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死神少女は生きています  作者: 気晴
第一章 独立機動隊の新人
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12 班員と隊員

 待機部屋には、複雑そうな顔をした機動隊員達と、片手で顔を覆っている大護、明らかに不機嫌なヴィクターがいた。


「アルカとキョウの二人に関しては、他言無用だ。もし噂でも流れたら、関係の有無なく、三班班長ヴィクター・オルトリッチの権限で処罰する。いいな」


 部屋によく響く低い声で、ヴィクターは宣言した。続いて、次の聴取の準備をするように指示を出し、機動隊員が彰浩を連れて出ていった。

 部屋に残ったのはアルカ、キョウ、ヴィクター、大護の四人である。アルカとキョウの前に、仁王立ちするようにヴィクターがいる。


「自分たちが何をしたかわかっているのか」


 二人は揃って首を傾げる。何か悪いことをしたのかがわからない。むしろ聞き出せたではないか、と思う。なので、そう言おうとしたところで、大護が横から話し始める。


「班長、二人は元都市外移住者です。それ故に、都市の常識に疎いところが数多くあります」

「そんな報告は受けてないが」

「今朝、私も知りました」


 大護が、今朝のやり取りを伝える。

ヴィクターの眉間の皺が増えた。そしてため息を一つ。


「なるほど、優秀だから気にしていなかったが、常識が欠如していたのか。ならば今、怒られている理由はわからないだろう」

「すいません」

「謝罪は必要ない。部下を正しく理解し、適切に導くのが上司なのだ。それができていない私と大護に責任がある」


 ヴィクターの言葉に、二人は尊敬の念を覚える。同時に、内心、怖がっていてすいませんでした、と謝った。


「さて、話を戻すが、私は君達の迂闊さに怒っているのだ」

「迂闊さ、ですか」


 わかっていないアルカとキョウに言い聞かせるように、ヴィクターは話す。


「死神と神意教の仲が険悪なのは知っているな」

「はい。捜査妨害などもあると聞きました」


 大護と話していた時、聞いた記憶がある。


「そうだ。神意教が死神を嫌っているように、死神も神意教を嫌っている。特に機動隊の中でも、進化種アドバンサスと名乗る集団がいるのだ」

「進化種?」

「死神は人類の進化した姿であり、死神こそが物事の中心となり、力なき人は手足となるべきだ、と主張する過激な集団だ」


 進化種は死神の中でも、異常なほどの選民思想を持っているため、神意教というだけで、何をしてくるかわからないらしい。

 そんな危険な集団が近くにいるかもしれないのに、堂々と神意教の教徒と名乗ることが、どれほど危ないことなのか、アルカとキョウは理解してなかったのだ。


「これから先、不用意に神意教の教徒を名乗らないように。危険すぎる」

「はい」


 自分達のしたことの危険性をしっかりと理解したうえで頷く。


「……常識に疎いのならば、機動隊員と班員の違いも分かっていないのではないか?」

「班員の方が上位の特権を持っている、ということなら知っています」

「その通りだが、その意味を理解はできていないようだな。それに、特権以外に明確な違いもある」


 班員の特権については、相手が死神だろうと、班員の方が上位の特権を持っているため、班員を前にすれば、大半は口を割るのだ。まして元機動隊員ならば、そのことをよく理解しているため、簡単に証言を得ることが出来ると予想していたので、今回は事情聴取の経験を積ませるにはちょうど良いと考えていたのだ。

 アルカが感じていた違和感の正体が判明し、納得の表情をする。


「そして、特権以外の明確な違いは……」


 そこまで言いかけたところで、取調室に近づく気配を感じて、ヴィクターは口を噤む。

すぐに扉が開き、機動隊員が未来科学技術工作研究所の社長を連れてきた。手早く取り調べの準備が完了する。


「取り調べは班員だけで行う。他の者は一度、退出せよ」


 ヴィクターの言葉に従い、部屋には班員の四人だけになる。


「これならば何を言っても問題あるまい。アルカ、キョウ。現状、君たちが頼りだ。任せたぞ」


 ヴィクターの激励を受けて、取り調べを始める。

 案の定、最初は取り付く島もなかったが、彰浩の刻印を見せると、態度が変わった。アルカ達が金の刻印を持つ神意教の教徒だと明かすと、しばらく目を瞑ってから、ゆっくりと口を開いた。


「機動隊の死神に金の刻印を持つ教徒がいるとは思いませんでした。彼らに情報を渡すくらいなら死んだほうがマシですが、あなた方になら話してもいいでしょう」


 彼はそう言って、事件の内容を話し始めた。事の発端は第三区画の電力不足だそうだ。北部戦役で家を失った人が大量に流れてきたため、第三区画の人口が大きく増えたのだ。当時は問題が出てこなかったが、時代が進むにつれ、爆発的に人口が増加し、必然的に消費電力は増加する。同時に娯楽などの発達により、第二区画での電力消費が増えたのだ。

 その結果、電力不足が表面化した。これに都市上層部は、第三区画の電力量を減らすことで対応したのだ。第三区画は減った分を補うため、魔力自動車、もとい内部に組み込まれている魔動機関を使わざる負えない状態になっているらしい。


「ちょっと待ってください。魔動機関は魔力を電気に変換します。第三区画にそんなにたくさんの死神がいるのですか?」


 普通の死神ならば、公共施設である、魔力変換所を利用するのだ。魔力変換量に応じて給金も発生するため、頻繁に利用されている。

 そんな中、わざわざ第三区画に足を運ぶ死神が多いとは考えられない。


「……機動隊の思っている以上に、神意教には死神の教徒がいるのですよ」


 では続けますね、と言って彼は話し出す。

 魔力自動車の窃盗については、だいぶ前から行っていたらしい。ここ数か月で極端に増えているのは、相手側の要求で、取引量が増えたからであること。

 取引先には、アングラな組織らしきものも複数あるが、深入りは禁物という彰浩の助言に従い、調べてはいないこと。

 魔力自動車の受け渡しには、互いに部下を使っていたため、顔は知らないこと。

 聞き出すべきことを聞けたので、アルカは最後に質問をする。


「なぜ私達には事件について教えてくれたのですか」


 機動隊の死神にすら屈することなく、黙秘を貫いていたのに、神意教の教徒と分かった途端、素直に自白したのだ。アルカにとって、それが不思議でならなかったのだ。

 彼は少しの間を開けて、静かに口を開いた。


「機動隊でありながら金の刻印を持つ死神ならば、神意教に、力を持たない人に無体な真似はしないでしょう。それを信じただけです」


 その発言から、神意教にとって金の刻印はとても重要な意味を持つことが伝わってくる。

 取り調べを終え、機動隊員たちが彼を連行していく姿を見送り、本部に戻る。そのまま班長室で話をすることになった。

 最初に口を開いたのは、いつもより多く眉間の皺を作りだしているヴィクターだ。


「まず取り調べは、よくやってくれた。情報を聞き出せたのは大きい。この事件の解決に大きく近づいた」


 自分たちの至らなさを叱責されると思っていたアルカとキョウは、予想外の言葉に、何と反応すべきかわからず、顔を見合わせる。その様子を面白がるように、笑顔の大護が声を掛けてくる。


「あなた達はまだまだ直すべきところ、知るべきことが多くあります。同時に、この事件で大きな功績を立てました。叱るだけでは人は成長しません。褒めるべきところはしっかり褒めるのも上司の責務ですから。付け加えるなら、班長は褒めるのがとても下手なのです」

「余計なことを言うな、大護」


 大護の余計な一言で、場の雰囲気が和み、アルカ達二人は自然と笑みがこぼれる。ヴィクターは一度、大護を睨んだ後、咳払いをして話を進める。


「班員の特権と、それに付随する責任、都市で生きていく上での常識については少しずつ学んでいくように。大護が逐次サポートする」

「お任せください」


 大護は胸を張って返事をする。


「では、取調室で話損ねた班員と機動隊員の違いについて説明する」


 その言葉を聞いて、アルカとキョウは背筋を伸ばした。


「班員と機動隊員、君たちは何が違うと思う?」

「……強さですか?」


 ヴィクターの質問に、キョウは恐る恐る答える。訓練生時代、まともに戦える相手が教官含め全くいなかった。それに比べ、三班は全員がまともに打ち合うことが出来、まして勝てないこともあるのだ。


「確かにそれもある。だが明確な違いは他にある。アルカ、君は何だと思う?」


 アルカは考える。単純な強さではない明確な違いを。

一つだけ心当たりがあった。自身のトラウマとなっているあの“力”だ。


「不思議な力だと思います」


 アルカの答えに、ヴィクターは目を細める。


「不思議な力か……。正解だ。正式には特異技能スキルと呼ばれている、人知を超えた力だ」

「班長も使えるのですか?」

「あぁ、当然使える」


 どの班員でも必ず使える力で、同じ特異技能は存在しておらず、同じように見えても少し違っているそうだ。

 特異技能を持つ、もしくは芽生える予兆があると、身体能力が向上する。だからキョウの言った強さの違いも間違いではないのだ。

特異技能に関しては秘匿事項で、むやみに口外してはならないが、班員として活動する以上、必ず使う場面があるので、機動隊員には公然の秘密となっている。部外者に伝えなければいいそうだ。


「特異技能の報告義務は存在しないため、誰がどんな特異技能を持っているか、普通は知らない」


 個人的に教えることはできるため、信頼できる間柄ならば他人の特異技能を知ることがあるという。

ちなみにヴィクターはアルカとキョウ以外の三班の特異技能はすべて知っているらしい。

そこまで聞いたところで、アルカはタイミングを見計らい、口を開く。


「あの、班長。実は……」

「まだ信頼関係を築き上げてはいないのだ。君たちの特異技能を話す必要は……」

「違うんです」


 アルカの否定の言葉に、ヴィクターは口を噤む。そしてアルカを真っ直ぐに見つめた。何の感情も映さない瞳に、思わずアルカは怯む。


「アルカ」


 キョウが名前を呼ぶ。


「アタシが言おうか?」

「……いい。これは私が伝えるべき事だから」

「そうか」


 アルカは顔を上げ、真っ直ぐにヴィクターを見つめ返す。ヴィクターはただ静かにアルカが話すのを待っていた。


「私は特異技能が使えません」

「……どういうことだ?」


 ヴィクターの眉間に皺が増える。

 アルカは自分たちの過去を話す。元都市外移住者で、親に捨てられ神意教の神官に育てられたこと。住んでいた村で暴動が起きて神官が村人に殺され、自分たちも殺されかけたこと。その村人全員を、アルカの特異技能で消し飛ばしたこと。

 アルカが話し終えると、ヴィクターはこめかみを押さえ、ゆっくりと息を吐いた。


「なるほど。特異技能は芽生えているが、過去のトラウマで使えない、そういうことだな」

「……そうです」

「気に病む必要はない。聞く限り、大の大人でもトラウマになりそうな過去だ。幼い子供が体験するものではない。ゆっくりと克服していけばいい」

「はい」

「アルカはともかく、キョウは使えるのだな」

「使えます」

「よろしい。では君たちの過去の話はこれで終わりだ。これ以上は辛かろう」


 アルカの方をちらりと見て、ヴィクターは退出を促す。それに従い二人は班長室を後にした。



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