迎えた平穏
エリュミラード様は、とても立派な近衛騎士だったわ。
顔のそばかすも消えてしまって、逞しい男性に成長していて、ムーって呼んでくれなかったら、気がつかなかったかもしれないわ。
でも、去る時には手を握ってくれた……。
もう、これで、無事だとわかったから、ムーも前を向いていけるわね。
▽
「クリン、コロンこっちだよ~」
ワンワンワン。
外の空気は、思いの外気持ちがよくて。
「ほら、早く取ってきて~」
ムーが投げた木の枝を、コロンが嬉しそうに咥えて来たわ。
ここ一年ムーは、塔暮らしをしてるのよ。
クリンとコロンにすっかり癒されて、仕事も順調だわ。
今は、綺麗なカーテンを作っているの。
ムーは狡して塔の中で、レースを編んだり機織りしたりするから、仕事が早いのよ。
次はランプシェイドも作ってみたいな。
「ムー、王宮から招待状が届いたって、うちのダンデラ商に連絡がきたよ!」
仕事仲間のレプトが知らせにきたわ。
「もういいのに、それって断る事が出来るかしら?」
「何故喜ばないんだ? 俺ならすぐに行くのに!」
レプトらしい考えよね。
それで、のらくら日にちを延ばしてもらって、そのうち忘れてくれないだろうかなどと考えていたのよ。
勿論、不敬だとわかっているわ。
でも、褒賞をあげようって言っているのに来ないなら、もう知らないよ。となるか、最悪不敬罪に問われても、罰金くらいかなって。
そのまま何もないまま日々が流れたわ。
塔の中で、頼まれた豪華なカーテンを作っていて、ムーは本当に大変で……。
そろそろ一人で作るのも限界なのかな……。
ワンワンワン。
そんな時に、クリンとコロンが騒がしいのよ。
「どうしたの? 何か……」
フワッと爽やかな甘い香りがして、瑠璃色の小花がまるで降るみたいに目の前にあって……。
ムーは、夢でも見ているのかしら?
背の高い素敵な紳士が二人。
ムーの前に片膝を立てて、ロベリアの花を捧げていたのよ。




