塔が立った
母親の欲目で可愛いと言われていただけの私。
今のうちに、荷物を纏めておきましょう。
しかし、隠し場所に困ってしまったわ。
通路のベンチで日向ぼっこする私に、親切な騎士が頭を撫でてきたの。
私は、踞っていた顔を上げて、相手を確認したのよ。
10才ぐらいの男の子で、鼻のそばかすがとてもキュートだった。
「これは、君のモノでしょう?」
そう言って、メイドに取り上げられてしまった円錐形の鉱石を、首にかけてくれたわ。
何処かで見ていて、取り返してくれたんだね。ありがとう。
レモングラス先生が戻ってくるまで、暫くの間、その小さな騎士と仲良く散歩してもらう毎日を送ったの。
お城の中に勤めているだけあって、物知りであちこちに連れて行ってもらったのよ。
その中の一つに、誰も手をつけないスルースポットを発見した!
元は、あの御仁が土を捏ねていた場所らしいの。
それが、火事で燃えて、今は、残骸と雑草が生えてしまっているというところ。
それで、そこに穴を掘りまして、荷物と一緒にその円錐形の鉱石も埋めてしまったわ。
そのあと、悪い事に雨が降ったりしたから、心配で見に行ったの。
そしたらね、信じられない事に、電信柱のような何処までも真っ直ぐな塔が立っていたわ。
「………(声にならない驚き)」
いけない! 私とした事が、また、新たな語録を増やしてしまうところでした。危ない危ない。
そこに、私をさがしに来たエリュミラード君が来てしまい、説明をどうしようかと思いましたら、きれいにスルーされてしまったのよ。
もしかして、現実逃避タイプだったのかしら?
また、私を散歩させてくれるつもりだったから、「ムイムイ(否定)」と首を振れば不思議そうな顔をされたわ。
いつもなら、尻尾はないけど、ブンブン振る勢いでついていってたからかしらね。
仕方なく、袖を引いて恐る恐る塔の扉を開けようと近づいたわ。
すると扉には、二人分の手形が浮かんでいたから、私は、小さい方に合わせて、エリュミラード君の手を引いてもう一つに合わせてみたの。
まあ、ピッタリ!
パカッと開いた中に入れば……そこは、のどかな田園風景が広がっていたわ。
懐かしさを感じながら歩けば……何処かで見たような小さなお家が見えてきた。