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季実香が俺の家の隣に引っ越してきたのは俺達が幼稚園に上がる年だった。
隣の家は元々、季実香の祖父母が2人で暮らしていた。季実香が越してきてからも、隣のじいちゃんばあちゃんは俺のことも孫のように可愛がってくれたし、うちの父さんも母さんも季実香を娘のように大切にしていた。そんな環境だったから俺達はもはや兄弟同然だった。
俺達はたくさんのことを二人で経験してきた。喧嘩も仲直りも初めては季実香とだった。初めてのお遣いも、家出も二人でした。悪戯もたくさんした。じいちゃんを落とし穴にはめてこっぴどく叱られ、家に入れてもらえない、なんてこともあった。
中学生になっても俺たちの関係はあまり変わらなかった。俺はあまり女子と話すタイプではなくなっていたから、何とも言えないむずがゆさを感じなかったわけではないが、季実香のいつものウザ絡みやあの語尾の伸びる聞きなれた口調が結局心地よかった。
高校は別々になったけれど、やはり関係は変わらなかった。一緒にご飯を食べたり、勉強したり、ゲームしたり映画見たり、それが当たり前になっていた。
いつも隣にいて、感じたことを共有して、思ったことを真っ直ぐ言えるそれが僕らの13年続いた、当たり前の関係だった。この先もずっと、おじさんになっても、おじいさんになっても続くと思っていた。
だからまだ遠い世界のことみたいだ。近所の人がいつもよりざわついているのも、母さんが泣いていたのも、それが季実香が死んだせいだということも。映画を見ているようなんだ。それも全然共感しどころのないクソみたいな映画を。