お迎え
レプトからの迎えの馬車には、フードを深く被った痩せた年配の男が馭者をしていたわ。
ムーは、荷物を乗せてもらって、何のためらいもなく馬車に乗ったのよ。
クリンとコロン(番犬の名前)それに、ゼラニーは上手くやっているかしらね……。
「ふあ~ぁ」
ムーも疲れていたみたいで、そのまま寝入ってしまったみたい。
ところが!
「おい、起きろ! いつまで寝てんだ」
随分乱暴に起こされて、ムーちゃんビックリよ。
馬車を走らせていた男は、ナイフをチラつかせて「出ろ」と言ったわ。
訳もわからず降りてみたけど……ここは何処?
着いた場所は知らない山奥で、前には古びた屋敷が建っていたわ。
あら、ムーちゃん誘拐されるですか。
しかし、身代金は誰に要求するつもりだろう? などと、どうでもいい事を考えたりした。
心が現実逃避しているみたい。
中々入って来ないムーにイラッとしたのか、仲間が廃屋から出てきたの。
でも、良く見たらそれは女の子だったのよ。
「父さん遅いじゃない。姉様が中で待ちくたびれてるわ」
「ゼラニー?」
「そうよ。従姉妹の名前も知らないで、大公様の家で贅沢してたんでしょう? 姉様があんたの屋敷でとても苦労したって言うのにさあ」
前髪を上げて、おでこを出したゼラニー。
確かに、別れた頃のアミールに似ているかもしれない。
あまりの展開についていけず、頭から湯気が出そうよ。
「ほら、こっちに来て中に入って」
ムーは、埃っぽい屋敷に入れられて、近くの応接間に引っ張られて行ったのよ。
すると、そこだけは掃除されていて、ソファーにはバルロ伯爵が座っていたのよ。
久しぶりに見た名ばかりの父親は、歳を取っていてなんだかやつれた様にみえたわ。
「ミラベル!」
お母様の名前を呼んだわ。
「ご機嫌よう、バルロ伯爵様」
ムーは、慇懃に淑女の挨拶をしたわ。
「いや、アデリア。しばらく会わないうちに、美しくなったな。それに、もうお父様とは呼んでくれないのかね?」
悲しげな表情でムーを見詰めたから、思考が浮かんでしまったわ。
信頼度 ー
貢献度 80 黒
期待度 20 黒
うっわ! 真っ黒よ。
やっぱり、父親でもなんでもなかったわね。
「何度も何度も、誤解だと手紙を送ったのだぞ? まさか、読んでいない訳はなかろう?」
「すぐにご結婚され、後継者に恵まれたと伺いましたわ」
「そうだ。そこに座っているのが、お前の義母親になったアミールだ。それから、向こうには可愛い義弟がおるのだぞ。会うといい、一目で愛らしさがわかる筈だ」
白々しく説明するバルロ伯爵。
「いいえ、結構です。バルロ伯爵様は、捨てた筈の娘にいったいどのような用事があるのですか?」
「な、なんて言い種だ。お前を摘まみ出したのは、執事の奴だぞ。あいつはもう、クビにしたから安心しなさい」
「私は、はっきり、バルロ伯爵様に摘まみ出せと言われた事を覚えております」
ムーも負けじと言ってやったわ。
「ここまで言ってやっているのに、いったい何が不満なのだ?」
「私は、平民のムーでございます。どうぞ、もうお忘れ下さい」
「わかった。では、お前を五年住まわせて育てた恩を返せ」
悲しそうな仮面を外し、冷酷な姿を現したバルロ伯爵。
「やっぱり、お金が目当てだったのですね」
「そうだ。お前がデッセン卿のところであげた利益を渡せ」
こ、こんなにはっきりと言われて、幾ら縁を切ったつもりでいても、傷つかない訳がない。
自然に身体が震えたわ。




