失踪の訳
「エリュミラード……良く無事で……」
お母様が僕の無事を喜びすがりついて泣いている。
「ご心配をおかけしてすみませんでした。どうか、もう泣かないで下さい」
お母様を抱えてソファーまで移動して、僕もそのまま隣りにかけた。
「エリュミラード、何があったのだ?」
見上げたお父様の瞳も濡れていた。
「少し遠出をしてしまい、そこで、誤って崖から落ちてしまい、記憶をなくしていたようです」
「それで、怪我は?」
「ポーションで治していただきました。通りすがりの冒険者の方だったみたいで、僕もまだあまりお礼を言えておりません」
「命の恩人ではないか! 何処にいるのだ?」
「ここまで送って下さったあと、次のクエストに向かって行かれました。僕の記憶が戻るまで、ずっと足止めしてしまいましたから急いでいたようです」
僕の嘘を素直に信じるくらい、両親は、善良な人達なのだ。
さて、これを聞いたお祖父様はどう思うかだな。
▽
次の日、お祖父様の執務室に呼ばれました。
いまだに現役のお祖父様は、他人に情報を与えない為に、髭を生やされていて表情が見えない。
今迄で一番厄介な相手なんだ。
「話しは聞いた。1ヶ月の逃避行は、お前にはこたえたのか?」
やはり、お祖父様にはお見通しなんだ。
「お祖父様! 僕は、顔を見たこともない相手と婚約するなんてできません。婚約は考え直して下さい」
「それが、こんなに時間をかけた答えか?」
「いえ、もっと精進して、最高の指揮官になってみせます」
「口だけとは情けない」
「お祖父様ともあろうお方が、浅慮ですね」
「ほお」
クルクル巻いた髪から覗く瞳が光る。




