幸福の証
応援して下さった皆様に捧げます。
「あなた、見てください。私達二人の妖精よ。しかも、幸運を額につけていたのよ」
「あ、ああ、本当に幸運なら喜ばしい」
「柔らかそうなお腹に、パンみたいに美味しそうな手。それに、何と言っても、幸運の証」
「あ、ああ、そうだね。私にはツノ……いや、綺麗な石だ」
「本当になんて愛らしいのかしら」
たった今、出産という大仕事を終えた、憔悴しきった妻に、口角を上げて笑顔をつくる夫。
「さあ、少し休みなさい。顔色があまり良くないようだ」
「ええ、そうするわね。ありがとうあなた」
赤子の世話をするのは、従兄弟の娘のアミールだ。
従兄弟の家はあまり裕福ではないので、長女の花嫁修業として、家で預かることになってしまった。
炎のような赤い意志のある瞳に、小麦の穂のような光りによっては金にも見える髪をした少女。
「おじ様、赤ちゃんのお名前は、決まってますの?」
「いや、まだなんだ。女の子ではないと思っていたからね」
「そうですか。何て呼んだらいいのかしら。ねぇ」
そう言って赤子をあやす姿は、とても13才とは思えない程の華やいだ笑顔であった。
▽
こうして、赤子が5才になるまでは、ぶくぶくと成長していってくれた。
ところが、母親であり妻でもあるミラベルがこの世を去ってからは、様相が一変してしまった。
▽
ある朝、食堂で愛娘を待っていた時の事だ。
突然、全身を布でぐるぐる巻きにしたケダモノが侵入してきて、直ぐに家令達に命令して、屋敷の外に摘まみ出させたのだ。
「ムムー、ムムー」
と、変な鳴き方をしていたな。
それから、いくら待っても起きて来ない娘を不審に思い、様子を見に行かせたら、室内は、荒らされたように散らかっていて、いったい、ここで何が起こったのか……。
まさか、先程の不審者が……そう思った矢先、家令が、先程の不審者は、娘ではないかと言い出して……。
「そんな、まさか!」
屋敷の者達総出で捜索させたが、外壁に血の跡がついていただけで、影も形もなかったとのこと。
本当に、いったい何処に消えてしまったのか。
これで、私は、独り身の男になってしまったのだな。