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死神少女は生きています  作者: 気晴
第一章 独立機動隊の新人
23/122

22 都市外調査訓練2

 昼食をとり、手早く片付けを済ませて休息地を出発する。


「災難だったな。変なのに絡まれて」

「はは……」


 出発してからしばらくして静香に同情を含んだ声音で慰められる。それを苦笑いでアルカは受け止めた。これから先、どんどん面倒事が増えそうな感じなので、せめてこの訓練が終わるまでは考えたくないのだ。


「その話は置いておきましょう……それで、そろそろ都市外移住者の村が近づいて来ましたけど」

「そうだな。この辺りで行軍を止めて、午前中に選別した隊員とともに村に訪問する」


 静香は停止の指示を出し、四名の隊員を呼び出す。アルカと静香が選別した隊員が各二人ずつ整列する。


「我々の六人で都市外移住者の村に訪問する。残りの隊員はここで待機だ」


 静香先導のもと、隊員を連れ立ってアルカは歩き出す。村に到着するまでの間、アルカは隊員達に注意事項を伝える。


「これから都市外移住者の村に行きますが、そこに住む人たちは死神を嫌悪しています。不快になることもあると思いますが、受け流してください。こちらが高圧的な態度をとると話が拗れる可能性があります。事務的に、素早く終わらせます」

「毎年訪ねているので、よくわかっていますよ」

「では後輩に指導をよろしくお願いしますね」


 休息地で男性用簡易トイレを設置していた隊員が真面目な顔でそう言ったので、顔に緊張が出ている新人隊員の指導を頼む。

 アルカ自身も初めてのことなので、学ぶことが多いのだ。できる限り自分のことに集中したい。

 アルカの立場を理解しているのか、気前よく請け負ってくれたので、遠慮なく任せることにした。


「そろそろ到着するぞ」


 木々が減り、視界が開けて畑が見えてきた。畑仕事をしている人が、こちらの姿を見た途端、村の方に走って行くと同時に発せられた静香の言葉に、各員の顔が引き締まる。

 畑を通りすぎて村の入り口に到着した。村の入り口には、村長と思しき人を中心に人だかりができていた。それぞれの手には農具や先を尖らせただけの木の棒などが握られている。


「機動隊だ。都市外移住者の村の状況確認に来た」

「わかった。だが……」

「ここで要件が済むなら、我々は村の中に入るつもりはない。」


 暫定村長は難しい顔で頷く。

そして話を早く終わらせたいのか、要件を言うよう急かした。


「では、前回の訪問から人口の変化や、行方不明がいないか聞きたい」

「前からは三人死んだ。全員、念のため脳を破壊した後、火葬した。行方不明者は出ておらん。新しく入った者もいない」


 つらつらと述べていく村長達を、アルカは改めてよく見る。第三区画に住んでいる人よりみずぼらしい服を着ていて、痩せている。その誰もがこちらに恨みの籠った目を向けている。

 次は周囲を見回してみる。掘っ立て小屋のような、台風で吹き飛んでしまいそうな家が並んでいる。そして村を囲むように柵が設置されていた。これは不死者からの守りではなく、熊などの野生動物からの守りが目的である。


「最後になるが、近くに新しく村ができたり、ここの村人以外の人の目撃情報はないな?」


村長は首を回して村人に視線を送るが、誰もが首を横に振る。


「ないようだな。協力感謝する」


 最後にお礼を述べて、静香は踵を返す。それに倣って、アルカ達も村を後にする。スタスタと早足で歩き、木々で村が見えなくなってからようやく一息つく。


「はぁ、疲れました」


 新人隊員が深く息を吐いた。慣れない行軍に加えて、村人からの嫌悪の視線、緊迫した空気から解放されてどっと疲れが出たようだ。


「それにしても、アルカさんは疲れていないですね」

「毎日のように見回りで第三区画に行っていますし、任務もこなしていますから」


 多少は疲れたが、何より慣れているのも大きい。何の気なしに言ったアルカの言葉に、新人隊員は尊敬の目を向ける。


「さすが訓練生時代の最優秀者ですね。この短期間でさらに差ができました。私も頑張らなければ」


 純粋な尊敬の念に、思わずむず痒くなる。そんなアルカの様子を笑いながら、静香が新人隊員に向けて声を掛ける。


「アルカは優秀だからな。自分のペースで頑張ればいい。無理することはないぞ」

「はい!」


 静香のアドバイスに元気よく返事をする。それを確認してから、注意点を続けて言う。


「この村の村長は死神嫌いだが、機動隊の役割を理解している。不死者を発生がどれほど危険かも理解しているからこそ話が通じた。だが、次に向かう村はそうじゃない」

「どんなところが違うのですか」

「確実に罵倒は飛んでくる。下手すると小競り合いが起きる」


 小競り合いと言っても、一方的に仕掛けてくる攻撃をいなすだけだそうだ。


「話を聞ければいいが、ダメなら無理やりにでも聞き出すしかない。その時はケガをさせないように注意することだ」


 都市外でのケガは生死に関わる。手加減が難しい場合は、アルカ達班員が対処することになる。


「戦闘訓練で習う通りにこなせば問題ない。さて、そろそろ合流するぞ。考えるのは後にしろ」


 待機していた機動隊と合流し、次の村目指して行軍を再開する。二時間ほど進み停止した。


「次の村が近い。村に連れていく隊員は先ほどと同じだ。残りの隊員はこの場で待機しろ」


 静香は命令を下し、前の村を訪問したメンバーを集めて行動を始める。木々の間を進むと、前の村と同じように畑に出た。畑で作業している人がこちらに気づき、村に走って行く。


「さっきも言ったが、この村ではいつ攻撃されるかわからない。気を抜くな」


 静香の言葉に、全員が口を引き結んで頷く。緊張感に包まれつつ、村の入り口に向かう。

 この村は前のものより小さいぐらいで、粗末な小屋とそれを囲むように柵が設置されていることは同じだった。入り口には村長らしき人と村人達が農具や槍モドキなどを手にしているのも同じだ。

 違うところは、農具などをただ持つのではなく、既に構えていること、そして殺気を隠すことなく、今にも襲ってきそうなことだ。

 彼らと少し距離を置いて静香は立ち止まる。農具を振り回しても届かないくらいの距離だ。


「帰れ。このケモノ共が」


 吐き捨てるような口調で罵倒が飛んできた。


「要件を終えたらすぐ帰る」

「ケモノ共に話すことはない」

「そちらになくとも、こちらにはある」

「だからどうした」


 取り付く島もない様子で、ひたすらに拒む。静香は淡々と言葉を発する。

 押し問答が続いていき、ついに耐え切れなくなったように農具を構えた村人達が前に出てきた。


「消えろ、クソ野郎」

「ぶっ殺してやる」

「がん細胞のくせに偉そうに」

「お前らなんて死んでしまえ」


 口々に呪詛を吐きながら、アルカ達に襲い掛かって来た。

アルカと静香は難なくそれらを避け、いなしていく。隊員たちの方を見ると、何度もこの訓練をこなしている隊員は問題なさそうだが、新人隊員は腰が引けている。戦闘訓練は行っていても、本物の殺気に触れたことが無く、第三区画にも行ったことが無いのだろう。その上、ケガをさせてはいけないため、苦戦しているようだ。

そんな新人隊員は次第に押され始めた。他の隊員は自分のことで手一杯で、カバーに回ることができていない。そして新人隊員が体勢を崩したところに、村人が鍬を振り下ろす。恐怖からか顔を逸らし目を瞑った新人隊員に、しかしながら、予想した未来は来なかった。

何時ぞやキョウがやったように、鍬の柄を握っているアルカがいた。

男は突然現れたように見えたアルカに驚く。そして口を開き何か言おうとした瞬間、手の中の感触が無いことに気が付いた。アルカが現れた驚きで一瞬柄を握る力が緩んだ瞬間、アルカが引き抜いたのだ。

 鍬を手にしたアルカに、村人たちが襲い掛かる。そのすべてを華麗に受け流し、次第に疲れて村人は襲って来なくなる。

 結局、村の入り口にいた村長以外の村人が疲れきるまで続いた。

 アルカが鍬を持ち主に返すのを見届けて、静香は村長に問いかける。


「まだやるか?これ以上は強権を使うことになる。加えて、毎回襲ってくるため、都市に強制送還することも検討している」


 その言葉に村長は奥歯を噛み締める。その目は憎悪に歪んでいた。死神を困らせるなら襲い掛かるような人達だが、強制送還されて都市に住むのは嫌なようだ。素直に要件を話すか、強制送還されて都市に住むか、どちらを取るべきか悩んでいるようにも見える。

 アルカはそんな村長の様子を窺っていると、あることに気づいた。木製と思しき神意教の刻印を首からぶら下げているのだ。同時に、襲ってきた村人に死神をがん細胞と呼んでいたことを思い出す。

 もしかしてこの村は熱心な神意教の教徒が多いのではないのだろうか。そう考え、村長に近づく。

 黙ったままで回答をしない村長はいきなり正面に来たアルカに警戒を顕わにする。そんな村長に静香達には見えないよう、金の刻印をそっと見せる。

 村長は目を見開く。刻印とアルカを交互に見て、そして諦めたように話し出した。

 急なことに隊員も村人も驚くが、構わず村長は話し続けた。

 村長の話を聞きつつ、足りないところは質問をしてまとめる。聞きたいことはすべて聞けたところで振り返る。そこには唖然とした表情を浮かべる隊員達と、珍しく眉をひそめた静香がいた。


「要件は聞き終わりました」

「そうか、戻るぞ」


 静香は何か言いたそうな顔をして、しかし何も聞かず退却の命令を出した。村が木々で見えなくなると、新人隊員がアルカに質問してきた。


「いったい何をしたんですか?急に話し始めましたけど」


 馬鹿正直に、金の刻印を見せました、なんて言えず、ヴィクターからも神意教の教徒を名乗るなと言われているため、誤魔化すことにした。


「班長から口外してはいけないと命令されているので」

「そうですか……わかりました」


 命令と聞いて素直に引き下がったため、アルカは顔には出さないが内心ホッとする。


「あー、あとこのことは口外しないでください。下手をすると班長に処罰されます」


 変に噂でも広がると厄介なので、ヴィクターの名前も出して命令しておく。隊員達は真面目な顔になって頷いた。

 これで面倒事にはならないだろう、とアルカは思う。ただ、納得していない表情の静香が気になった。これまでの静香の性格を考えると、必ず聞いてくると思ったのだ。

 身構えていたが、アルカの予想は外れて合流するまで何も聞かれず、そのまま野営地に向かうのだった。


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