塔での誓い
ーーエリュミラード視点ーー
「イッタアーッ」
「だ、大丈夫?」
真上から可愛いムーの顔が間近にあって……ドキンと心が跳ねた。
それから、僕は誤魔化す為に、右の手で鼻を押さえて鼻を打ったことにしたんだ。
「お鼻を打ったの? 器用なのね」
まるっとした瞳が水を湛えていて、雨上がりの朝露のようだった。
僕は、ムクリと起き上がって、改めて椅子に座りなおす。
「ムー、一緒に旅に行かない?」
「いやよ。ムーは、怠惰な生活が希望なの」
まだ八才だと思うんだけれど、時々ムーは疲れた大人みたいな事を話す。
「それなら、何処かで一緒に暮らさない?」
「ムーは、エリュミラード様のペットにならなってもいいわ」
「ぺぺぺ、ペットォー~?」
「ん」
ハァー、僕は去年から貴族の子息が通う騎士養成学園に行っている。
およそ、貴族の子息なんてろくでもなくて、その中でも女の子をペットみたいに可愛いがるという話しがあって……僕は、ろくでもないと思ったんだ。いや、思っていたと言うべきかな?
今、こうして、気になる子にそんな大胆な事言われるなんて……ドキドキドキ。
「ムー、ここに来る前に、大公公爵様が飼ってくれると思ってたのよ。でも、騎士が迎えに来てしまったから駄目になったの」
なななななにぃー!
「ムー、約束して。絶対僕のペットになるって」
「ん、それはいいけど、それならこんなところに隠れていないで出世して? それで、ムーに怠惰な生活をさせてくれる?」
はー~っ!
これは、逆プロポーズって物なのかな。
ちっこくてどこもかしこも、優しくて甘い桜花色をしたムー。
「約束して。僕も頑張ってみるから」
ムーの両手を取って膝まづいた。
「エリュミラード様の瞳は、ライトグリーンなのね。ムーの大好きなメロンジュースの色よ」
そう言って照れたように笑った。
ギュー~ン。
僕は、必ず君に怠惰な生活をさせてあげるよ! メロンジュースが何だかわからないけど、きっと探してあげるから、待っていて欲しい。
こうして、十ぐらいの子供が決して誓うような内容じゃない、どこかおかしな二人の足並みが揃ったのだ。




