それから
「ムー? ムー? 何処に居る?」
「こっちよぉ」
軍人らしい足取りで姿勢良く歩く婚約者。
「ここで何しているの?」
ムーを見つけた甘いメロンジュースのような瞳が和らいだ。
「お義母様に頼まれたドレスを手直ししているのよ」
「ムー、あんまり母様を甘やかさないでくれ」
「どうして?」
ムーは、頼まれたのが嬉しくて、端から見たらメイドのようだった。
「ムーの時間がちっとも取れていないじゃないか」
「いいのよ。あんなに麗しいお義母様に頼まれて、断れる人がいるとも思えないもの」
「それなら、今日は僕との時間を作ってくれないかな?」
婚約者が着ている、フワリとした柔らかい上着はムーのお手製だ。
子供のころは肩までのストレートだったけど、今では短髪にしていてスッキリとした男らしさが醸し出されている。
髪と同じで、どこまでも真っ直ぐに言葉を届けるその人に、ムーはなんて返したらいいのか思いつかないでいた。
「今日は、お休みなの?」
やっと出た言葉。
小さな青い鳥のような仕草のムーに、とめどなく溢れる笑顔を向けたその人は伝えた。
「違うよ」
「ん?」
「恩赦をいただいたんだ」
「恩赦? 皇太子様に?」
「そうだよ。だから、これからはずっとムーと一緒に居るよ」
「えっ? ずうっと?」
髪をあげてスッキリした装いのムー。
桜花色した小さな唇が少し震えていた。
「近衛を辞めたの?」
「そう。退役させていただいたんだ」
「うそ、ウソ、嘘! なんで?」
立ち上がって狼狽えるムーを可愛く思う婚約者。
「何故って、可憐な淑女に飼ってもらう為だよ」
「な!」
うるうると水を湛えた暗紫色の瞳の美しい様。
じっくりと堪能してから婚約者のエリュミラードは告げた。
「僕と結婚して欲しい」




