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今朝はうっすら雪が積もった。マフラーを探していると母さんが話しかけてきた。
「今日おじいさん退院して帰ってくるんだって。入院してるうちにボケちゃったらしくて、おばあさんももう亡くなってるし一人は無理だから娘さんが面倒見に来るんだって。航佑も時間作って、ご挨拶にいって…」
「急いでるからもう行く」
そう言って、母さんの話をさえぎって俺は家を出た。マフラーがなかったから外はとても寒かった。
母さんの話は本当に不自然だった。じいちゃんの娘なら、季実香の叔母さんだろう。そんなこと考えなくてもわかるのに、母さんは季実香のことを絶対に口に出さない。気持ちはわからないわけじゃない。だが俺はそんな母さんが腹立たしかった。
今日も特別なことは何もなかった。
家に帰るころには、寒さはもっと増していて、あの場は耐えてマフラーを見つけてくるべきだったと後悔した。できるだけ早く帰って自分の部屋のこたつに入ろうと家路を急ぐ。
家に入ると階段をダッシュで上がって、こたつの電源を入れにいく。いや本当に今日は寒い。
だけど部屋の戸を開けた途端、俺は寒さを忘れてしまった。
「おかえりぃ」
ただいま、そっちもおかえり、と俺が言うと季実香は心底驚いた顔をしていた。