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死神少女は生きています  作者: 気晴
第一章 独立機動隊の新人
19/122

18 打ち合わせ

 エドモント神官との対面を終えた翌日、アルカとキョウは本部の会議室にいた。理由は都市外調査訓練の打ち合わせのためである。会議室にはアルカ達のほかに、静香とアケミが座っている。


「静香さん、アケミさん、よろしくお願いします」

「そんなに気張らなくていいよ。アルカ、キョウ」

「そうよ。同じ三班の先輩に何でも聞いてね」


 アルカの挨拶に、静香はフッと笑みを浮かべながら、アケミは優しく笑いながら答える。


「ありがとうございます。それで、都市外調査訓練のことなのですけど……」

「あぁ、副班長から話を聞いている。いきなり班員になったから、勝手がわからないことばかりだろうから、そこから話を詰めていこう」


 静香はそう言って、情報端末を操作する。アルカとキョウに資料が送られてきた。パッと見ただけでも文字が多く、かなり詳しく書いてありそうだ。

ふとアルカはキョウの方をちらりと見ると目が合った。キョウはどうやら資料から目を逸らしていたようだ。


「既に予定は知っているだろう?今送ったのは各訓練の注意事項だ。確認していくぞ」


 行軍は東門から始まり、反時計回りに進んで西門を目指すことになっている。行軍の途中で都市外移住者の村を見て回り、人数や村の状況を確認し適宜対応していくことも訓練の一環のようだ。


「行軍での注意点は、速度を機動隊員のペースに合わせることよ。わたし達班員は身体能力が高いから、彼らを置いていかないようにね」

「昔、アケミは機動隊員を置いていったからな」


 班員が静香とアケミの二人だけで、初めて都市外調査訓練に参加した年、野営での度重なる覗きにキレたアケミは、覗き魔を全員叩きのめした後、即座に一人で訓練を終えたらしい。


「あの時は大変だった。私一人で指揮をしつつ、今までの訓練にはいなかった負傷者の管理もしたのだからな」

「うふふ。若気の至りよ。次は完璧にするわ」


 一体何を完璧にするのだろうか、という疑問を飲み込み、アケミから黒いオーラが洩れているような気がするのを、アルカは見て見ぬふりをする。アルカの勘が触れてはいけないと警鐘を鳴らしているからだ。


「というわけで、野営の際は不埒な輩に注意することね。見せしめに二、三人殴ってもいいわ」

「殴るのは得意だ。でもアタシを覗くようなヤツがいるのか?」


 アケミの物騒な言葉に対するキョウの返答に、アケミは目を見開く。


「何を言っているの!?キョウはとっても美人でスタイルいいから、寄ってくる男なんてたくさんいるわよ」

「はーん?」


 キョウは理解していそうで理解していない、曖昧な声を出す。

 そんなキョウを見て、アケミは呆れたような顔になり、代わりにアルカの方を向いた。


「アルカ、キョウの分も警戒してあげてね。もちろんアルカも可愛いから気をつけなさいよ」


 アケミの忠告を聞き、アルカはコクコクと頷く。

 すると三人のやり取りを見ていた静香がため息を吐く。


「アケミ、私達も同行するのだ。そんなことにはならないと思うぞ」

「あら、ずっとわたし達が付いているわけではないわ。大事なのは普段の心構えよ」


 聞くところによると、今でも機動隊員の中でその名は轟いていて、アケミには手出し無用と言われており、アケミ達が同行するのなら、覗きなどは絶対に起きないそうだ。

 心強い先輩のおかげで、訓練中は少し楽になりそうだ、とアルカは思う。なにせキョウは自分の体に無頓着すぎるのだ。キョウのナイスボディに引き寄せられる男など、腐るほどいるのは簡単に予測ができる。それを自分一人で対処しなければならないのは、正直、想像するだけでげんなりするくらいだ。

 アケミが話をしていると、静香が一度咳払いをした。


「さて、話を戻すが、行軍ルートや野営地などは既に決まっていて、毎年同じようなものになるから、資料を読めばわかる。行軍中、我々班員は指揮を執る立場であり、主な仕事は時間管理と機動隊員の管理になる」


 昨日大護に渡された資料には、都市周囲の地図が載っており、野営地が丸、都市外移住者の村が三角、それを行軍ルートが線で繋ぐように記載されている。丸が三つあることから行軍は三泊四日になることが分かる。


「野営地に到着する時間が遅いと日が落ちて暗くなり、野営の準備に時間がかかる。翌日以降の日程に支障を出さないためにも、時間管理は必須になってくる」


 入隊して数年の隊員は未だ不慣れな者が多いため、予定よりも時間がかかると考えた方がいい、と静香は付け足す。


「かといって野営地に早く到着してしまうと、今度は機動隊員が好き勝手に行動し始める。彼らが勝手な行動をとらないように見ておかなければならない」


 昔、野営地に早く到着して自由時間が増えた際、数名の機動隊員が近くの都市外移住者の村で暴行をした事があった。その時は機動隊の特権で事件にはならなかったものの、噂は広がり、ただでさえ歓迎されない村への訪問が、より険悪なものになってしまったそうだ。


「そんなに大変なら行かなければいいのに」

「行かなくていいならそうしたいわ」


 キョウの一言に、静香とアケミが苦笑いを浮かべる。


「都市外移住者を把握しておくことは機動隊の仕事よ。把握を怠っていつの間にか都市外移住者の村が丸々不死者になっていた、なんてことにはなりたくないでしょ」


 普通は都市外移住者の村に死神がいることはないため、一度不死者が発生してしまうと、加速度的に被害が拡大していく。その場合、一番苦労するのは紛れもなく機動隊である。そうならないために事前に対策をしているのだ。


「次に訪問の時の注意点だが、もともと都市外移住者の村は、都市での死神の横暴に嫌気がさした只人が作ったものだ。だから訪問する時は警戒を怠らないこと。そして、暴言などが必ずあるが、関わらず無視することだ」

「あと、都市外移住者の村を訪問する時、問題を起こしそうな隊員がいたら、必ず外すことよ。理由はもうわかるわよね?」


 アケミの言葉に、アルカとキョウは頷く。村への訪問に必要以上の大人数で行くと、ただでさえ高い警戒心が跳ね上がり、必要事項の確認だけでも大変になるうえ、下手に問題を起こされたら、苦労するのは自分達だ。わざわざ面倒事に発展させるつもりはない。


「それと、稀に地図に載っていない都市外移住者の村がある。その場合、必ず調査し確認をとることだ」

「機動隊の知らないところで不死者が発生することを防ぐためですね?」

「正解だ」


 アルカの答えに静香は満足そうな顔になる。


「日程に遅れが出たとしても必ず調査をしなければならない。といっても、実際は少人数の部隊を作り、他は予定通り行軍をすることになる。この時、素早く人選をするためにも、機動隊員の人柄をよく見ておくように」

「はい」

「うむ。大まかな注意事項としてはこれくらいか」


 ずっと話を聞いているだけで、頭がパンクしそうだったキョウは、話の終わりが見えて、ご機嫌に尻尾が揺れ始める。そんなキョウの淡い希望はすぐに塗りつぶされた。


「何言っているの。まだ大事なことを言っていないじゃない」


 キョウの尻尾がだらりと垂れ下がり、死んだような目になるのを尻目に、アケミは続ける。


「いい、アルカ?最初も言ったけど不埒な輩が出てこないとも限らないわ。お手洗いの時は特にね。絶対にチームで行動して、どちらかが常に警戒するのよ。もし覗き魔がいたら、その場で捕まえて目を抉るなりしていいから。中途半端に許すと懲りずに何度もするような人もいるから、絶対にこんな目にあいたくないと思わせるくらい強い制裁をするべきよ。そうすると後々がとても楽になるわ。指示も素直に素早く聞くようになるから。あと、機動隊員にも女性がいるから、その子たちも守るのよ。班員として部下たる隊員を守るのは当然だからね。それから……」

「アケミ、二人が困惑しているぞ」


 アケミの怒涛のトークに、アルカの尻尾は垂れ下がり、キョウにいたっては死んだ魚の方がきれいな目をしていると思うくらい、目が淀んでいる。

 アケミはまだ言いたいことがあるのか、頬に手を当てながら不満げにしていたが、静香の、訓練時に私達が行動で示せばいい。口だけでは理解しきれないだろう、という言葉に説得されて、口を閉ざした。

 アケミの勢いに圧倒されていた二人は、あからさまに安堵の表情を浮かべる。


「ずっと話を聞くばかりで飽きただろう?次は実習といこうか」


 静香はキョウの方を見てそう言った。キョウは首を縦に振り、肯定の意を示す。


「実習って何をするのですか?」

「野営の練習だな。テントを設営したり、火をおこしたりする。慣れないと大変だし、隊員に質問されることもある。実際にやり方を経験しておいた方がいい」


 静香の説明に納得したアルカだが、問題もある。


「あの、大護さんと見回りに行かなければならないのですが……」

「問題ない。事前に許可はとってある」


 なんと、今日一日、アルカとキョウは静香達について実習を行うことは決定していた。備品の関係もあるため、昨日のうちに許可を取っていたそうだ。


「というわけで、早速行きましょうか」


 静香達に連れられ、魔力自動車に乗り込み、本部を出発する。車両には既に荷物が積みこまれており、荷台にはいろいろなものが積み込まれていた。

 車両はどんどん進んでいき、第一防壁を通り過ぎ、そのまままっすぐ進んでゆく。


「そういえば、どこに向かっているのですか」

「野営地……と言いたいとこだけど、車両に乗って行くところではないからな。機動隊の屋外練習場さ」


 野営地は舗装された道路がなく、ぬかるみや地面の凹凸、木々などがあるため魔力自動車で乗り入れるのは難しいらしい。


「屋外練習場なんてあったんですね」

「第一区画に屋内訓練場があるから普段はほとんど使われていない。班長が言うには無駄の塊だそうだ」


 そもそも機動隊は屋外で訓練する意味があまりない。不死者は元々が人間で、さらに人間に近寄ってくるため、どうしても屋内や人工物が多い場所で戦闘することが多い。そうなると、切り開かれた広い地面の上での訓練より、室内や狭い廊下などを想定した第一区画の屋内訓練場の方が経験になるのだ。


「使わないのに作るとか勿体ないな」

「無能な政治家共が自身の功績欲しさに無茶苦茶するのさ。さて、そろそろ都市から出るぞ」


 ずいぶんと辛辣な評価をする静香に、二人は目を丸くする。今まで接した限りでは、そのような言葉を簡単に言う人とは思えなかったからだ。どうやら政治家はよほど無能をさらさしていると考えられる。

 目の前には既に第三区画の端が見えていた。門にいる機動隊員に情報端末を見せ、都市の外に出る。


「どうだ、都市を初めて出た感想は?」


 静香の言葉に、アルカは一瞬、言葉に詰まる。出身を伝えて根掘り葉掘り聞かれると、あまり思い出したくない記憶を遡る必要があるからだ。


「第三区画の畑とそこまで変わらないな」


 アルカが言葉に詰まった次の瞬間には、キョウが感想を述べていた。


「ふふっ、そう言っていられるのも今の内だけよ?」


 アケミはニコニコ笑っている。それを横目に、アルカはキョウにお礼のアイコンタクトを送った。

 今度キョウに何か奢ろうとアルカは思い、何がいいか思案していると、急に車内がガタガタと揺れ始めた。

どんどんひどくなる揺れに、キョウはたまらず声を上げる。


「な、なんでこんな揺れるの!?」

「ついさっき揺れるって言ったじゃない」

「揺れるとは言っていない!」

「あら、そうだったかしら」


 慌てふためくキョウのアルカとキョウを見て、アケミは愉快そうに笑っている。そんな中、静香は揺れる理由を説明してくれた。


「舗装された道路から、砂利道になったんだよ。行軍はこれよりもっとひどい道を通るから、車両は入りづらいし、下手すると壊れる」


 行軍の速度を合わせると聞いた時には歩くだけなのに何を、と思ったが、これなら納得がいく。歩き慣れていないと、どうしても速度に違いが出てしまうし、何より疲れる。

 ガタガタ道に入ってしばらく進むと、にわかに揺れが収まる。気が付くと前方に大きな建物が迫っていた。


「ここが訓練場よ。今回は使わないけど、あの建物は宿舎とか色々入っているわ」

「想像以上に立派ですね。使わないのはもったいないです」

「言ったじゃない、無駄の塊だって」


 アケミの言う通り、ほとんど使わない建物にこれだけ資材や時間、お金をかけるならば、別のところに使ってほしいと思う。

 そんな建物の隣にある駐車場に車両は止まるのだった。



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