあった村を中心に渦を描くようにローラー作戦を実行する。行くぞ」


 静香の号令の下、行方不明者の捜索が始まるのだった。


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