婚約者
「こんにゃく」
「こ・ん・や・く」
だ・よ・ねぇー~。
「あうっ、ユリアナ様はどうしたの?」
「見ていたよ。やはり、ムーの動きに無駄はなかったね」
やっぱり見ていたのね。
「もーもーもー!」
「ムーって言ったり、もーって言ったり、アデリア嬢は忙しいのだね」
さっきから、エリュミラード様の目許が甘い!
「ユ、ユリアナ様はどうしたの?」
「だから、ムーの圧勝だよ。何でも、カゴやあの白いチーズを、バルロ伯爵様の領で売り出したいそうだよ」
ハッ! まさか、お金目当てでムーを受け入れるつもりなのかしら。
「嫌! 絶対に帰らないわ」
「どうして? ああ、再婚した奥方は、どうも評判が良くないみたいだからね」
「えーーっ! 再婚?」
「もしかして、知らなかったの?」
「ん」
「確か、アミールとか言ったかな? 親類だと聞いたけれど、美しい女性だそうだよ」
アミール!
あの朝、お父様を驚かせる為にと、ムーに変な服を着せた人。
そうかあ。そう言う事なのね。
それなら、尚更帰りたくないわ。どうしたらいいのかしら。
急に黙ってしまったムーを心配するエリュミラード様。
「どうしたの?」
「……」
犬でも可愛いがるようにじゃれてきた。
「ムーには僕がいるんだから、話してみて?」
『異世界の男の子は、こんなに甘くて優しくて……難敵だわ!』
温かい体温と、すべすべの肌を感じながら葛藤中よ。
「だって……」
「なあに?」
顎くすぐるのは、反則だわ。
「んっ、飼ってくれるって言ったわ」
「そうだね」
「婚約しないと駄目なの?」
「うっ!」
『雫でも垂らしたような円くて濃厚な空の色した瞳が、ヒシッと僕を見上げている。小さな鼻に唇がまたちょっと尖っていて、ああ、どこまでドキドキさせれば気がすむのか……』




