ムーの失踪
その晩、薬湯を飲んだふりをして人払いをしましたの。そして、走り書きをしてから塔に逃げ込みましたわ。
ゼエゼエ。
しばらく、魂が抜けていました。
パズルのピースが上から降り、落ちて消えていく。
楽しむ気持ちで来たわけではないので、こうしていると、ムーは……独りでいるのはやっぱり淋しいな。って思っちゃったわ。
手には、思わず大公公爵様のお手紙を握って出たみたいで、折角だから、開封して読むことにしたのよ。
「うそ、ウソ、嘘!」
なんて事でしょう。大変重要な事が二つも書いてありました。
「どうして読まなかったのか、ばか、バカ、馬鹿あー~!」
一つは、エリュミラード様の婚約者に選ばれたと書いてあったわ。
なぜ?
そして、ムーを拾ったお屋敷で、ムーと同じ年頃の一人娘が行方不明だとわかり、今日、顔合わせするようにと書いてあったの。
むり、ムリ、無理!
あの時の気持ちは、どうしてたっても消えてくれないもの。
そんな気持ちを抱えたまま、何日か過ぎたと思うのよ?
「アデリア・デ・バルロ嬢はいるかな?」
エリュミラード様が、知らない人の名前を呼んでいたから、ムーは知らん顔よ。
アデリア、アデリアと呼んでいたけれど、ずっと強情を張っていたら、とうとうムーって呼んでくれたのよ。
だから、ムームーって返事してあげたわ。
エリュミラード様は、いきなりムーの前に立って不審な人を見るように覗いたの。
「アデリア嬢じゃないのか?」
「ムイムイ」
「ムー、ちゃんと話してくれないか? 大切な事なんだよ」
ムーの両腕をギュツと握って、放してくれないのよ。
横暴だと思うわ!
「ムイムイ」
「ムー、どうしたら機嫌を治してくれる?」
また、少し男らしくなったエリュミラード様が、顔を近づけたりして、ムーは、憂いたライトグリーンの瞳にドキドキしてしまった。




