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7. メゾン・ド・カレムで何かが起きる?

オーキッドさん目線からのカレンさん目線で

お話しは進みます。

「ねえ貴女。その袋って、どちらのお店の物なのかしら?」



 馴染みのメゾンに入った途端、見覚えのある青緑色が目に映った。目にも鮮やかなその色に、思わず持っていた女性に声を掛けてしまった。





 

 漸く取れた久し振りの休日に、中央街にあるタウンハウスで溜まりに溜まった仕事を片付けていた。沢山の書類、手紙、届け物の荷物などが執務室に溢れていたんだ。さすがに気の毒に思ったのか、ルイが親切にも手伝ってくれたので、思いの外スムーズに仕事が片付いたけど。


 そう、()()を残してね。

 

 疲れた心に止めを刺したのは、私がモデルと思われる人物が書かれた小説だった。

 以前読んだことがあったシリウス君とクラウス君と思しき登場人物が、今回の本では私とクラウス君に替わっていた。

 タイトルだって、『辺境伯と宰相は古城の仮面舞踏会で愛を語る』 とか何とかで、挿絵に描かれた人物像も、説明させている姿形も私に酷似していた。違う事と言えば、登場人物は隻眼で黒革の眼帯をしている事くらい。


 ルイなんて、読み終わった後に大笑いしていた。作者の目の付け処が良いって、こんな面白い人物をさっそく見つけたのは良い感性だとか!


 ちょっと酷いと思わないか? 他人事だと思ってさ。

 しかし、こういう事って知り合いがカモにされているのはとっても楽しいけど、いざ自分に降りかかると知りたくなかったね。シリウス君とクラウス君は知らない様だったから、ある意味幸せだよ?

 

 ああ、ルイというのは、私の友人で隣国の王族の血を継いでいるルシェールという名の青年だ。王家の特徴である銀髪と、硬質でありつつ憂いを帯びた表情が美しく、過去には色々あったけど、今彼は私の屋敷で学術都市計画の一部を担ってくれている。優秀で性格も良いし、何よりも見た目が好みだね。


 一応、念のため言っておくけど、私は男色家では無い。


 ここははっきり言っておくよ。こんな姿(なり)をしているからって、男性が好きなわけでは無い。恋愛対象は女性であると断言できる。但し、ここ数年は想いを巡らす女性には出会っていないけどね!




「ねえ貴女。その袋って、どちらのお店の物なのかしら?」


 受取人不明の本の包み紙と同じ青緑色だ。


 立ち止まった女性の背に、もう一度声を掛けた。

 振り返ったのは、町娘というよりはどこかお屋敷勤めを感じさせる女性だ。紺色のシンプルな上着とドレスなのに、上等な白いカラーが良く映えている。同じ紺色の帽子も良く似合っている。


「ごめんなさいね。驚かしてしまいましたね。その手提げ袋がどこの物か教えて頂きたくって」


 目の前の女性の後ろに、もう一人女の子がいるのが目に入った。淡いピンク色のドレスに濃茶の髪が見えた。紺色の彼女の肩越しに見えたのは、うーん。何となく……見覚えがある……?


「オーキッド様……?」


 ピンク色の彼女の方が、振り返って私を見た。


「カレン・ミラノ嬢?」


 そうだ。この前のシリウス君の所の夜会であった。母上のミラノ侯爵夫人とアルテイシア様と一緒にいた。クラウス君がそれとなく名前を教えてくれたね。

 でも、何だかこの前よりも雰囲気が違う。何と言うか、随分大人しい? いや、随分と地味な感じに見える。

 ああ、この前は若草色のドレスに、額を上げたハーフアップの髪型だった。利発そうな白い額と少し垂れ気味な目が、何とも不思議な雰囲気のちょっと変わった女性だと思ったのだけど……?







◇◇◇◇◇◇◇




「カレンお嬢様、お知り合いの方ですか?」


 クララが小さな声で聞いてきます。私の交友範囲をほとんど知っているクララでも、この方は知らないでしょうね。


「ええ……。オーキッド様です。先日のスタンフォード公爵家の夜会でご挨拶しているの」


 小さく答えると、クララは安心した様に私の後ろに移動して、青緑色の手提げ袋を私の手に戻しました。

 確かに、目の前にいるオーキッド様は、どう見ても誰が見ても、上位貴族の奥様ですわ。それに、背も高くてスラリとしているので、物凄くスタイルが良く見えます。それに、このボルド―のドレスが上品でとってもお似合いなんです。見惚れてしまいますわね。


 男性とは誰も思いませんわ。私よりずっと艶やかで、素敵ですもの。


「カレン嬢、その手提げは君の物だったの? 凄く目立って綺麗な色の袋だから、どこかのお店の物かと思ってね。ついついどこの物か聞いてしまったのだけど」


「そうなのですか。綺麗な色の手提げ袋ですものね。でも、残念ですがこの紙袋は一般には売っていないのです。友人から特別に頂いた物なのですわ」


「そうなのですか……随分綺麗な色で上等な紙質ですね? 少し見せて頂いても宜しいですか?」


 ニッコリと微笑むオーキッド様に、嫌とも言えずに私はそっと手提げ袋を渡しました。オーキッド様は紙袋を受け取ると、紙質を確かめる様にそっと何度か撫でて再び私に返して下さいました。


「ありがとうございます。結構ずっしりした物が入っているのですね?」


「ええ、紙を200枚ほど買ったものですから。結構な重さになってしまいましたわ」


 オーキッド様から受け取った手提げ袋は、そのままクララが手を伸ばして持ってくれました。


「まあ、そんなに紙を買ったのですか? ご令嬢が珍しいですね。絵でも描かれるのですか?」


 うっ。返事に詰まりますわ。確かに令嬢のお買い物には珍しい品ですもの。


「いいえ。私には絵心はありません」


 余りこの手の話をしていて、誰かに聞かれたら不味いですわ。どこで誰に気付かれるか判りませんから。話を変えなければいけません。


「えっと。このメゾンには、オーキッド様もドレスを見にいらしたのですか? 今日もとっても素敵なボルドーのドレスですわ。良くお似合いですわね」


 ココであったという事は、もしかしなくてもドレスを見に来られたのでしょう。そっちの話を致しましょう。


「ああ、ありがとうございます。このメゾンは私の気に入りで、今着ているドレスもここに頼んだ物なのです。カレン嬢も、ドレスのご注文にいらしたのですか?」


 このメゾンがお気に入り。はあ、流石ですね。目敏いデザイナーがいる新進気鋭のメゾンが御用達とは。女の私よりドレスやお化粧の流行をご存じみたいです。でも、これだけ美しければ着飾りがいもありますよね。私とはえらい違いですわ。


「今シーズンのドレスを1着だけここで作ったのですが、それが意外と評判が良くて。勿論私もとても気に入りましたので、来シーズンのドレスもお願いしようと思いまして」


「そうなのですね。でも、珍しいですね、侯爵家ならメゾンをお屋敷に呼べば宜しいでしょうに?」


「今日は近くのお店まで来たので、折角ですから寄ろうという事になりましたの」


 出入り口付近でお話しを始めた私達を、お店の方が二階のドレスフロアに誘って下さいました。確かに、1階は素敵で可愛いですけど、夜会用のドレスは見かけませんでしたわね。



「それでは、カレン嬢。ご一緒に?」


 階段の方を向いたと同時に、すいっと片手を出されました。


「……?」


 はて? 何でしょう?


「どうぞ、私の手に。階段を上るのでしょう?」


 どうやらオーキッド様は、私をエスコートして階段を上って下さるようです。ああ、そうなのですね。この方はご自分が男性で、女装をしていることを隠していないのでしたわ。


 でも、良いのかしら。


「カレン様?」


 もう一度声を掛けられて、声のする方向を見上げました。私より頭二つぐらい高い位置にある黒い瞳。ドレスと同じボルドーの唇が優しく弧を描いているのが見えました。


「は……い。お、お願いします」


 私はドキドキと脈打つ心臓の音が、オーキッド様に聞こえてしまうのではないかと思いました。

 だって、初めて! それも市中で! 家族以外の男性に手を取られてエスコートして頂いているのですよ!



 クララが硬直した様に立っていますけど、後で事情を説明しなければ!


「ところで、先程近くのお店に寄ったとおっしゃいましたけど、それってピーコック商会ですか?」


 階段の踊り場まで上った時に、オーキッド様にそう聞かれました。


「……はい?」


 別に隠す訳ではありませんけど、改めて聞かれるとドキリとします。





青緑色(ピーコックブルー)


 オーキッド様は小さく呟かれました。






 ……何か、嫌な予感がするんですけど!?







 




 

ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。

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連休になりましたけど、私は通常出勤ですから

普段と何にも変わりません。因みに今日はお休みなので

ステイホームでお家で執筆を続けます。

お家で出来る事があって良かったです。


楽しんでい頂けたら嬉しいです。

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