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3. 夜会には美味しいネタがある

オーキッドさんは次話登場になりました。


すみません。区切りが良いので

ここまででご勘弁を。

 白地に百合の透かしが入った封筒に深い青の蜜蠟。

 蜜蠟には梟と剣のモチーフの紋章がくっきりと刻印されています。代々宰相を輩出してきた知恵と、王家に忠誠を誓う剣を模した紋章はスタンフォード公爵家のものです。


「カレン様、いつまでもご覧になっていないで、お仕度をしませんと間に合わなくなりましてよ?」


 侍女のクララが声を掛けてきました。スタンフォード公爵家からの招待状を何度も何度も見ていましたので。


「そうですわね。準備をしないといけませんわ。久し振りの夜会ですし、何と言ってもシリウス様とリリ様からのご招待かと思ったら嬉しくて。ついつい見てしまいました」


 以前のスタンフォード公爵家の招待状は普通の白い上等な封筒でしたけど、今回から封筒に百合の透かし模様が入ったのです。つまりは、これは公爵様ではなくシリウス様とリリ様が主催される夜会。ということになるのでしょう。いよいよシリウス様が公爵家をお継ぎになる準備を始めたという事でしょうか。


「さあ、カレン様。大事な招待状は仕舞って、湯浴みをしましょう。今日は新しいドレスをご用意しております」


 クララはにっこりと微笑むと、トルソーをカラカラと運んできました。確かに初めて見る最近流行りの刺繍が手が込んだ若草色の綺麗なドレスですけど。


 濃茶の瞳に、同じような色の髪。顔立ちは、至って普通。特徴となるような際立ったところが無い代わりに、そうそう不細工な所も無いと思います。



 言ってみれば、地味。


 身長もそんなに高くないし、身体つきも、何と言うかボリューミーでは無いけど、凹凸は若干寂しい感じがしないでも無い……


 よく見なくても、地味。



「この色、似合うかしら」


 緩い癖のある髪を引っ張りながら呟いた。そうなんです。私、カレン・ミラノは地味なんです。


「まあ! 何をおっしゃるのですか!? カレン様の髪や瞳には若草色やクリーム色が良く似合います!特に今回のドレスは、いつものメゾンの物ではありません。偶然見つけたとはいえ、新進気鋭のデザイナーがいるメゾンの特注品です。今シーズンの為に準備した物の一つですけど、いつものお嬢様とイメージを変えてご用意しました!」


「そ、そう? う、嬉しいわ」


 いつになく興奮しているクララですわ。意気込みを感じられますけど、こんな綺麗な色の若草色……今まで着たことありません。大丈夫かしら?


「さあ、カレン様。お仕度しましょう?」



 クララの後ろには、4人のメイド達がキラキラした表情で控えています。1対5では太刀打ちできませんので、私は深く頷いて引き攣った微笑みを返したのでした。


 ほんと、お仕度って苦手だわ。コルセットなんてまっぴらごめん。窮屈なドレスなんて着たくなーい! 心の中で叫びましたわ。








◇◇◇◇◇



「さあ、カレン様! 如何ですか?」



 鏡の前でくるりと回転させられると---


「あら。素敵!」


 鏡越しに満足そうに頷くクララが見えます。大仕事をやり切った様に額の汗を拭うと、数歩離れて全体を確認しています。


 緩く巻いた髪には、ドレスの刺繍と同じ花が散っています。淡いピンクや黄色、空色のデイジーに似た小さな花が、レース編みで作られているのです。その小花がバランスよく巻き髪に散っているのですわ。


「何て可愛らしいの。この髪飾りもそのデザイナーの物なの?」


 大鏡の前で合わせ鏡をして貰い、後ろ髪の方迄よく見ます。


「はいそうです。何でも、トータルコーディネートとか申しまして、頭の先から靴の先、小物や手袋、ハンカチに至るまで考えているそうです。やっぱり、カレン様には若草色がお似合いですわね。デザイナーの見立て通りですわ」


「デザイナーの見立て? クララ、貴女のお見立てでは無かったの?」


 すっかり、クララの見立てだと思っていたのですけど。デザイナーの見立てって、私はその方におあいした記憶がありませんけど? どういう事かしら?


「ええ。注文を入れる前から、カレン様の事をご存じでしたよ? 何でもピーコック商会でお見かけしたことがあるとか。カレン様もよくピーコック商会には行かれますでしょう? その時にお会いしているのじゃないですか?」


 はて。私がピーコック商会に行くのは、同人誌がらみの用事がある時だけです。まあ、そのついでにお買い物もしますけど、十中八九は編集会議。店内をそんなにうろつくことなく、マリオン様の執務室(編集室)に向かっているのですけど……


 印象に残る程、ピーコック商会に通っていると思われているのかしら。だとしたら少し気を付けないといけませんわね。面識のないメゾンのデザイナーに顔を覚えられるほど、目立つ特徴も無いのですけど、どこから本の事がバレるか判りませんもの。 



「とにかく、とっても気に入ったわ。クララの言う通り、この色は私に似合うみたいね。適度なボリュームで、胸元も綺麗に見えるわ」


 立体的な刺繍のお陰で、貧相(涙)な胸元が綺麗なデコルテを演出しています。このデザイナー、私の事をよく見ているわね。見事ですわ。


「さあ、カレン様、お急ぎくださいませ。奥様がお待ちでいらっしゃいますわ」


 そうです。これからスタンフォード公爵家に向かいましょう。大好物のシリウス様とリリ様を堪能しなければ! 執筆の為の妄想チャージです!






◇◇◇◇◇




 スタンフォード公爵家に着くと、ホールの入口でシリウス様とリリ様がお出迎えして下さいました。やっぱりお似合いですわ。至高の組み合わせ。この国の至宝ですわ!


 リリ様とは王妃様のお茶会の時から、何度かお会いしていますし、婚約発表の時に頂くはずだった記念品も我が家に直接届けに来て下さったりと度々交流していました。この世にこんな綺麗で可愛らしい方がいるなんて、夢の様ですわ。それに、性格も気取った所も無い素直で茶目っ気もある、とても好ましい性格の方でした。

 シリウス様が、リリ様を選ばれたのも納得ですわね。

 尤も、電撃結婚にはリリ様も大変驚いたと笑っていましたけど。


 メインホールでは、社交界の情報通と名高いお母様が、あちらこちらの紳士淑女の皆さんとご挨拶をしています。さすがの貫禄ですわ。我が母親ながら、あの行動力と観察眼は素晴らしいです。

 私は、そんな母の後ろでネタ探し、いえ、奥ゆかしい令嬢として微笑んでいるのですわ。但し、耳を象のようにしてですけど。



「あら、アルテイシア様がいらっしゃいましたわ」


 母の声に現実に引き戻された私は、辺りに目線を走らせました。


(あっ)


 ホールの入口から、スラリとした長身のご婦人が入って来られました。目にも鮮やかな濃い薔薇色のドレス。マーメイドラインがスタイルの良さを際立たせて見えました。結い上げた黒髪も艶やかで、何とも不思議な雰囲気を纏った方ですわ。

 そして、彼女をエスコートするのは、銀髪の青年ですわ。我が国では珍しい銀髪の美青年です。


(このお二人、どこかで見たことあるかしら……?)


 見覚えのある銀髪。憂いのある美しい高貴な顔立ち。どこかで見た様な気がしますけど。どこだったかしら? あんな綺麗な方だったら、忘れるはずないと思うのですけど。

 


(あっ。王妃様のお茶会に来た方だわ。確か隣国の方で、あの時怪我をされた方だわ!)






 と、いう事は……あの背の高い()()は……

 私は不躾なまでにその方を眺めました。

 やっぱりですわ。






「オーキッド・フォン・パルマン辺境伯?」




 つい呟いてしまいました。







ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。

感想も頂けると嬉しいです。

評価ボタンもポチもして頂けると励みになります。


カレンさんも適齢期ですけど、見た目がおっとり系なので

若く見えます。実際はもうすぐ20歳になるところです。


次話、オーキッドさん登場です。今度こそです。


楽しんで頂けたら嬉しいです。


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