追われる
テナーは、頑なに話さなかったわ。
でも、別にムーは興味ないから、それでもいいと思ったのよ。
旅は道連れ世は情け。
それだけで、一緒に来ただけだからね。
ところが、早朝出発してムーの住んでいる山裾に近づいた頃、ガクンと急にスピードを上げたのよ。
「何事?」
と、窓から顔を出せば、後ろには、二頭立ての馬車が追いかけて来ていたの。
「こっちに移って! 早く」
テナーに大声で叫ばれて、ムーは素直だから馬車の扉を伝って飛び移ったわ。
後から考えたら、とても危険だと思うのよ。
一つ間違えたら、後ろの馬車に轢かれていたかもしれないのだから。
ゾワワ。
それから、追い上げられて並走されてしまい、手綱はムーが握ってテナーが乗り移ろうとする輩の相手をしたわ。
ムーの馬車はスリムだったから、あるところでスピードを緩めて、別の脇道を進んだのよ。
さすがに、向こうは、すぐに方向転換出来なくて、追いかけて来れなかったわ。
これは、バルロ伯爵の馬車なんだけど、ある程度行ったところで馬車を切り離し、馬に二人乗りしてムーの家まで帰ったのよ。
もう、何だったの? まさか、盗賊?
家に戻ったら、クリンとコロンがすっかり痩せ細っていて、ムーは泣けたわ。
ムーが番犬に構っている間に、食料と水を持ったテナーが現れて、挨拶をしたのよ。
「色々と世話になって、迷惑をかけてしまった。生き延びる事が出来たら、必ずお礼をする」
そう言って、なんとムーの頬にキスをしたの!
髭が痛いわ! じゃなかった。
「隠れるところならあるから、早まらないで下さる?」
ムーだって、このまま置いて行かれたら、危ないって言うのに酷いわ。




