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新しい朝、希望の朝?

「さぁ、出来たぞ!」


そんな言葉と共に俺の前に湯気が立ちのぼる味噌汁が差し出される。


覗き込んでみると、熱気と共に芳醇な香りが鼻に触れる。


俺は少しばかりもやもやとした感情を抱きながら彼女の顔を覗き込んでみた。



「……」

まるで餌を前に待てをされている犬のような…そんな表情をしていた。


俺の顔を覗き込みながら足をバタバタと急かすように動かしている。




向かい合ったまま、15秒ほど沈黙が続いた。





俺はため息をついてそっと味噌汁の入ったお椀を口に運ぶ。



「どうだ!?」


喉に味噌汁が入るのと同時に彼女はガタッと音を立てて立ち上がる。その拍子に座っていた椅子は倒れてしまった。


俺は驚いて吹き出しそうになるのを堪えて飲み込み、一息ついた後で


「………あぁ、美味いよ…」


と何とか感想を口に出す事が出来た。


いや、お世辞抜きにこの味噌汁はとても美味しい。


出汁の味がよく出ていて…赤味噌か白味噌か、どちらかは分からないが塩気も丁度いい。文句の付けようのない完璧な味噌汁だった。





ただその…作って貰っておいて生意気かもしれないが…もう少し落ち着いて欲しい。


「うむ!そうか!まあ当然だがな!」


さっきまでとは一転し、ふっと顔を綻ばせながら彼女は得意げに胸を張る。


いやいや明らかに不安がっていただろと思ったが、まあ言わないでおこう。


そんな事を思う俺をよそに立ち上がった彼女は嬉しそうに朝食の用意を進めようとする。


「よし!もう米も炊けているぞ!……いや待て、もしかしてお前朝はパン派か?となると…ちょっと待ってろ!」




いや、まだ何も言ってないんだが…にも関わらず彼女は忙しない様子で長い銀髪を靡かせながら一目散にキッチンへと駆けていく。



俺は呆気に取られて、ただその背中を黙って眺めることしか出来なかった。


出来る限り朝はもう少し静かに過ごしたいものだ。




さて、ここまでだと俺が順風満帆なリア充生活を謳歌している様に見えるだろうか?


まぁ銀髪の美少女がわざわざ朝飯を作ってくれているこの状況だと…うーん、まぁそうとしか見えないだろう。






確かに、ただの美少女だったらそうかもしれない。


しかし事態はそう単純なものでは無いのだ。




とは言え、どこから語るべきなのか…一々全て解説する訳にも行かないだろう。


別に長々と語る程大した話ではないが……しかし一息に語れるようなものでもない。




なので、一先ず何よりも重大な情報を教えておこう。





彼女、蓮羽はすばね 真霜ましもは吸血鬼だ。


最も吸血鬼、と言われて皆が想像するような対象とは少し違うらしい。


具体的にはニンニクがどうとか、日光がどうとか、そこらの認識に人間との間では齟齬があるのだと。




そして……あー……古来より伝わりし高潔な種族で真の名前は……いや、ここはどうでもいいか。


本人曰く最も大事な部分らしいが、ぶっちゃけよく覚えていない。覚えていないという事はきっと覚える必要のないものなのだ。



さて、では何故そんな凄い吸血鬼とやらの彼女がこんな俺なんかの家に居るのか。最も重要な部分はそこだろう。


初めに言っておくが俺は何の変哲もないただの人間だ。同じ吸血鬼などではない。


なので勿論空を飛べる訳でもない。血を吸える訳でもない。何かコウモリ的な奴に変身する能力を持っている訳でもない。


本当に何の取り柄もない人間だ。なのに何故彼女と同じ屋根の下に居るのか…





それは、俺が死のうとしていたからだ。




いや、これだけ言ってもさすがに意味不明すぎるか……出来る限り短く解説しておきたかったが、短縮しすぎると荒唐無稽な与太話になってしまう。




なのでまずは、俺達が出会った昨晩の事について語っていこうと思う。


もしかすると……本当にもしかすると遥か先の未来で……





運命、などという表現を使う事になるかもしれない出会いの事を。





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