始まり
隔絶された生活の中で、唯一ニュースを教えてくれるのは、雇用主の息子のレプトだけなの。
「こんな迷宮みたいに庭を作ったら、誰も入れないじゃないか。手紙はどうしているのさ」
「ちゃんと、門の大きな石をくりぬいて郵便受けにしてあるから、心配いらないわ」
「あ、そう。それで、ちょっとこの近くで大変な事件が起こったのを……知らないね」
「事件?」
「君さあ、この国の国民だよね?」
「ええ、そうね。そのつもりだわ」
「事件に巻き込まれたのは、この国の皇太子なんだけどね」
「えっ!」
「一応は、驚くんだね」
「皇太子様がどうされたの? 近衛の方は無事かしら?」
「君でも、麗しの皇太子様の事は気になるんだね。ちょっと安心したよ」
ニヤニヤしてやな感じだわ。
「早く聞かせて」
「ああ、今、国中が大騒ぎだよ」
大公公爵様の西側の領内には、有名なバベナ鉱山があるの。その視察にロビウス皇太子様が訪れていたようなのよ。
それで、坑道内で落盤事故がおきて、なんとか助かったところに、血の臭いにつられた魔物が出たらしいの。
その混乱もあって、皇太子様は足に怪我をされて重症らしいわ。
それから、それから……何人かの近衛騎士が…………だって……。
そこで、ムーは倒れたらしいの。自分でもビックリだわ。
レプトは、ムーをソファーに寝かせてくれて、手伝いの者をよこすって言ってた気がするの。
でも、ムーはそれどころではなくて……。
真実を……確かめるべきなのかしら?
だけど、婚約者でもなくなったのだから、会う事はないでしょうし、このまま知らずにいれば、いいえ、無事に決まっているわ。
本当に、どうしたらいいのか……これは、お母様を失った時みたいに、涙が止まらなくて息が出来なくて、本当に辛いわ。
ハァハァハァ。
もう、ムーは駄目かもしれない。
ああ、エリュミラード様! どうかご無事で!




