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呪われた姉妹の恋  作者: 鶴
2/2

アイオライト公爵家の姉

「久しぶりだな、シトリン。」


「そうですわね。」


「…。」



暖かな木漏れ日が差し込むアイオライト公爵家自慢のガゼボ。

穏やかな風が吹き、ついうたた寝してしまう事で有名な程に心地よいはずのガゼボには、不穏な緊張感が流れる。


向かい合って座る一組の男女は数か月に一度、このガゼボやアイオライト公爵家の客間、カーネリアン伯爵家のサンルーム等でのお茶会を行っている。

そろそろお茶会を初めても二桁の年数が経過しているというのに、二人に流れる空気に変化はなく、

常に気が重くなるような緊張感に包まれていた。


「…先日の茶会から日が開いてしまったことを詫びよう。」


「結構ですわ。スピネル様がお忙しいことは存じております。茶会も回数が多ければ良いということではありませんもの。」


「…君はまたそのような言い方をするのだな。私との親交は意味がない、というのか。」


「そのような事、申しておりませんわ。」


「他にどういう意味があるのか知りたいものだな…。」



シトリン・アイオライト公爵令嬢と、スピネル・カーネリアン伯爵令息。

幼き頃に政略にて結ばれた婚約者同士の間は冷めたままだ。


名前の通りの黄金のように輝く瞳を伏せ、シトリンはばれないように小さくため息をついたつもりだが、目の前に座る男にばれないわけもない。


苛立ちを隠すこともなくスピネルは舌打ちを打つと、自分の視界からシトリンを遮断する。


冷え切った関係性、それは自分が悪いとシトリンは理解している。

スピネルが笑みを浮かべても、自分の顔は眉に皺をよせるだけで微笑むことはできない。

話題ふってもらっても、好物を用意されても、贈り物を手渡されても、微笑むことはおろか簡単な受け答えや嫌味しか返すことができない。


身分に胡坐をかく性悪の娘、スピネルにそう思われていることはシトリンは理解している。

そう思われて当然の事をしているのだ。


これから夫婦となり、共に領地を治め国に尽くし子供を育てる。そのためには信頼関係をきづいていく必要があるのに、自分はその土台すら作れない。


心から申し訳ないと思う。身分が上の自分が両親に婚約を解消して欲しいと頼めば良いことも理解している。こんな自分にも婚約者として礼儀を尽くしてくれる、心優しいスピネルを開放してあげるべきだとわかっているのに、実行できない性根が曲がった女なのだと。シトリンは自分自身を評価する。


「スピネル様、何でも最近ご友人が増えたそうですわね。」


「婚約者の友人関係にも口を出すのか。」


「婚約者だからですわ。問題ないご友人であればこのような事申しませぬ。」


「何か問題が?」


「…新しいご友人は、女性の方、とか…?」


「はぁ。異性の友人如きで問い詰められるのか。窮屈だな。」



疲れたように目の前でため息をつく姿に、シトリンは泣きたくなる。

しかし、シトリンの表情は動かないし、声のトーンが上がるわけでも、口調が柔らかくなることもない。


「…ッ。お相手によりますわ。そのお方はあまり良い噂は聞かないものですから。」


「他人の噂を信じ憶測で非難するのか。問題ない。」


「噂が恐ろしいことをご存じでしょう。今一度節度あるご友人関係をお願いしたいものですわね。」


「君は、長年の婚約者を信じる気は無いわけだな。」


信じたいし信じてる。それでもシトリンの耳に届く内容は不安な煽るものばかりだ。


シトリンはスピネルとは別の学園へ通っているため、学園内でのスピネルの様子はわからない。

純粋な善意なのか、曲がった悪意なのか判断がつかないが、シトリン友達や知り合いが口々に様々な事を教えてくれる。


それは、学園内ではランチタイムや教室間の移動などに限らずずっと一緒にいるとか、休日に城下町ではしゃぐ姿を見たとか。


色とりどりのバラの花束や、美しい銀刺繍が刺された可愛いリボンを贈っていたとか、普段着と呼ぶにはあまりにも豪華な作りのマーメイドドレスのようなワンピースを贈っていたとか、一つの教科書を頬がくっついてしまいそうな程に近い距離で見ていたとか。彼女と話すスピネルは始終楽しそうに笑っている、とか。


自業自得な自分が悪いのは重々承知の上で、シトリンは嫉妬しているのだ。

花束もリボンもドレスも、宝石で彩られた装飾品を貰ったこともある。

それでも、自分とスピネルの冷えた関係を考えれば、スピネルの気持ちが誰に向くかなんて考える必要もないだろう。


彼女との噂で唯一救いなのか、いずれも彼と二人きりの空間ではないということくらいか。

それも、もう少しで消えてしまいそうな小さな救いだが。


「そろそろ時間かな。俺は忙しい。君も分かっているようだし、これで失礼するよ。」


「そうですわね。」


「次の茶会は当分先でいいかな? 君も億劫だろう。」


「…ええ。お忙しい中わざわざお越しくださり感謝致しますわ。スピネル様の負担にはなりたくありませんもの。落ち着いた頃合いをみてご連絡いたします。」


「そうしてくれ。」


北国で採れる疲労回復効果があるハーブで淹れた紅茶には口をつけず、見送りのためについてくる

シトリンを振り返ることなく、スピネルは告げる。


「では。」

「お気をつけて…。」


別れの挨拶すらも振り向いてくれないまま、静かに閉じた扉をシトリンは見つめ続けた。

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