新しい語録
深夜遅くまで明かりをつけていたけれど、今夜は早く消して仮眠してから抜け出したわ。
この為に、梯子を出しっぱなしにさせておいたのよ。
ふふっ、ムーちゃんは唯のデブ、あ、もう痩せたんだったわ。
カササササと素早いカニ動きで壁に張り付き、続いてバルコニーの壁にペタッと取り付いた。
「こんな夜中に何しているの?」
「きゃふ」
あー~! 新しい語録が生まれちゃったわ。
私は悲しい顔で振り向いたのよ。塔の中に隠れていた王子様にね。
兎に角、また二人で塔に戻ったわ。
話しも出来ないし、誰かに見つかったら大変だもの。
「酷いなあ、僕はずっと隠れて待っていたのに、ムーはぜんぜん会いにきてくれないのだから」
あれ? しばらく会わない間に、そばかすが消えて可愛いらしくなったかしら?
「どうしたの、顔に何かついている?」
「ううん、顔忘れちゃってたわ」
「ハハッ、酷いなあ」
「それで、エリュミラード様は、どうして塔に隠れているの?」
「様……それは、お祖父様が僕に……」
「ん?」
顔のすぐ下から覗きこめば、慌てるエリュミラード君。
「大公公爵様に何か言われて、逃げてきたの?」
「別に怒られた訳じゃなくて」
「それじゃあ、どうしたの?」
『さっきから、雛鳥みたいに小首を傾げたりして、癖のある前髪が跳ねて、可愛いいったらないなあ』
エリュミラードは、久しぶりにムーと過ごせて気分が上がった。
ニコニコして、それ以上話す気がないようね。
「ムーね、最近変なの。あのね、こうやって目を合わせると、その相手の考えている事が数値化されるのよ」
無邪気にオデコをくっつけられ、瞳を覗かれたエリュミラードは、後ろにひっくり返った。




