元の生活
「売り出すなら、大公公爵様の領にして! それなら文句ないわ」
「帰りたくない理由があるんだね? まさか、頭に怪我をしていたのは……」
「虐待された訳じゃないの。確かに、門番には蹴られたわよ」
「なんだって!」
握られていた手をギュウっとするから、痛いわ。
「じゃあ、追い出されたんだね?」
まあ、真実をいい当てちゃったわ! エリュミラード様は、勘がいいのね、流石だわ。
『見上げていた瞳が大きくなったり、柔らかく和んだりして、もう無理だ』
ムーの体を捻りながら前抱きにして囁かれてしまう。男の子でも、力があるからムーの抵抗なんて何の役にも立たないわ。
「辛かっただろう。これからは、僕が守るからね」
こんな風に言われて、惚れない淑女っているのかしら? と、ムーはボンヤリ考えていたの。
だって、そうでもしなかったら大号泣してしまいそう。
「では、お祖父様にこの事を話すから、だから……」
ムーの瞳を指で擦ったエリュミラード様。
「ムーは、いつものようにこの屋敷で暮らして欲しい」
「ん」
気づいたら、うっかり鼻水も出ていたわ!
「きゃふ」
クスクスと笑ったエリュミラード様は、部屋まで送ってくれたから、ムーは仕方なく戻ることにしたの。
▽
それからは、メイドさんや職人さん達にバルロ伯爵家の事を訊くようになったわ。
理由は、自分の両親だと言ってくれたから、興味がわいた事にしているの。
「お嬢様に話す内容ではありませんが、その……どうも、税金が高いと……いや、親類がバルロ伯爵様の領内で働いておりますから、そんな噂を耳にしまして……良くして下さるお嬢様が、いざこざに巻き込まれないように、お話ししたまでですから」
と、商人のジャコフさんが教えてくれたわ。
ジャコフさんには、先生と一緒に旅のお話しを聴かせてもらっていたのよ。
それで、現代知識をちょこちょこ教えてあげていたの。
おかげで結構儲かったみたいだわ。
たまに、珍しいお土産を先生と私にくれたりするのよ。
でも、目的は、お礼も兼ねた……だって、先生にまで渡しているから、まるわかりよ。




