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「うへぇ。灘さん、すごいですね」
翌日、クリスマスの日。灘さんのアパートにつくとすでに野菜などが切られていて俺は驚く。
「あ、そこ。スペース空けといたから。オーブンも使えると思うよ」
エプロン姿の灘さんはそう言い、鍋をかきまぜる。
本格的だなあ。
俺も頑張ろう。
「あ、エプロン持って来たんだ」
「はい、まあ」
鞄からエプロンを取り出した俺を見て、灘さんが目を丸くした。
そんなに驚かなくても、自分だってしてるくせに。
「ふうん。もとは平らなんだ」
スポンジの材料を混ぜ込み、クッキングシートを引いた天板に液体を流し込む俺を見て、彼がふむふむと頷く。午後4時、すっかり下ごしらえを終わらせた灘さんは俺のケーキ作りを見ていた。
「次はチョコ生クリーム作りですね」
俺は天板をオーブンに入れた後、冷蔵庫からチョコレートを取り出す。そして細かく刻み湯せんにかけた。
「すげぇ。溶けていく。食べていい?」
「いいですけど」
俺は子供みたいにはしゃぐ灘さんにチョコレートを溶かしている木じゃくし渡す。すると、それを彼はぱくっと口にいれた。
「灘さん?!」
「あっつ、でもうっまい~~」
唇にチョコレートをたっぷりつけ、灘さんが微笑む。
無邪気な笑顔の中に、妙な色気を感じてしまい、俺は視線をそらした。
イヤイヤ、俺はちょっとおかしなモードに入ってる。
俺の好みは可愛いか、美しいかのどちらかなんだから。
灘さんは対象外。
俺は灘さんから木じゃくしを受け取るとそれを洗い、再び湯せん作業に入った。
「次はどうするの?」
チョコレートをつけたままの彼がそう言い、俺は溜息をつきながら側にあったテッシュボックスからテッシュを取る。
「口拭いてください。次は生クリームを作ります。この溶けたチョコレートと混ぜるのが難しんですよね」
俺は平常心を装い、冷蔵庫から生クリームを取り出す。
「すげぇえ。堅くなっていく!食べていい?」
本当に子供だな、この人。
ハンドミキサーを使って泡だてたチョコレート入り生クリームをじっと見ている灘さんは、本当に子供と一緒だった。
まったく、なんだかなあ。
俺は脱力しながら、スプーンを使って灘さんにクリームをあげる。
「うっまーい。いやあ、忠史に頼んでよかった。まじ幸せ~」
それをぱくっと食べた彼は跳び上がるくらいに喜んだ。
それがあまりにも素直なので、俺は笑ってしまった。
実田さんも可愛いと思ったけど、この人も……。
「あ、いい香り~。ケーキ焼けたのか?」
そんな俺にくるりと背を向け、灘さんはオーブンに近寄る。
「あ、もうすぐですね」
俺は出来た生チョコクリームを冷蔵庫に入れ、彼の隣に立ち、オーブンのケーキの様子を見る。
チンと音がして、俺が天板を取り出す。
「うぉお。すげぇ!」
スポンジはいい感じで焼けていて、俺はほっとした。
後は余熱をとってからだ。俺はスポンジケーキを網の上に落としてクッキングシートをかぶせる。
「クリーム塗るの?」
「後で、です。熱いうちに塗るとふやけちゃいますから」
「あ、それもそうか」
「じゃあさあ、ちょっと休憩しようぜ。お茶かコーヒー何か飲む?」
「あ、じゃあ、お茶ください」
「忠史、お前マジですごいなあ。完成がめっちゃ楽しみ」
「灘さん、本当ケーキ好きですね」
「いやあ、初めて生でケーキ作り見て感動したぜ。すごいよなあ」
俺達はソファに座ってそんなことを話す。
時間は5時だ。
7時からだから丁度いいかもしれない。
「本当。お前、男にしてるのもったいない。女だったらいいのに」
「……そうですか」
俺は曖昧に笑って聞き流す。
俺は女よりも男に興味があるから、その思考がよくわからない。
まあ、灘さんは俺に興味があるのは確かだ。でも、それはやっぱり友達としてだろうなと思う。
よかったかな。
好みでもない、しかも実田先輩の友達に好かれてもしょうがないし。
「もしくは王さんみたいだったらなあ」
「!」
え?今なんて?
「俺はさあ、1年前。王さんが日本にきたばかりのころ、王さんに告白したことあるんだ。もちろん玉砕で、すごく痛かったけど」
「………」
え、灘さん。ノーマル?
しかも秀雄に玉砕なんて、俺と一緒だ。
「王さん、すごい綺麗だろう?だから男だけどいいかなと思ってんだ。でも興味がないからと怒鳴られた時はびびった。だから俺は彼が勇と付き合うことに反対してたんだけど、今の二人見てるとしょうがないなあと思う。勇はすごい素直だから、王さんに騙されてるような気がして心配だっけけど。まあ、本気で好き同志だからなあ。王さん、怖いけど一途だしな」
そうそう。彼は怖い。
でも一途なのは確かだ。
俺は本当に灘さんと同じ気持ちで、おかしくなった。
なんか失恋パターンとかも似てるし、笑える。
「どうした?」
突然笑いだした俺に灘さんが驚く。
「俺も秀雄に振られたんですよ」
「え。お前もか。いやあ。罪な人だな」
「そうそう、罪な人ですよね。っていうか、灘さん、男も大丈夫なんですか?」
「え?!無理無理。でも王さんはほら、綺麗だろう?」
俺の質問にぎょっとして、彼が立ち上がる。少し警戒している様子で俺はなんだか嫌な気持ちになった。
「確かに王さんは綺麗ですよね。心配しないでください。俺も綺麗な人にしか興味はないですから」
俺は台所へ戻ろうとする灘さんにイライラしながらそう言った。
「それは良かったぜ。じゃあ。俺は対象外だな」
すると灘さんは安堵した様子で俺に背中を向けたまま答えた。
結局それからなんだか、お互い無言で料理に集中していた。すると6時過ぎには料理を終えることができた。
「ケーキ、冷蔵庫に入れときますね」
「うわあ。すごいなあ。食べるの楽しみ。じゃ、入れといて」
俺は作ったブッシュドノエルを冷蔵庫に入れてると、灘さんは盛り付けを始める。
「手伝いましょうか?」
「ああ、じゃあさ。テーブルに食器置いてもらっていい?」
「はい」
俺は指差された場所にある食器を4人分掴み、テーブルに置いていく。
そして7時、料理を全てテーブルに並べた時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。