1. 侯爵令嬢は同人誌作家
才媛の同人誌作家のお嬢様と変人女装の美貌の辺境伯のお話しです。
お時間があったら、是非『妖精姫である私の婚約者は超ハイスペックで溺愛系ですが、本当はお兄様に気があるのではなくって?』と『妖精姫である私の旦那様は超ハイスペックで溺愛系です!』 をご覧いただければと思います。
皆様、ご無沙汰しております。
ああ、初めてお会いする方もいらっしゃいますわね。コレは失礼致しました。
私は、カレン・ミラノと申します。ミラノ侯爵家の次女でございますの。
「カレン様、ここの頁の次が見開きでドーン! でいいのかしら?」
エルメーヌ様が、向かい側で綺麗に彩色された絵を掲げて下さいます。
「はい。あら、とっても素敵。それ見開きでドーン!! でお願いします」
はい? 一体何をしているのか。ですか?
「カレン様! エルメーヌ様! 3時には原稿を上げなければなりませんのよ! お急ぎ下さいませ! あと1時間もございませんことよ!!」
「「は、はいっ! マリオン様!!」」
只今、絶賛編集中ですの。
私、カレン・ミラノ。一応世間ではミラノ侯爵家の次女。才媛の侯爵令嬢と言われていまして、数年間隣国に留学していた経験もございます。
留学前から密かに行っていた小説の執筆活動を再開して、同志である挿絵担当のエルメーヌ・パイロン伯爵令嬢と、印刷・販売担当のピーコック商会、マリオン・メイ・ピーコック嬢とシリーズ最新刊を編集している最中です。
ええ。はっきり申しましょう。同人誌ですわ。
因みに、ここはピーコック商会の本店にあるマリオン様の執務室という名の編集室ですの。
ピーコック商会は王都でも一番大きい商会で、扱う品物は耳かきから王妃様の首飾り迄という広範囲です。その為、本店は1階から3階迄が店舗になっていて、4階が商談室、5階以上が事務所という大層大きくて立派な建物なのです。
マリオン様のお部屋は5階にありますので、今日もお買い物を装って訪問しているのです。
貴族の令嬢が、簡単に市中のお店に買い物が出来るのか? と、ご質問が出そうですけど、それは商魂逞しくアイデアの豊富なマリオン様です。
月に1度、令嬢達が食いついて来そうなイベントを催しているのです。店内でお茶会を兼ねたお菓子と異国のお茶の試飲販売会や、著名なメゾンのドレスを一堂に揃えた衣装展示会など。少女やそのお母様達の小さな社交場として重宝されているので、比較的『ピーコック商会の本店』には足が運びやすいのです。
特に、私達は王立学院の同級生の仲ですから、家同志も安心して出してくれるのです。
「ふうぅうう。これで終わりですわね」
原稿を揃えて枚数を数えると、マリオン様も漸く落ち着いた様です。
「ごめんなさいね。私の原稿が遅くなってしまったせいですわ」
私はマリオン様とエルメーヌ様に頭を下げます。ああ、この場では身分は関係無くお付き合いしようと決めていますのでお気になさらないで下さいな。
「カレン様、どうぞ顔を上げて下さい。仕方ありませんわよ。だって、登場人物のお一人のモデルが電撃結婚されてしまったのですから。それも相手役の妹君とですものね? 驚きましたわ」
そうなのです。私達が編集していた本の主人公のモデルが、この度結婚されたのです。
「まさか、シリウス様と妖精姫のリリ嬢が結婚するなんて……全く噂にもなっていなかったのにね?」
エルメーヌ様もテーブルに頬杖を突くと、溜息交じりに呟かれました。
美貌の宮廷近衛騎士のシリウス様(主人公)と、次期宰相と名高いクラウス様(もう一人の主人公)の妹君、『妖精姫』と渾名される美少女令嬢が電撃的にご結婚されたのですわ。まあ、確かにお兄様であるクラウス様とシリウス様は同い年で、アレッド王太様の側近同志ですから、お二人共仲も良かったですし? 妹君とも面識もあるでしょうし? 家格も問題無いのでしょうけど?
でも、電撃ですわ。全く噂に出ていませんもの。寝耳に水とはこのことですわ!
「「ええ。本当ですわねぇ」」
私とマリオン様が同時に相槌を打ちました。
私達三人が一生懸命編集していた本は、所謂『同人誌』と言われる本です。一般にはあまり出回りませんけど、一部の嗜好家には大好評なのです。
創刊号の『宮廷近衛騎士と宰相は秘密の塔で愛を語る』から始まり、留学から戻ってから『宮廷近衛騎士と宰相は秘密の庭で愛を語る』、『宮廷近衛騎士と宰相は秘密の森で愛を語る』と2冊の続編が出ていますけど、そろそろ4冊目をと思った時に婚約発表があったのです。
この『秘密の愛を語るシリーズ』の主人公は、宮廷近衛騎士のリシウス様と若き宰相であるクラヴィス様という架空の登場人物なのですが、思いっきりモデルがいるのです。
ええ。先程もお話ししましたけど、王国の至宝、独身貴族令嬢の最有力物件と名高った、宮廷近衛騎士副団長のシリウス・スタンフォード様と、アレッド王太子様の側近中の側近、次期宰相の呼び名も高いクラウス・グランデルク様なのです。
バレたら激マズ。ですわ。
一応名前と挿絵の姿は、髪と瞳の色は変えてありますけど……見る人が見れば判ります。というか、思う存分お二人に妄想した結果が、この本の内容なのです。
つまり、見眼麗しいシリウス様とクラウス様が禁断の愛に生きる。というお二人にとっては全く得にならない邪な目線で書かれた本なのですわ。
「しかし、電撃婚約発表のお陰で、新シリーズが発表できるなんて、人生どう転ぶか判りませんわね?」
メイドの用意してくれたお茶を飲みながら、三人の目が遠く空中で留まりました。ええ、怒涛の1週間を思い出しているのです。
「カレン様は、婚約発表のあった王妃様のお茶会に行かれているのでしょう? 実際の所どうだったのですか? 詳しく教えて下さいません?」
マリオン様がわくわくした瞳で尋ねてきました。
「もうもう! とにかくシリウス様とリリ様がまるで絵の様にお美しかったのですわ! お二人共白の絹地に金色の刺繍の衣装でしたの。当然、シリウス様は近衛の軍服でしたから凛々しいのなんのって! それにリリ様も妖精姫の渾名に恥じない可憐で美しくて! お二人以上のカップリングはこの国には存在しませんわ! とにかく眼福でしたわ。この場にエルメーヌ様がいて下さったら、この美しい二人を絵に残せたのに! と、心から思いましたわ」
「まあ、そんなに……ああ、見られなかったのが悔やまれますわ」
残念ながらエルメーヌ様のお家は、只今喪中なのでお茶会へのお誘いが無かったのですわ。
「でも、そこで新シリーズの登場人物を見つけられたのでしょう?」
マリオン様がグイっとお茶を飲み干して、新シリーズの登場人物相関図をテーブルの上に広げました。
相関図の真ん中には名前が書いてあります。お一人は、前シリーズの登場人物の一人、宰相のクラヴィス。そしてもう一人が……
「「「 オーランド・ヴィスタ・バルモンド辺境伯」」」
ええ。そうですわ。
あ・の、オーキッド・フォン・パルマン辺境伯がモデルの、黒髪美丈夫の辺境伯サマです。
良い素材。見つけちゃいましたの。
神様! 感謝ですわ。
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5話位で完結する予定ですけど、たまにクラウス&ロゼリンとか、
カーンとか、ルイ君とかも出てくるかもしれません。
楽しんで頂ければ嬉しいです。






